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シューベルト:交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」 D.944

クーベリック指揮 ロイヤルフィル 1958年11月5日,7日,17日録音

Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [I. Andante ? Allegro, ma non troppo - Piu moto]

Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [II. Andante con moto]

Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [III. Scherzo. Allegro vivace - Trio]

Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [IV. Allegro vivace]


この作品はある意味では「交響曲第1番」です。

天才というものは、普通の人々から抜きんでているから天才なのであって、それ故に「理解されない」という宿命がつきまといます。それがわずか30年足らずの人生しか許されなかったとなれば、時代がその天才に追いつく前に一生を終えてしまいます。

 シューベルトはわずか31年の人生にも関わらず多くの作品を残してくれましたが、それらの大部分は親しい友人達の間で演奏されるにとどまりました。彼の作品の主要な部分が声楽曲や室内楽曲で占められているのはそのためです。
 言ってみれば、プロの音楽家と言うよりはアマチュアのような存在で一生を終えた人です。もちろん彼はアマチュア的存在で良しとしていたわけではなく、常にプロの作曲家として自立することを目指していました。
 しかし世間に認められるには彼はあまりにも前を走りすぎていました。(もっとも同時代を生きたベートーベンは「シューベルトの裡には神聖な炎がある」と言ったそうですが、その認識が一般のものになるにはまだまだ時間が必要でした。)

 そんなシューベルトにウィーンの楽友協会が新作の演奏を行う用意があることをほのめかします。それは正式な依頼ではなかったようですが、シューベルトにとってはプロの音楽家としてのスタートをきる第1歩と感じたようです。彼は持てる力の全てをそそぎ込んで一曲のハ長調交響曲を楽友協会に提出しました。
 しかし、楽友協会はその規模の大きさに嫌気がさしたのか練習にかけることもなくこの作品を黙殺してしまいます。今のようにマーラーやブルックナーの交響曲が日常茶飯事のように演奏される時代から見れば、彼のハ長調交響曲はそんなに規模の大きな作品とは感じませんが、19世紀の初頭にあってはそれは標準サイズからはかなりはみ出た存在だったようです。
 やむなくシューベルトは16年前の作品でまだ一度も演奏されていないもう一つのハ長調交響曲(第6番)を提出します。こちらは当時のスタンダードな規模だったために楽友協会もこれを受け入れて演奏会で演奏されました。しかし、その時にはすでにシューベルがこの世を去ってからすでに一ヶ月の時がたってのことでした。

 この大ハ長調の交響曲はシューベルトにとっては輝かしいデビュー作品になるはずであり、その意味では彼にとっては第1番の交響曲になる予定でした。もちろんそれ以前にも多くの交響曲を作曲していますが、シューベルト自身はそれらを習作の域を出ないものと考えていたようです。
 その自信作が完全に黙殺されて幾ばくもなくこの世を去ったシューベルトこそは「理解されなかった天才の悲劇」の典型的存在だと言えます。しかし、天才と独りよがりの違いは、その様にしてこの世を去ったとしても必ず時間というフィルターが彼の作品をすくい取っていくところにあります。この交響曲もシューマンによって再発見され、メンデルスゾーンの手によって1839年3月21日に初演が行われ成功をおさめます。

 それにしても時代を先駆けた作品が一般の人々に受け入れられるためには、シューベルト?シューマン?メンデルスゾーンというリレーが必要だったわけです。これほど豪華なリレーでこの世に出た作品は他にはないでしょうから、それをもって不当な扱いへの報いとしたのかもしれません。


距離感をとりたくなる音楽

クーベリックによるシューベルの8(9)番は珍しいのではないでしょうか。
調べた範囲では、スタジオでのセッション録音としてはこれが唯一、ライブ録音でも手兵のバイエルンのオケとの69年3月と74年9月の2種類があるだけです。それだけに、それだけに、1958年の11月に5,7,17日と3日間をかけて丁寧にセッション録音されたこの1枚は貴重です。

また、ステレオ録音の初期としては音質はかなり優秀で、ここの楽器の分離や広がりなどは申し分ありません。ただ、そのクリアな音作りにも原因があるのかもしれませんが、60年に集中的に録音したウィーンフィルとくらべれば、オケの響きはいささか「乾燥肌」です。もっとも、基本的な音作りもロイヤルフィルの方はクリアでドライな方向性だったのに対して、ウィーンフィルの方はかなり重めのウェット傾向ですから、違いがよりいっそう際だったのかもしれません。
ただ、あのウィーンフィルとの録音は、シューベルトにしてはいささか重めでウェットに過ぎると思う人もいるでしょうから、そういう人にとってはこちらの方が好ましく思えるかもしれません。

クーベリックは1914年生まれですから、この60年前後と言えば40代です。
世界的ヴァイオリニスト、ヤン・クーベリックを父に持ち、母国の政権を嫌って亡命し、さらにはアメリカでの指揮者稼業でもさんざん苦労した男ですから、40代の若造であっても、ウィーンフィルに気後れするようなことはないとは思います。しかし、このロイヤルフィルとの録音を聞いてみると、ここでのクーベリックは実に自由に楽しく振る舞っています。
ウィーンフィルとの録音ではやはりどこか重いのです。そして、その重さが音楽のあちこちに顔を出します。

そして不思議なのはロイヤルフィルです。
このオケは本当に真面目なオケで、誰を指揮者に迎えても本当に献身的と言っていいほどのいい仕事をします。ここでも、シューベルトの本当の意味でのファーストシンフォニーをシンフォニックに構築しようとするクーベリックの意志に必死で応えようとしています。
管楽器群もよく頑張って、あちこちでいい音色を聞かせてくれています。
音楽がシンと静まるような場面でも、ただ音量が小さくなるだけでなく緊張感のピアニシモを実現しています。特に、この静かな部分の美しさはかなり魅力的です。

ただ、それでも、そこまで頑張っても、最後まで聞き通すといささか冗漫な感は否定できません。もちろん、その責任の半分ずつをクーベリックとシューベルトが分かち合う必要があるのでしょうが、それではどこかの誰かのように力ずくで劇的な物語にすればいいのかというと、それでは今度はシューベルトから苦情が出そうな気もします。
なかなかに料理のしにくい音楽であり、その難しさがクーベリックのような生真面目な指揮者にとっては距離感をとりたくなる理由だったのかもしれません。

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