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ヘンデル:合奏協奏曲第9番 ヘ長調 作品6の9

ボイド・ニール指揮 ボイド・ニール弦楽オーケストラ 1952年4月16日~17日録音


多様性に溢れた合奏協奏曲

合奏協奏曲に関してはコレッリの項で少しふれました。

「合奏協奏曲」とは、独奏楽器群(コンチェルティーノ)とオーケストラの総奏(リピエーノ)に分かれ、2群が交代しながら演奏する音楽形式です。コレッリの「合奏協奏曲」は弦楽アンサンブルで演奏されるのですが、その後ヘンデルの時代になると「リピエーノ」に管楽器が導入されることでより華やかさを増していきます。」
そのヘンデルは、この形式で30曲程度の作品を残しているのですが、最も有名なのは作品番号6の12曲です。
と言うか、一般的に「合奏協奏曲」と言えばこの12曲を思いおこすのが普通です。

ちなみに、自分の創作活動を跡づけるものとして作品番号を与えるのは芸術家としての意識が高まるロマン派以降の習慣で、それ以前の時代では出版された順番を示すことが多かったようです。
パガニーニの「24の奇想曲」に「作品番号1」とついているの等はその典型でしょう。

ヘンデルと言えばオラトリオとオペラに創作活動の大部分を注いだ音楽家でしたから、「作品番号6」の器楽曲というとなんだか若書きの作品のような気がするのですが決してそんな事はありません。
この12曲からなる「作品番号6」の合奏協奏曲はヘンデル57歳の頃に作曲されていて、この3年後には「メサイア」が生み出されるのですから、まさにヘンデルの絶頂期に生み出された器楽の傑作と言えます。

この合奏協奏曲は、正式名称が「ヴァイオリンその他の7声部のための12の大協奏曲」となっています。
ここでの「大協奏曲(Grand Concerto)」というのが「合奏協奏曲」のことです。そして、7声部というのは独奏部に第1と第2のヴァイオリンとチェロ、合奏部には第1と第2のヴァイオリンとヴィオラ、さらに通奏低音用のチェンバロから成り立っていることを示しています。楽器編成という点ではかなり小規模な音楽です。

しかし、この「合奏協奏曲集」で驚かされるのは、数あわせのために同工異曲の音楽を12曲揃えたのではなく、その一つ一つが全て独自性を持った音楽であり、一つとして同じようなものはないという点です。
さらに驚くのは、その様な多様性を持った12曲の音楽をわずか1ヶ月程度で(1739年9月29日~10月30日)書き上げているのです。ヘンデルの速筆は夙に有名なのですが、この12曲をこんな短期間で書き上げたエネルギーと才能には驚かされます。

同じバロックの時代にこの作品群と対峙できるのはバッハのブランデンブルグ協奏曲くらいでしょう。そして、この二つを較べれば、バッハとヘンデルの気質の違いがはっきりと見えてきます。

ヘンデルの合奏協奏曲は7声部のためとなっているのですが、幾つかの楽器が同じ声部を演奏するのでそれよりも少ないラインで音楽が構成されていることが少なくありません。それでも、ヘンデルもまたバロックの音楽家なのでそれらの声部をポリフォニックに扱っているのですが、その扱いはバッハと較べればはるかに自由で簡素です。
実際に音楽を聴けばホモフォニックに響く場面も少なくありません。

また、フーガにしてもバッハのような厳格さよりは音楽の勢いを重視して自由さが特徴です。
バッハが厳格で構成的だとすれば、ヘンデルの音楽は明らかに色彩豊かで流動的です。
そんなヘンデルに音楽の「母」をみたのは実に納得のいく話です。

第9番 ヘ長調 作品6の9

全12曲ある合奏協奏曲の中では最も評価の低い作品だといえます。
さすがのヘンデルも12曲全てをそれなりのクオリティで統一するのは難しかったと言うことでしょうか。しかし、それでも真ん中の陀3楽章のラルゲットはシチリアーナのリズム用いた美しい音楽になっているあたりはさすがはヘンデルです。また、冒頭のラルゴ楽章も音楽的には単純ではあるのですが、何処か神秘的な色合いを持っています。
最終楽章の「ジグ」というのはイギリスの古い舞曲の形式で、活発で急速度の舞曲です。


  1. 第1楽章:ラルゴ

  2. 第2楽章:アレグロ

  3. 第3楽章:ラルゲット

  4. 第4楽章:アレグロ

  5. 第5楽章:メヌエット

  6. 第6楽章:ジグ




元アマチュアの音楽家

ボイド・ニールという名前を現在も覚えていえる人がいれば、それはクラシック音楽ファンの中でもかなりの通です。実は、私はこの名前を野村胡堂の著作の中でかろうじて見つけて記憶の片隅に残っていただけでした。
経歴を調べてみると、お医者さんが本業で音楽は趣味として活動していた人だったようです。しかし、1932年に王立音楽院と王立音楽大学に要請されて自分の名前を冠した弦楽合奏団を組織するようになり、1933年6月22日にロンドンで合奏団のお披露目公演が行われて、少しずつプロの音楽家としての歩み始め人だったようです。
それでも、第2次世界大戦が起こると再び医者としての仕事に復帰したようなのですが、戦後は音楽活動に本格的に復帰してアメリカやオーストラリア等にも演奏旅行を行うレベルにまでなったようです。

そんなボイド・ニールにふれていたのが野村胡堂でした。
いや、このペンネームは小説家としてのもので、音楽について書くときは「野村荒戎」を使っていたので、正確には「ボイド・ニールにふれていたのが野村あらえびすでした。」と記すべきでしょう。
荒戎は、その著作「クラシック名盤 楽聖物語」の中で「ヘンデルの器楽曲で、第1にあげなければならないのは、ポリドールにボイド・ニール管弦楽団の入れている合奏協奏曲第6番である。」と述べています。

そして、それに続けて「ボイド・ニールは世間的に華々しい人気を持った団体ではないが、きわめて芸術的な楽団でこの演奏も少し暗いにしても、きわめて良心的なものであることは疑いない。」とし、「コンチェルト・グロッソは他にもいろいろレコードされているが、互いに一得一失があり、結局纏まったボイド・ニールが一番良い」としています。

確かにこの時代に12曲が一定のレベルで纏まっている録音となればそれほど選択肢はなかったのでしょうが、それでもこの録音は今聞いても決して古さは感じません。60年代にマリナーが纏まった録音をしているのですが、後のピリオド楽派の連中からみれば、よほどこちらの方が新しく聞こえるのではないでしょうか。

1950年から53年にかけて録音されたものですが、この当時のデッカ録音の優秀さを証明するかのような音です。

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