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レスピーギ:教会のステンドグラス

ドラティ指揮 ミネアポリス交響楽団 1954年11月録音



Respighi:Church Windows [1.The Fight into Egypy]

Respighi:Church Windows [2.St. Michael The Archangel]

Respighi:Church Windows [3.The Matins of Sonata Chiara]

Respighi:Church Windows [4.St. Gregory The Great]


繊細な響きと爆音の不思議な融合

レスピーギは熱烈な古代ローマ帝国の賛美者というアナクロニズムの権化みたいな人だったようです。そして、その性行が歴史に埋もれつつあった17世のイタリア音楽のハックという作業に向かわせました。モンテヴェルディやヴィヴァルディの作品を校訂して出版なども行ったようです。
そして、そう言う作業の中で発掘してきた作品を下敷きにして、それらを現代的な装いにした管弦楽曲をたくさん生み出しました。
それらの作品はどれもが繊細な響きに彩られており、レスピーギ=ローマの松=ブッチャキサウンドと思っている人には、是非とも一度は聞いて欲しい音楽です。

教会のステンドグラス



日本国内では長きにわたってほとんど「無名」に近い作品だったのですが、聞くところによると森田一浩さんなる方によって吹奏楽用に編曲され、さらにはその中の「第2曲 大天使ミカエル」がコンクールの定番課題曲として定着することで、その筋ではすっかり有名な作品となっているようです。
調べてみると、森田一浩氏はこれ以外にも「ローマの祭」も吹奏楽用に編曲もしており、「吹奏楽の魅力≒ぶっちゃきサウンド」という公式を定着させる上では大きな貢献(?)を為したようです。ただし、この点についてこれ以上深入りすると矢玉が飛んできそうなので、この話はここまで。(^^;

レスピーギの一連の作品系列のなかでは「ローマの松」と「ローマの祭」の間に入りますので、レスピーギのぶっちゃきサウンド路線の落とし子であることは間違いありません。しかし、管弦楽法の大家といわれたレスピーギの腕は、そう言う大音量だけでなく繊細な響きにも遺憾なく発揮されていて、そのあたりが「祭」ほどには下品にはなりきっていない要因になっています。


  1. エジプトへの逃避 -La fuga in Egitto

  2. 大天使ミカエル -San Michele Arcangelo(昨今のSFX映画を彷彿とさせるような音楽ですね)

  3. 聖クララの朝の祈り -Il Mattutino di Santa Chiara

  4. 偉大なる聖グレゴリウス -San Gregorio Magno(ピアノ曲「グレゴリオ聖歌による3つの前奏曲」を管弦楽曲に編曲したときに追加されたもので、ぶっちゃき度はナンバー1です)




オレはホントはこういう音楽をしたいんだよ

ドラティとマーキュリーレーベルといえば真っ先に思い浮かぶのが、チャイコフスキーの序曲「1812年」です。当時、世界中で200万枚売れたという超ベストセラーであり、このレーベルの録音の素晴らしさを世に知らしめた1枚です。陸軍士官学校のカノン砲がぶっ放され、72個の鐘が壮大に鳴り響くというのがこの録音の売りなのですが、確かにその迫力たるや尋常のものではありませんでした。

しかし、そういうカノン砲や鐘の音ばかりが話題になった録音なのですが、真面目に聴き直してみると意外なほどに演奏が素晴らしいことに驚かされたものです。これほどの高解像度の録音でもほとんど破綻を感じさせないオケの力量は、偉大なるオーケストラトレーナーだったドラティによる鍛錬のたまものでした。
そして、こういう大仕掛けのもとではともすれば緩みがちになり、粗っぽくもなってしまいがちな音楽をキリリと引き締めて、この冗談のような絵巻物を最後の最後まで大真面目に演じきっていました。
おそらくは、レーベルの側からは冗談みたいな音楽を要請されたのでしょうが、その冗談みたいな要請をこなしながらも、最低限の節度は保って音楽として成り立たせているあたりにドラティの良心を感じたものです。

そして、そう言う音楽家としての良心がこのレスピーギの一連の録音には如実に表れています。

オーディオが広く普及し、その「威力」を世に知らしめるためには、レスピーギの管弦楽曲は最適のアイテムでした。とりわけ、ローマの松は極限のピアニッシモから爆発するフォルティッシモまで含んでいますから、まさにオーディマニア御用達の音楽といえました。
ドラティもまた、モノラルの時代に一度、そしてステレオ録音になってからもう一度録音を行っています。

ところが、ドラティの方は、その爆発する部分が意外と大人しいのです。
これを残念と見る向きも多く、そして私もその一人なのですが、どうやら、ドラティという人は最期の最後で「アホ」になることが出来ない人だったようです。当然、やろうと思えばやれたはずなのですが、それをやらないところにドラティという人の本質が潜んでいるように思います。

例えば、あのカラヤンでさえそのあまりの下品さ故に録音しなかったという「ローマの祭」をドラティはモノラルの時代に一度だけ録音しています。(モノラルとは言っても、さすがのマーキュリー録音で、実に見事ものです)
ブッチャキサウンド満載の音楽をギリギリのところでそれなりの佇まいのなかに押さえ込んでいます。

その事は、この「教会のステンドグラス」にもあてはまります。あのSFX音楽を思わせるような「大天使ミカエル」でもどこか控えめですし、最後の「偉大なる聖グレゴリウス」においても事情は同様です。
その事は、ローマ三部作に次ぐ彼の代表作である「リュートのための古風な舞曲とアリア」、さらには他の人がほとんど取り上げない「鳥」とか「ブラジルの印象」のような作品でこそ素晴らしい演奏を聴かせてくれることにつがっています。

バロック時代のクラブサンやリュートの音楽を下敷きにした繊細な響きを、実に美しく響かせていくドラティを聞いていると、オレはホントはこういう音楽をしたいんだよ・・・という声が聞こえてきそうです。
自慢のオーディオシステムで爆音を轟かせるのもいいのですが、そういう繊細な響きを楽しむのも悪くない話です。

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