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ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調

オイゲン・ヨッフム指揮 ベルリンフィル 1964年1月録音

Anton Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [1.Allegro moderato]

Anton Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [2.Scherzo. Allegro moderato]

Anton Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [3.Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend]

Anton Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [4.Finale. Feierlich, nicht schnell]


ブルックナーの最高傑作

おそらくブルックナーの最高傑作であり、交響曲というジャンルにおける一つの頂点をなす作品であることは間違いありません。
もっとも、第9番こそがブルックナーの最高傑作と主張する人も多いですし、少数ですが第5番こそがと言う人もいないわけではありません。しかし、9番の素晴らしさや、5番のフィナーレの圧倒的な迫力は認めつつも、トータルで考えればやはり8番こそがブルックナーを代表するにもっともふさわしい作品ではないでしょうか。

実際、ブルックナー自身もこの8番を自分の作品の中でもっとも美しいものだと述べています。

規模の大きなブルックナー作品の中でもとりわけ規模の大きな作品で、普通に演奏しても80分程度は要する作品です。
また、時間だけでなくオーケストラの楽器編成も巨大化しています。
木管楽器を3本にしたのはこれがはじめてですし、ホルンも8本に増強されています。ハープについても「できれば3台」と指定されています。
つまり、今までになく響きがゴージャスになっています。ともすれば、白黒のモノトーンな響きがブルックナーの特徴だっただけに、この拡張された響きは耳を引きつけます。

また、楽曲構成においても、死の予感が漂う第1楽章(ブルックナーは、第1楽章の最後近くにトランペットとホルンが死の予告を告げる、と語っています)の雰囲気が第2楽所へと引き継がれていきますが、それが第3楽章の宗教的ともいえる美しい音楽によって浄化され、最終楽章での輝かしいフィナーレで結ばれるという、実に分かりやすいものになっています。
もちろん、ブルックナー自身がそのようなプログラムを想定していたのかどうかは分かりませんが、聞き手にとってはそういう筋道は簡単に把握できる構成となっています。

とかく晦渋な作品が多いブルックナーの交響曲の中では4番や7番と並んで聞き易い作品だとはいえます。


出来れば手兵のバイエルン放送交響楽団だけで全集を完成させてほしかった

ヨッフムのブルックナーと言えば一つのブランドでもあります。ただし、トップブランドではなく、それでも、いつの時代にも根強い支持者が存在する老舗ブランドという風情でした。
ですから、彼は生涯に二度、ブルックナーの交響曲全集を完成させています。そして、ここで紹介しているブルックナー録音はその最初の方の全集に収録されているものです。
いうまでもないことですが2度目の全集は1975年から1980年にかけてシュターツカペレ・ドレスデンとのコンビで録音されています。

最初の全集は、バイエルン放送交響楽団とベルリン・フィルを使って録音されていて、録音年順に並べると以下の通りとなっています


  1. 交響曲第5番変ロ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1958年2月

  2. 交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年1月

  3. 交響曲第7番ホ長調 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年10月

  4. 交響曲第9番二短調(ノヴァーク版)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年12月

  5. 交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(1886年稿ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1965年7月

  6. 交響曲第1番ハ短調 (リンツ稿ノヴァーク版): ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1965年10月

  7. 交響曲第6番イ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1966年7月

  8. 交響曲第2番ハ短調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1966年12月

  9. 交響曲第3番二短調(1889年稿ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1967年1月



58年に第5番を録音したときは、それが全集になると言うことは全く想定していなかったでしょう。おそらくは、自分が得意とする作品を単発で世に問うという録音だったと思われます。だからと言うわけではないのでしょうが、この全集の中でも優れた部類の演奏に仕上がっているように感じます。
特に最終楽章の壮大な盛り上がりは結構聴き応えがあります。ただし、この少し前にクナ&ウィーンフィルによるお化けみたいな録音があるのでどうしても印象が薄くなってしまうのが悲しいところです。

この後の録音のスケジュールを眺めてみれば、7,8,9番が64年、4,1番が65年、そして6,2番が66年、3番が67年に録音されて全集として完成していますから、64年1月の8番を録音した時点では全集が視野に入っていたものと想像されます。そして、この全集はベルリンフィルを使って完成させるつもりだったのでしょうが、66年からはオケが手兵のバイエルン放送交響楽団に変わっています。
これもまた、想像の域を出ませんが、おそらくはカラヤン&ベルリンフィルの活動が忙しくなって、ヨッフム相手にブルックナーのマイナー作品なんかは録音している暇がなくなったのでしょう。

しかし、結果的に見れば、オケがここで変わったことはよかったようです。

64年からヨッフムはベルリンフィルとブルックナーの録音をはじめるのですが、64年と言えばすでにカラヤンとの間でベートーベンの交響曲を全曲録音した後です。
カラヤンという男は傲慢な男のように見えて結構賢い奴で、ベルリンフィルの「終身首席指揮者兼芸術総監督」というポストを手に入れても、己のやり方をすぐに押しつけるようなことはしませんでした。それこそ時間をかけて少しずつ自分好みの色に染めていったという雰囲気が濃厚です。そして、その「色に染める」最終過程が61年から62年にかけて行われたベートーベンの交響曲録音でした。

ですから、64年と言えば、ベルリンフィルはすでにドイツの田舎オケの風情は失ってしまい、完全にカラヤンのオケになってしまっていました。そんなオケにヨッフムが乗り込んでみても、すでに「レガート・カラヤン」の色がしみ込みはじめていたこのオケから出てくる響きはどこか軟体動物のようなものでした。
もちろん、こういうオケの響きのような繊細な問題を録音だけで判断するのは危険であることは承知していま。しかし、66年からのバイエルンとの録音から聞くことが出来る響きとは異質であることは間違いありません。例えば、この全集の最後を締めくくる第3番の録音から聞こえてくるオケの響きは、カラヤンの色に染まったオケの響きとは全く異質です。
そして、個人的には、こういう軟体動物のような芯のはっきりしない響きでブルックナーを聞かされるのはあまり嬉しくはありません。

さらに言えば、ベルリンフィルはあまりヨッフムの指示に従っていないようにも思えます。
例えば、8番の最終楽章なんかはヨッフムの意図というよりは「早く済ませてビールでも飲みに行こうぜ!」みたいな雰囲気すら漂います。(^^;

ドイツグラモフォンにしてみればベルリンフィルと組んだ方が売れると判断したのでしょうが、出来れば手兵のバイエルン放送交響楽団だけで全集を完成させてほしかったです。ただし、私が軟体動物のようだと感じた8番の録音に対してヨッフムらしい剛毅さが現れた演奏と絶賛する向きもあるのですから、もしかしたら私の聴き方が悪いのかもしれませんが・・・。

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