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Home|セル(George Szell)|ベートーベン: 交響曲第9番 ニ短調 作品125 「合唱」

ベートーベン: 交響曲第9番 ニ短調 作品125 「合唱」

ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1961年8月21日&22日録音

Beethoven:Symphony No.9 in D m

Beethoven:Symphony No.9 in D m

Beethoven:Symphony No.9 in D m

Beethoven:Symphony No.9 in D m


何かと問題の多い作品です。

ベートーベンの第9と言えば、世間的にはベートーベンの最高傑作とされ、同時にクラシック音楽の最高峰と目されています。そのために、日頃はあまりクラシック音楽には興味のないような方でも、年の暮れになると合唱団に参加している友人から誘われたりして、コンサートなどに出かけたりします。

しかし、その実態はベートーベンの最高傑作からはほど遠い作品であるどころか、9曲ある交響曲の中でも一番問題の多い作品なのです。さらに悪いことに、その問題点はこの作品の「命」とも言うべき第4楽章に集中しています。
そして、その様な問題を生み出して原因は、この作品の創作過程にあります。

この第9番の交響曲はイギリスのフィルハーモニア協会からの依頼を受けて創作されました。しかし、作品の構想はそれよりも前から暖められていたことが残されたスケッチ帳などから明らかになっています。
当初、ベートーベンは二つの交響曲を予定していました。
一つは、純器楽による今までの延長線上に位置する作品であり、もう一つは合唱を加えるというまったく斬新なアイデアに基づく作品でした。後者はベート?ベンの中では「ドイツ交響曲」と命名されており、シラーの「歓喜によせる」に基づいたドイツの民族意識を高揚させるような作品として計画されていました。
ところが、何があったのかは不明ですが、ベートーベンはまったく異なる構想のもとにスケッチをすすめていた二つの作品を、何故か突然に、一つの作品としてドッキングさせてフィルハーモニア協会に提出したのです。
そして出来上がった作品が「第九」です

交響曲のような作品形式においては、論理的な一貫性は必要不可欠の要素であり、異質なものを接ぎ木のようにくっつけたのでは座り心地の悪さが生まれるのは当然です。もちろん、そんなことはベートーベン自身が百も承知のことなのですが、何故かその様な座り心地の悪さを無視してでも、強引に一つの作品にしてしまったのです。

年末の第九のコンサートに行くと、友人に誘われてきたような人たちは音楽は始めると眠り込んでしまう光景をよく目にします。そして、いよいよ本番の(?)第4楽章が始まるとムクリと起きあがってきます。
でも、それは決して不自然なことではないのかもしれません。
ある意味で接ぎ木のようなこの作品においては、前半の三楽章を眠り込んでいたとしても、最終楽章を鑑賞するにはそれほどの不自由さも不自然さもないからです。
極端な話前半の三楽章はカットして、一種のカンタータのように独立した作品として第四楽章だけ演奏してもそれほどの不自然さは感じません。そして、「逆もまた真」であって、第3楽章まで演奏してコンサートを終了したとしても、?聴衆からは大ブーイングでしょうが・・・?これもまた、音楽的にはそれほど不自然さを感じません。

ですから、一時私はこのようなコンサートを想像したことがあります。
それは、第3楽章と第4楽章の間に休憩を入れるのです。

前半に興味のない人は、それまではロビーでゆっくりとくつろいでから休憩時間に入場すればいいし、合唱を聴きたくない人は家路を急げばいいし、とにかくベートーベンに敬意を表して全曲を聴こうという人は通して聞けばいいと言うわけです。
これが決して暴論とは言いきれないところに(言い切れるという人もいるでしょうが・・・^^;)、この作品の持つ問題点が浮き彫りになっています。


ベートーベンの交響曲って、こんなに素敵な音楽だったんだ!!

テレビ朝日で「関ジャニの仕分け∞」という番組をやっています。この番組の中でプロの歌手に子どもや芸人さんがカラオケで挑戦するというコーナーがあります。
例えば、
歌手:葛城ユキに歌うま芸人:阿佐ヶ谷姉妹・渡辺が葛城ユキの持ち歌である「ボヘミヤン」で挑戦するとか
歌手:日野美歌に歌うまキッズのさくらまや(15)が日野美歌の持ち歌である「氷雨」で挑戦する
というようなコーナーです。
はじめは、何かの偶然で聞き始めたのですが、これが実に面白いので、最近はこのコーナーがあると必ず録画をするようにしています。

面白いことに、自分の持ち歌を歌った歌手の方がよく負けます。
勝ち負けはカラオケの採点機能が判断します。私はカラオケには行かない人なので世の中にこんな面白い機械があるなんて知らなかったのですが、実に凄い機械です。

まず、採点基準の原則は音符を外すか外さないかです。スコアに忠実に歌えば歌うほど得点は高くなります。しかし、一音もはずさに歌ったとしても100点満点にはなりません。それに加えて、「こぶし」とか「しゃくり」とか「ロングトーン」というような、歌を美味しく聴かせるような要素がないと加点されないので得点は伸び悩みます。
つまりは、スコアに忠実に歌うことは大前提ですが、そこに加えてその作品が持っている美味しい部分を上手く表現しきらないと高得点にならないのです。一昔前のカラオケの採点機能はスコアへの忠実度だけが対象だったので、歌を聴いて受ける感銘と得点が必ずしも一致しなかったのですが、最近の得点機能はそのような違和感を感じることは非常に少なくなっています。

前ふりが長くなってしまいました。(^^;私が面白いと感じたのはそのような採点機能の凄さではありません。
そうではなくて、この勝負の中で歌われる歌が、どれもこれも「あれっ?この歌ってこんなに素敵な音楽だったかな?」と思ってしまうほどに素晴らしいのです。そして、その素晴らしさは、時には「おおーっ!!」と呻ってしまうほどの凄さだったりするんです。観客席にはその歌を聴いて泣いてしまっている人もいたりするんですが、それがやらせだなどと微塵も思わせないほどにの凄さなのです。
それはもう、日頃聞き慣れた歌とは全く別物になってしまっているのです。

歌手というのは、自分の持ち歌ならばコンサートなどで結構崩して歌っていることが多いです。理由は簡単で、その方が楽だからです。つまり、自分が歌いやすいように適当に音楽を崩して歌い、その崩しを自分のテクニックだと思っている場合が多いのです。
ところが、この勝負でそんな歌い方をすると驚くほど得点が出ません。
最初の頃は、それでも自分のスタイルを崩さずに思い入れたっぷりに大熱唱する歌手もいたのですが、その独りよがりの盛り上がりに反して得点の方は驚くほどの低さだったりしました。

そんな悲惨な光景を何度も見せつけられると、歌手の方も本気でスコアを見直し、自分の癖を全てリセットして本番に望むようになります。当然のことながら、挑戦者の方は最初からスコアだけを頼りに高得点を狙ってきますから「崩し」なんかは入る余地もありません。この二人が本番ではガチンコでぶつかるのですから、これはもう聞き物です。(ちなみに、どうでもいいことですが、この勝負の中から無類の強さでのし上がってきたのが「May J.」です。まさに「歌姫」です。)

おそらく歌っている方は大変だと思います。抑えるべきポイントが山ほどあって、気持ちよく歌い上げているような場面などは皆無なんだろうと思います。いわば、不自由の極みの中で音楽を整然と構築し、さらにはその内容が聞き手にキチンと伝わるようにあらゆるテクニックを計算通りに駆使し続けなければならいなのです。

ところが、そう言う不自由の極みの中で歌い上げられた音楽の何という素晴らしさ!!
手垢にまみれた音楽が、本当にまっさらになってキラキラと魅力を振りまいているのです。
そして、思うのです。

「この歌ってこんなに素敵な音楽だったんだ!!」

クラシック音楽とは何の関係もない話にここまでお付き合いいただいてありがとうございます。
しかし、鋭い人は、どうしてこんな事を言いだしたのかは感づいてくれたと思います。

セル&クリーブランド管によるベートーベン演奏の素晴らしさは、この「関ジャニの仕分け∞」で全て説明できるのです。
手垢にまみれたベートーベンの音楽から手垢の部分を全てリセットし、もう一度スコアだけを頼りにベートーベンの素晴らしさを探究した演奏、それがセルとクリーブランド管による交響曲全集でした。ですから、その演奏からは「あざとい見栄」や「独りよがりの思い入れな」どは一切きれいに洗い流されています。
ですから、そう言う見栄や思い入れが好きな人にとってはあまりにも愛想のない演奏と聞こえます。しかし、ベートーベン姿をスコアに即してもう一度再構築しようとしたこの試みは、ある意味ではベートーベン演奏の再出発地点と言っていいほどの重みを持った演奏だったとも言えます。

ですから、私はこのコンビによる録音を始めて聞いたときにこう思ったのです。
「ベートーベンの交響曲って、こんなに素敵な音楽だったんだ!!」

この演奏を評価してください。

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