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Home|バーンスタイン(Leonard Bernstein)|マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1963年1月7日 録音

Mahler:Symphony No.5 in C-shar

Mahler:Symphony No.5 in C-shar

Mahler:Symphony No.5 in C-shar

Mahler:Symphony No.5 in C-shar

Mahler:Symphony No.5 in C-shar


純粋な音楽形式が支配している

これはマーラーの使徒の筆頭格であるワルターの言葉です。
「マーラーの最初の4つの交響曲には、意想、想像、感情が浸透しているが、第5から第7までの交響曲には純粋な音楽形式支配している」

確かに、外見的にも声楽が排除されていますし、楽曲の構造でも伝統的な4楽章形式に回帰しています。この第5番も5楽章にはなっていますが、よく言われるように第1楽章は序章的な扱いであり、第2楽章から第5楽章までが割合にきちんとした伝統的な構造を持っています。
 第2楽章:ソナタ形式 嬰ハ短調
 第3楽章:スケルツォ イ短調
 第4楽章:アダージェット ヘ長調
 第5楽章:ロンド・フィナーレ(ロンド形式のようでロンドでない・・・?) ニ長調

ただし、各楽章の調性を見ると、なんの統一性もないというか、希薄というか、そのあたりがやはりマーラー的であることは確かです。
「第5番 嬰ハ短調」と書いてみても、決して「嬰ハ短調」というのが作品全体のトーンを決める調性でないことは明らかですから、このような伝統的な書き方にはあまり意味がないといえます。それでも、前期の作品群と比べると、出来る限り強固な形式感を作品に与えることで、拡散するよりは凝縮的な表現を模索していることは事実です。

それから、どうでもいいことですが、この作品を仕上げる過程でアルマとの結婚を言う大きな出来事がありました。そして、新妻アルマはこの作品がお気に召さなかったというのは有名な話です。彼女にとって、新進気鋭の作曲家であるマーラーにとって、この作品はあまりにも伝統的なものとうつったようです。そんなエピソードからも、この作品の占めるポジションが透けて見えてくるようです。

また、マーラー作品の中で5番のアダージェットだけは有名でした。
ビスコンティの「ヴェニスで死す」で取り上げられたからです。
そんなわけで、マーラーの音楽など誰も聞いたことがないような時代でも、この第4楽章だけは有名でした。

70年代から80年代に入って日本でも頻繁にマーラーが取り上げられるようになるのですが、その頃に、コンサートで第5番をとりあげて第4楽章にくると、「見知らぬ町で突然昔なじみに出会ったような、変な居心地の悪さを感じる」といった人がいました。

ユング君がクラシック音楽を聴き始めたときはまさに「マーラーブーム」に突入していく頃でしたから、マーラーはベートーベンやブラームスと並ぶ定番メニューになりつつありました。ですから、そう言う感じは実感的には分かりにくいのですが、いかにマーラーの音楽が長きにわたって受け入れられなかったかという裏返しの表現だともいえます。

それから、ユング君がコンサートではじめてマーラーを聴いたのがこの第5番でした。
忘れもしない、大阪はフェスティバルホールでのテンシュテットの初来日公演でした。歴史的ともいえるあのコンサートがマーラーの初体験だったとは我ながら凄いと思います。
あの時はテンシュテットに心底感心して、おかげですっかり彼の追っかけになったのですが、おかげであれ以後どんなマーラー演奏を聞いても満足できなくなってしまうと言う「不幸」も背負い込みました。(^^;
当然の事ながら第4楽章にさしかかってもユング君の世代だとそう言う居心地の悪さを感じることもなく、それどころか、あの有名なアダージェットでは、テンションの高さを保ったままのピアニシモの凄さを初めて教えてもらいました。

あれ以後、そのようなピアニシモの凄さを感じたのは、バーンスタインとイスラエルフィルによるマーラーの第9番の最終楽章ぐらいでしょうか。
マーラーと言えばその表現の巨大さばかりが言われますが、本当の凄さはテンシュテットやバーンスタインが聞かせてくれたピアニシモの凄さにこそあるのかもしれないと思う今日この頃です。(^^)


共感をスタンダードへ!!

バーンスタインと言えばマーラーです。しかし、マーラーと言えばバーンスタインと言えるかというとそれは微妙ですが、それでもマーラーの演奏史における役割の大きさは否定できません。
1958年にニューヨークフィルの常任指揮者に就任すると同時に彼の録音活動が本格化するのですが、その中核をなしたのは疑いもなくマーラーでした。

この時代の彼の録音をまとめて聞いているうちに不思議なことに気づきました。
それは、作品へのアプローチが極端に二分しているのです。

一つは、「俺の音楽を聴け!」という「俺さま症候群的な音楽」の作り方で、もう一つは「作曲家視線」で「皆さん、この作品はこういう構造なんですよ!」と懇切丁寧に解説するようなアプローチです。

前者のアプローチは、作品に没頭し、時には指揮台の上でジャンプしていたバーンスタインの姿が思い浮かぶようなアプローチです。
ドヴォルザークやチャイコフスキーなどの録音を聞くと、ものの見事までにこの「俺さま症候群的な音楽」になっています。ヨーロッパの伝統的なアプローチから見ればかなりへんてこな音楽になっているのですが、それでもそんな「お約束」などは気にせず、己の信じた音楽を貫いています。

ところが、ドイツ正統派の王道であるベートーベンの交響曲なんかになると「俺さま症候群的な音楽」は後退してしまいます。逆に、「僕は作曲家だから、こんなにも見事に作品の構造を描き出せるんだよ!」という雰囲気が前面に出てきます。底意地の悪い見方をすれば、さすがに「俺さまのベートーベンを聴け!」という勇気は持てなかった・・・と言うことです。
さらに、共感できないような作品になると「俺さま症候群的な音楽」の作り方ができるはずもないので、「皆さん、この作品はこういう(ココロの中ではおそらく・・・この程度の)音楽なんですよ!」と言う感じで、「作曲家視線」がさらに顕わになります。

もちろん、この時代のバーンスタインの録音がこんなにも簡単に図式的に割り切れるわけはないのですが、それでも大きく的は外れていないように思います。

そこで、マーラーなのですが、これは当然のことながら前者の「俺さま症候群的な音楽」の作り方です。
しかし、ドヴォルザークやチャイコフスキーの録音で感じたような「変てこさ」はありません。マーラーへの深い共感に満ちた演奏でありながら、そこで構築されたマーラー像はこれ以後のマーラー演奏のスタンダードとなり得たのです。

なるほどそうだったのか!!と、勝手にひらめいてしまいました。
そうなんです、彼は、己の感性と共感をフルに発揮して演奏してもヨーロッパの正統的伝統から「間違ってるんじゃない?!」と言われなくてもすむような対象を探していたんだと思います。

マーラーこそは、己が深い共感を持って対峙できる音楽でありながら、同時にヨーロッパの伝統という「垢」というか「苔」というか、そう言うものがほとんどついていない音楽だったのです。
なにしろ、マーラーの弟子だったワルターやクレンペラーが師の作品を何とか多くの人に理解してもらおうと孤軍奮闘が続いていた時代です。それでもなかなか理解は広まらず、一部の現代音楽に強い指揮者が時たま取り上げる程度にとどまっていたのです。
バーンスタインにとって、マーラーこそは漸くにして探り当てた金鉱だったのです。

そして、彼は己に与えられた「録音の自由」という特権を生かしてマーラーの録音に取りかかります。
そこで己に課したことは、「自分が信じ、共感したマーラーの姿をマーラーのスタンダードにする」ことだったはずです。
ベートーベンと言えばフルトヴェングラーであり、モーツァルトと言えばワルターであったように、マーラーと言えばバーンスタインと言ってもらえるような仕事を目指したのです。
そして、その事は実現しました。

弟子あでったワルターやクレンペラーが結局は成し遂げられなかったマーラーの再評価、マーラールネッサンスをこのアメリカの若者は実現したのです。そして、これに続く時代はこの録音を一つの基準として様々なマーラー像が探られていったのです。
もちろん、バーンスタイン自身もこの地点にとどまることなく、再度、新しいマーラー像を問うことになるのですが、それでも、このニューヨーク時代のマーラー演奏の価値は失われることはありません。いわゆる創業者利益みたいなものです。

そして、この徹底的に己を信じ、そう言う己のマーラーへの深い共感をさらけ出した演奏はやはり感動的です。

わずか40歳にして、アメリカ生まれの指揮者として史上初めてアメリカのメジャーオケのシェフに就任するというのは、大変な重圧だったと思うのですが、その重圧を跳ね返して次のステップへと歩を進めることができたのはこのマーラー演奏に対する自信があったからだと思います。
これだけは誰にも負けないというものがあれば、人はかなり幸せに生きていけると言うことなのでしょう。

この演奏を評価してください。

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