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ボイド・ニール(Boyd Neel)|ヘンデル:合奏協奏曲第6番 ト短調 作品6の6
ヘンデル:合奏協奏曲第6番 ト短調 作品6の6
ボイド・ニール指揮 ボイド・ニール弦楽オーケストラ 1951年4月19日~20日録音
Handel:Concerto Grosso in G Minor, Op. 6, No. 6, HWV 324 [1.Larghetto (e) affettuoso]
Handel:Concerto Grosso in G Minor, Op. 6, No. 6, HWV 324 [2.A tempo giusto]
Handel:Concerto Grosso in G Minor, Op. 6, No. 6, HWV 324 [3.Musette: Larghrtto]
Handel:Concerto Grosso in G Minor, Op. 6, No. 6, HWV 324 [4.Allegro]
Handel:Concerto Grosso in G Minor, Op. 6, No. 6, HWV 324 [5.Allegro]
多様性に溢れた合奏協奏曲
合奏協奏曲に関しては
コレッリの項で少しふれました。
「合奏協奏曲」とは、独奏楽器群(コンチェルティーノ)とオーケストラの総奏(リピエーノ)に分かれ、2群が交代しながら演奏する音楽形式です。コレッリの「合奏協奏曲」は弦楽アンサンブルで演奏されるのですが、その後ヘンデルの時代になると「リピエーノ」に管楽器が導入されることでより華やかさを増していきます。」
そのヘンデルは、この形式で30曲程度の作品を残しているのですが、最も有名なのは作品番号6の12曲です。
と言うか、一般的に「合奏協奏曲」と言えばこの12曲を思いおこすのが普通です。
ちなみに、自分の創作活動を跡づけるものとして作品番号を与えるのは芸術家としての意識が高まるロマン派以降の習慣で、それ以前の時代では出版された順番を示すことが多かったようです。
パガニーニの「24の奇想曲」に「作品番号1」とついているの等はその典型でしょう。
ヘンデルと言えばオラトリオとオペラに創作活動の大部分を注いだ音楽家でしたから、「作品番号6」の器楽曲というとなんだか若書きの作品のような気がするのですが決してそんな事はありません。
この12曲からなる「作品番号6」の合奏協奏曲はヘンデル57歳の頃に作曲されていて、この3年後には「メサイア」が生み出されるのですから、まさにヘンデルの絶頂期に生み出された器楽の傑作と言えます。
この合奏協奏曲は、正式名称が「ヴァイオリンその他の7声部のための12の大協奏曲」となっています。
ここでの「大協奏曲(Grand Concerto)」というのが「合奏協奏曲」のことです。そして、7声部というのは独奏部に第1と第2のヴァイオリンとチェロ、合奏部には第1と第2のヴァイオリンとヴィオラ、さらに通奏低音用のチェンバロから成り立っていることを示しています。楽器編成という点ではかなり小規模な音楽です。
しかし、この「合奏協奏曲集」で驚かされるのは、数あわせのために同工異曲の音楽を12曲揃えたのではなく、その一つ一つが全て独自性を持った音楽であり、一つとして同じようなものはないという点です。
さらに驚くのは、その様な多様性を持った12曲の音楽をわずか1ヶ月程度で(1739年9月29日~10月30日)書き上げているのです。ヘンデルの速筆は夙に有名なのですが、この12曲をこんな短期間で書き上げたエネルギーと才能には驚かされます。
同じバロックの時代にこの作品群と対峙できるのはバッハのブランデンブルグ協奏曲くらいでしょう。そして、この二つを較べれば、バッハとヘンデルの気質の違いがはっきりと見えてきます。
ヘンデルの合奏協奏曲は7声部のためとなっているのですが、幾つかの楽器が同じ声部を演奏するのでそれよりも少ないラインで音楽が構成されていることが少なくありません。それでも、ヘンデルもまたバロックの音楽家なのでそれらの声部をポリフォニックに扱っているのですが、その扱いはバッハと較べればはるかに自由で簡素です。
実際に音楽を聴けばホモフォニックに響く場面も少なくありません。
また、フーガにしてもバッハのような厳格さよりは音楽の勢いを重視して自由さが特徴です。
バッハが厳格で構成的だとすれば、ヘンデルの音楽は明らかに色彩豊かで流動的です。
そんなヘンデルに音楽の「母」をみたのは実に納得のいく話です。
第6番 ト短調 作品6の6
第5番と並んで、でヘンデルの合奏協奏曲の中では最も有名であり、同時に最も優れた作品だと評されてきました。そして、第5番がある種の力強さの表現だとすれば、この第6番はある種の悲痛な感情の発露となっています。
冒頭の2楽章はフランス風の序曲であり、第2楽章がフーガになっているのは通例通りです。しかし、この二つの楽章はその様な形式的類似をこえて壮大で悲痛な感情に満たされています。その悲痛な感情は第3楽章のラルゲットの田園的な伸びやかさで癒されます。この第3楽章は合奏協奏曲全体の中でも非常に有名で人気のある音楽になっています。
そして、これに続く第4楽章はまるでヴァイオリン独奏のための協奏曲風であり非常に活気に溢れた音楽です。それと比べると最後のアレグロ楽章は単純で舞曲風の音楽なので昔は前の楽章と順番を入れ替えた方が据わりが良いという人もいたようです。
- 第1楽章:ラウゲット・エ・アッフェットゥオーソ
- 第2楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ
- 第3楽章:ラルゲット
- 第4楽章:アレグロ
- 第5楽章:アレグロ
元アマチュアの音楽家
ボイド・ニールという名前を現在も覚えていえる人がいれば、それはクラシック音楽ファンの中でもかなりの通です。実は、私はこの名前を野村胡堂の著作の中でかろうじて見つけて記憶の片隅に残っていただけでした。
経歴を調べてみると、お医者さんが本業で音楽は趣味として活動していた人だったようです。しかし、1932年に王立音楽院と王立音楽大学に要請されて自分の名前を冠した弦楽合奏団を組織するようになり、1933年6月22日にロンドンで合奏団のお披露目公演が行われて、少しずつプロの音楽家としての歩み始め人だったようです。
それでも、第2次世界大戦が起こると再び医者としての仕事に復帰したようなのですが、戦後は音楽活動に本格的に復帰してアメリカやオーストラリア等にも演奏旅行を行うレベルにまでなったようです。
そんなボイド・ニールにふれていたのが野村胡堂でした。
いや、このペンネームは小説家としてのもので、音楽について書くときは「野村荒戎」を使っていたので、正確には「ボイド・ニールにふれていたのが野村あらえびすでした。」と記すべきでしょう。
荒戎は、その著作「クラシック名盤 楽聖物語」の中で「ヘンデルの器楽曲で、第1にあげなければならないのは、ポリドールにボイド・ニール管弦楽団の入れている合奏協奏曲第6番である。」と述べています。
そして、それに続けて「ボイド・ニールは世間的に華々しい人気を持った団体ではないが、きわめて芸術的な楽団でこの演奏も少し暗いにしても、きわめて良心的なものであることは疑いない。」とし、「コンチェルト・グロッソは他にもいろいろレコードされているが、互いに一得一失があり、結局纏まったボイド・ニールが一番良い」としています。
確かにこの時代に12曲が一定のレベルで纏まっている録音となればそれほど選択肢はなかったのでしょうが、それでもこの録音は今聞いても決して古さは感じません。60年代にマリナーが纏まった録音をしているのですが、後のピリオド楽派の連中からみれば、よほどこちらの方が新しく聞こえるのではないでしょうか。
1950年から53年にかけて録音されたものですが、この当時のデッカ録音の優秀さを証明するかのような音です。
この演奏を評価してください。
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