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ドラティ(Antal Dorati)|ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73
ドラティ指揮 ミネアポリス交響楽団 1957年12月12日録音
Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73 [1.Allegro non troppo]
Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73 [2.Adagio non troppo]
Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73 [3.Allegretto grazioso (quasi andantino)]
Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73 [4.Allegro con spirito]
ブラームスの「田園交響曲」
ブラームスが最初の交響曲を作曲するのに20年以上も時間を費やしたのは有名な話ですが、それに続く第2番の交響曲はその一年後、実質的には3ヶ月あまりで完成したと言われています。ブラームスにとってベートーベンの影がいかに大きかったかをこれまた物語るエピソードです。
第2番はブラームスの「田園交響曲」と呼ばれることもあります。それは明るいのびやかな雰囲気がベートーベンの6番を思わせるものがあるかです。
ただ、この作品はこれ単独で聞くとあまり違和感を感じないでのですが、同時代の他の作品と聞き比べるとかなり古めかしい装いをまとっています。この10年後にはマーラーが登場して第1番の交響曲を発表することを考えると、ブラームスの古典派回帰の思いが伝わってきます。
オケの編成を見ても昔ながらの二管編成ですから、マーラーとの隔絶ぶりはハッキリしています。
とは言え、最終楽章の圧倒的なフィナーレを聞くと、ちらりと後期ロマン派の顔がのぞいているように思うのはユング君だけでしょうか。
「幻」の全集
ドラティのブラームス交響曲全集には「幻」という言葉が冠せられることが多いようです。まあ、こう言えば聞こえはいいのですが、要はほとんど話題になることもなく「無視」されてきた録音だと言うことです。
確かに、ドラティと言えばまずはハイドン、そしてストラヴィンスキーのバレエ音楽、さらには同郷のバルトークやコダーイなんかに優れた適正を示したという印象はあっても、ベートーベンやブラームスみたいなドイツ・オーストリア系の正統派(ってなにが正統なのよ・・・という正統な突っ込みはひとまず脇において)音楽とはなんだかミスマッチな気がします。
ところが、実際に聞いてみると、例えばベートーベンなんかは確かにガタイは小さいのですが、とんでもなくパキパキとした演奏で、よく言えばリズムが立っているというのか、とにかくオケの整理の仕方が尋常ではないのです。ある意味では後年の古楽器による演奏を思わせる風情があるのですが、根本的にオケの響きのクオリティが違います。どの録音を聞いても最後のフィナーレでは見事なまでの盛り上がりを聞かせてくて、レイホヴィッツの録音などと同様に時代の制約を超えた演奏だと言えます。
そして、それとほぼ同じ事が、このブラームスの録音にもいえます。
ドラティによるブラームスは以下のような順で録音されています。
- ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73・・・ミネアポリス交響楽団 1957年12月12日録音
- ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68・・・ロンドン交響楽団 1959年6月16日&18日録音
- ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98・・・ロンドン交響楽団 1963年7月11日&13日録音
- ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90・・・ロンドン交響楽団 1963年7月13,14日&16日録音
最初の第2番だけが手兵のミネアポリス交響楽団を使い、残りの3曲はロンドン交響楽団を使っています。
ドラティはミネアポリス交響楽団を1960年まで率いていたので、少なくとも59年録音の第1番ではこの手兵を使って録音するのが普通だと思うのですが、その普通のことをしなかったあたりにドラティの意気込みみたいなものを感じます。
この全集の録音プロデューサーは全てウィルマ・コザードです。
コザードは、モノラルならば一本のマイク、ステレオ録音になってからは左右に一本ずつ追加して合計で3本というスタイルを厳格に守り続けた人です。いわゆるワンポイント録音という手法で、3トラックに録音した音を2チャンネルにトラックダウンするだけですから、録音してからの調整などはほとんどできません。
ですから、録音してからいかようにも料理できるマルチマイク録音と違って、演奏する側に一切の誤魔化しを許さない録音スタイルでした。
ですから、上手に化粧を施された最新録音を聞きなれた耳からすれば、ミネアポリス交響楽団との録音は「荒さ」みたいなものを感じるのですが、誤魔化し無しでこれだけ演奏できれば実は大したものなのです。
しかし、残りの3曲をロンドン交響楽団で聴いてしまうと違いは歴然としてしまいます。この時代のロンドン響は凄いのです。
ドラティという人は「オーケストラ・ビルダー」であると同時に本職の「作曲家」でもあったのですが、そういう現在の作曲家としての目で音楽を一から見直せば鋭い切れ味抜群のリズムとテンポで音楽を再構築したくなるようです。そして、その本能を満たすにはミネアポリスのオケでは役不足と感じたのでしょう。
特に、63年にまとめて録音された3番と4番は実に素晴らしい演奏です。
個人的には、第3番の最後の二つの楽章がとりわけ気に入りました。そう言えば、このピアニシモで終わるこのフィナーレが苦手で、聞くと必ず眠ってしまうなんて書いたことがあったのですが、ドラティとロンドン響との演奏ではそんな愚かなことは絶対に起こりません。
第4番の第2楽章のしみじみした雰囲気も秀逸なのですが、それよりも決して「枯れてはいない」ブラームスの姿がはっきりと聞き取れる音楽の作りが実に凄いです。
この二つの録音がなければ、いささか行儀のよすぎる1番のロンドン響よりも、ある程度の「荒さ」が牧歌的な第2番に妙にマッチしているミネアポリスの方が好ましく思う面もありました。
しかし、63年に録音された二つのブラームスの世界は、残念ながらミネアポリスとのオケでは実現できない世界であったことは否定しようがありません。
長く無視されながらも最近になって「幻」という定冠詞がついた所以でもあったのでしょう。
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