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ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 Op.93

モントゥー指揮 サンフランシスコ交響楽団 1950年2月28日録音

Beethoven:Symphony No.8 in F major Op.93 [1.Allegro vivace e con brio]

Beethoven:Symphony No.8 in F major Op.93 [2.Allegretto scherzando]

Beethoven:Symphony No.8 in F major Op.93 [3.Tempo di Menuetto]

Beethoven:Symphony No.8 in F major Op.93 [4.Allegro vivace]


谷間に咲く花、なんて言わないでください。

初期の1番・2番をのぞけば、もっとも影が薄いのがこの8番の交響曲です。どうも大曲にはさまれると分が悪いようで、4番の交響曲にもにたようなことがいえます。

 しかし、4番の方は、カルロス・クライバーによるすばらしい演奏によって、その真価が多くの人に知られるようになりました。それだけが原因とは思いませんが、最近ではけっこうな人気曲になっています。

 たしかに、第一楽章の瞑想的な序奏部分から、第1主題が一気にはじけ出すところなど、もっと早くから人気が出ても不思議でない華やかな要素をもっています。

 それに比べると、8番は地味なだけにますます影の薄さが目立ちます。

 おまけに、交響曲の世界で8番という数字は、大曲、人気曲が多い数字です。

 マーラーの8番は「千人の交響曲」というとんでもない大編成の曲です。
 ブルックナーの8番についてはなんの説明もいりません。
 シューベルトやドヴォルザークの8番は、ともに大変な人気曲です。

 8番という数字は野球にたとえれば、3番、4番バッターに匹敵するようなスター選手が並んでいます。そんな中で、ベートーベンの8番はその番号通りの8番バッターです。これで守備位置がライトだったら最低です。

 しかし、ユング君の見るところ、彼は「8番、ライト」ではなく、守備の要であるショートかセカンドを守っているようです。
 確かに、野球チーム「ベートーベン」を代表するスター選手ではありませんが、玄人をうならせる渋いプレーを確実にこなす「いぶし銀」の選手であることは間違いありません。

 急に話がシビアになりますが、この作品の真価は、リズム動機による交響曲の構築という命題に対する、もう一つの解答だと言う点にあります。
 もちろん、第1の解答は7番の交響曲ですが、この8番もそれに劣らぬすばらしい解答となっています。ただし、7番がこの上もなく華やかな解答だったのに対して、8番は分かる人にしか分からないと言う玄人好みの作品になっているところに、両者の違いがあります。

 そして、「スター指揮者」と呼ばれるような人よりは、いわゆる「玄人好みの指揮者」の方が、この曲ですばらしい演奏を聞かせてくれると言うのも興味深い事実です。
 そして、そう言う人の演奏でこの8番を聞くと、決してこの曲が「小粋でしゃれた交響曲」などではなく、疑いもなく後期のベートーベンを代表する堂々たるシンフォニーであることに気づかせてくれます。


気迫に精緻さが追いついた時代

モントゥーのことをかつて「プロ中のプロ」と書いたことがありました。
キャリアには恵まれず、客演活動が中心だったのですが、どのオケにいってもその指揮のテクニックだけで楽団員を信服させてしまい、「独裁せずに君臨する」と言われました。

そんなモントゥーにとって、唯一、手兵とも言えるオケだったのがサンフランシスコ交響楽団でした。
どんな経緯で、フランスからサンフランシスコに流れていったのかは分かりませんが、1935年から17年間にわたってモントゥーはこのオケの音楽監督をつとめています。そして、40年代から50年代にかけてRCAレーベルからこのコンビで40枚近いレコードをリリースしています。

ただし、この一連の録音を聞いてみると、これまたどういう経緯で、かくも多くの録音活動が行われたのだろう、と首をかしげざるを得ません。
何故ならば、40年代の録音を聞いてみると、やけに元気はいいもののかなり荒い演奏をしているからです。

もっと、はっきりと言えば、かなり下手くそなのです。

かくもへたくそなオケに対して天下のRCAレーベルが継続的に録音活動オファーしたというのは、ひとえにモントゥーの商品価値が高かったということなのでしょう。

そして、オケに対して「独裁者」的な立場で望むことをよしとしなかったモントゥーは、実に長い時間をかけてゆっくりとこのへたくそなオケを熟成させていきます。
そう、それはまさに「育て上げる」と言うよりは「熟成」といった方がぴったりな感じで、少しずつ少しずつ完成度を上げていっているのです。

世上に名高い、50年録音の「幻想交響曲」の録音は、ホントに下手くそだった地方オケが、ついに世界レベルにまで熟成したことを世に証明しました。
このコンビの一番良いところは、指揮者がオケを一切締め上げていないことから来る前向きな勢いが横溢していることです。
40年代には、その前向きな勢いだけが前に出すぎて演奏の精度が全く追いついていなかったのが、漸くにしてその両者が良い具合にバランスがとれるようになったのです。

そして、50年代に録音された他の作品においても同これとほぼ同様のことが言えます。

40年代の録音の多くは、録音のクオリティのみならず演奏の質においてもモントゥーの名誉にはならないようなものが多いのですが、50年以降のものはほぼ外れはないようです。
調べてみると、モントゥー&サンフランシスコ響による50年代の主な録音は以下の通りです。


  1. マーラー:『亡き子をしのぶ歌』 1950年2月26日録音

  2. フランク:交響曲ニ短調 1950年2月27日録音

  3. ベルリオーズ:幻想交響曲Op.14 1950年2月27日録音

  4. ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調Op.93 1950年2月28日録音

  5. ショーソン:交響曲変ロ長調Op.20 1950年2月28日録音

  6. ストラヴィンスキー:春の祭典 1951年1月28日録音

  7. ドビュッシー:管弦楽のための『映像』 1951年4月3日録音

  8. ブラームス:交響曲第2番ニ長調Op.73 1951年4月4日録音

  9. ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調Op.60 1952年4月7日録音

  10. シューマン:交響曲第4番ニ短調Op.120 1952年4月7日録音



また、幻想を取り上げたときには、それでもなお「荒いことは荒いです。」とコメントしたのですが、その後、この録音がマイク2本によるワンポイント録音だったことを知り、そのコメントはいささか酷であることに気づきました。
これが後の時代のマルチ録音ならば、そう言う楽器間のバランスの悪さはいかようにも修正が聞くのですが、ワンポイント録音ならば、そこで鳴り響いている楽器のバランスが全てです。録音が終わってから、そのバランスを修正することは不可能です。

さらに、上の録音データを見れば、ほとんど全ての録音が基本的には一発録りだった雰囲気です。
おそらくはコンサートで取り上げた後に、同じ会場で録音したのではないかと思われます。

それらの事を勘定に入れれば、そしてこの時代のオケのレベルを考えれば、かなり精緻な部類に入る演奏だといわねばなりません。
例えば、金管群の弱さなどを感じる部分もあるのですが、それでも、あの下手くそだった地方オケをよくぞここまで熟成させたものだと感心せざるを得ません。そして、不思議なのは、漸くにしてここまで時間をかけて熟成させたオケを54年には手放してしまい、その後はボストン響との関係を深めていったことです。
サンフランシスコ響にしても、モントゥーの後釜は「エンリケ・ホルダ」なる指揮者だったのですから、この「縁切り」はかなりの傷手だったはずです。

やはり不思議な男です。

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