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Home|シュナーベル(Artur Schnabel)|モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番

モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番

シュナーベル 指揮:アルトゥール・ロジンスキー ニューヨーク・フィル 1946年録音



Mozart:ピアノ協奏曲第23番「第1楽章」

Mozart:ピアノ協奏曲第23番「第2楽章」

Mozart:ピアノ協奏曲第23番「第3楽章」


ヴェールをかぶった熱情

モーツァルトにとってイ長調は多彩の調性であり、教会の多彩なステンドグラスの透明さの調性である。(アルフレート・アインシュタイン)

モーツァルトは、k466(ニ短調:20番)、K467(ハ長調:21番)で、明らかに行き過ぎてしまいました。そのために自分への贔屓が去っていくのを感じたのか、それに続く二つのコンチェルトはある意味での先祖帰りの雰囲気を持っています。
構造が簡単で主題も明確、そしてオケとピアノの関係も常識的です。
事実、この作品で、幾ばくかはウィーンの聴衆の支持を回復することができたようです。

しかし、一度遠い世界へとさまよい出てしまったモーツァルトが、聴衆の意を迎え入れるためだけに昔の姿に舞い戻るとは考えられません。そう、両端楽章に挟まれた中間のアンダンテ楽章は紛れもなく遠い世界へさまよい出たモーツァルトの姿が刻印されています。
それは深い嘆きと絶望の音楽です。
ただし、そのようなくらい熱情はヴェールが被されることによって、その本質はいくらかはカモフラージュされています。このカモフラージュによってモーツァルトはかろうじてウィーンの聴衆の支持をつなぎ止めたわけです。
遠い世界へさまよい出ようとするモーツァルトと、ウィーンの聴衆の支持を引き止めようとするモーツァルト。この二つのモーツァルトの微妙な綱引きの狭間で、奇跡的なバランスを保って成立したのがこの作品でした。しかし、そのような微妙なバランスをいつまでも保ち続けることができるはずがありません。
続くK491(ハ短調:24番)のコンチェルトでモーツァルトはそのくらい熱情を爆発させ、そしてウィーンの聴衆は彼のもとを去っていきます。


アダージョの聖人

こればっかり言っていると、シュナーベルは歌うだけの人かと言われそうですが、やはりここでも一番素晴らしいのは中間のアンダンテ楽章です。ちょっと雑音が入るのが残念です。
ヴェールをかぶった熱情という表現にピッタリの演奏です。

それから、この録音、シュナーベルが第3楽章で止まってしまいます。これに関して掲示板に次のような書き込みをいただきました。素晴らしいお話だったので、こちらへも紹介させていただきます。

シュナーベルほどの大家でも、けっこう度忘れして音楽が途切れたり堂堂巡りすることがあったようです。
たとえばこんな話も伝わってますよ。

「シュナーベルの演奏には内的な静けさと確実さがあり、これは彼自身の生活やステージ上での振る舞いにも及んでいた。彼はいちどブルーノ・ワルター指揮のニューヨーク・フィルハーモニックとブラームスの変ロ長調協奏曲を弾いたことがあった。この曲は彼のおはこにひとつで、公開の場所で百回以上も弾いたにちがいない。ところがこのときは、第二楽章で、いずれはどの演奏家にも起こることが訪れた。つまり度忘れである。シュナーベルがこっちへゆくのに、オーケストラはあっちへゆき、聴衆の息も止まる思いのうちに、音楽は中断してしまった。ワルターは青くなった。シュナーベルはただ、にやっと笑い、肩をすくめ、ピアノから立ち上がり、指揮者のほうに近寄った。二つの白髪はスコアをのぞきこみ、つぶやくような指示がオーケストラに与えられ、シュナーベルはピアノに戻り、音楽はまた始まった。ほかのピアニストなら、精神的なショックと困難を乗り越えるのも不可能だったろう。シュナーベルにはそうではなかった。彼はそれまでと同じように見事に弾き続けた。聴衆にこの失敗を忘れさせようとして、もしかしたら、それまで以上に見事だったかもしれない」
(ハロルド・C・ショーンバーグ著、中河原理・矢島繁良訳、「ピアノ音楽の巨匠達」より)

なんだか古典劇の名場面を見ているような描写ですねd(^-^)

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2008-05-18:Massey





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