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バーンスタイン(Leonard Bernstein)|ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73
バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1962年9月17日録音
Brahms:Symphony No. 2 in D Major, Op. 73 [1st movement]
Brahms:Symphony No. 2 in D Major, Op. 73 [2nd movement]
Brahms:Symphony No. 2 in D Major, Op. 73 [3rd movement]
Brahms:Symphony No. 2 in D Major, Op. 73 [4th movement]
ブラームスの「田園交響曲」
ブラームスが最初の交響曲を作曲するのに20年以上も時間を費やしたのは有名な話ですが、それに続く第2番の交響曲はその一年後、実質的には3ヶ月あまりで完成したと言われています。ブラームスにとってベートーベンの影がいかに大きかったかをこれまた物語るエピソードです。
第2番はブラームスの「田園交響曲」と呼ばれることもあります。それは明るいのびやかな雰囲気がベートーベンの6番を思わせるものがあるかです。
ただ、この作品はこれ単独で聞くとあまり違和感を感じないでのですが、同時代の他の作品と聞き比べるとかなり古めかしい装いをまとっています。この10年後にはマーラーが登場して第1番の交響曲を発表することを考えると、ブラームスの古典派回帰の思いが伝わってきます。
オケの編成を見ても昔ながらの二管編成ですから、マーラーとの隔絶ぶりはハッキリしています。
とは言え、最終楽章の圧倒的なフィナーレを聞くと、ちらりと後期ロマン派の顔がのぞいているように思うのはユング君だけでしょうか。
少しだけ年を重ねて責任を背負った音楽
バーンスタインは1953年に、彼のキャリアとしてははじめての交響曲のスタジオ録音を行っています。すでに、このサイトでも紹介しているのですが、まさに「満を持して」と言う言葉がぴったりの録音でした。
何しろ、6月22日から30日までのわずか1週間あまりの間にベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」(6月22日)・シューマン:交響曲第2番(24日&26日)・ブラームス:交響曲第4番(6月29日)・チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」(6月29日&30日)の4曲も収録しているのです。そして、少し間をおいて7月28日にはドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」を録音しています。
おそらく、デッカからの申し入れを受け入れたときから、この予定されていたセッションまでの間に徹底的にスコアを検討し尽くしたことでしょう。
そして、その中からつかみ取った「己の信じた音楽」を精一杯表現しようとしたことは間違いありません。此処に聞けるものは、ひたすら上を目指して駆け上がっていく若者の音楽であり、その「若さの勢い」はこの上もなく眩しいものでした。
そんなバーンスタインがニューヨークフィルを手中に収め、そして録音に関しても決定権を持つようになった60年代にはいると、当然のことかもしれませんが、雰囲気は少しばかり違ってきます。特に、ブラームスやベートーベンのような作品に顕著なのですが、53年のように自分を出し切ること、言葉をかえれば音楽の中に自分が入り込んでしまうのではなく、そこから少し間をおいて音楽を真っ当に構築しようというような素振りが感じられるようになります。
もちろん、何度も聞かれることを前提とした「録音」と言う行為は一発勝負のライブ演奏とは自ずから変わってきます。ライブならば効果抜群の「見得」も、繰り返し聞かれる録音ではあざといだけになってしまうことはよくあることです。ライブではそこまで気にならないアンサンブルの荒さも録音では耳障りです。
50年代のバーンスタインはただただ自分だけを信じて突っ走ればいいだけの若者でした。しかし、年を重ねて責任を背負えば、バーンスタインのような男でも突っ走るだけの若者ではいられないのです。
ブラームスの交響曲で言えば、最もバーンスタインの気質に合っていると思われる第1番では、作品との距離感は小さいように聞こえます。若いバーンスタインの特長である、強烈な直進性は「やるしかない!!」という思いで始まる第1楽章にぴったりと当てはまっています。最終楽章のコーダの追い込みも、年を取ったらやれないだろうなと思わせるほどの「あざとさ」に満ちています。
第1番の交響曲は2番(62年)・3番(64年)・4番(62年)とくらべるととくらべると録音時期も早いので(60年)、あまり難しいことも考えずにすんでいるような気もします。(??;
そしてふと思ったのは、のだめカンタービレの中で千秋とR☆Sオーケストラが大成功を収めたブラームスって、もしかしたらこんなかんじじゃなかったかな?などと妄想したりもするような音楽になっていますね。
それとくらべると第2番や3番は音楽とバーンスタインの間にかなりの距離感を感じます。
第4番は53年にも取り上げているので(彼の要望だったのかレーベルの要望だったのかは分かりませんが)直接比較が可能なのですが、やはり荒っぽさと勢いが綯い交ぜになった不思議な火照りは後退しています。
しかし、まあそれは普通なんでしょうね。この62年盤にしても、通常のブラ4とくらべれば驚くほどの「明るさ」が前面に出ています。同時代のワルターの舞い落ちる秋の枯れ葉のような演奏を聴いた後にこれを聴けば、ほとんど別の音楽に聞こえることは間違いありません。
ただし、どの作品でも、歌うところは実によく歌っています。それも、晩年のあのネッチリとした歌い方ではなくて、もう少し風通しの良いさわやかな歌い方です。これが、ニューヨークを去ってフリーになってからは、どれを聴いてもバーンスタインの体臭みたいなものがまとわりつくようになるので、それが嫌いな人にとっては好ましく思えるでしょう。もちろん、逆は真でもあるので、その言う体臭が好きな人にとってはあっさりしすぎていて物足りなく思えるでしょう。
ただし、アンサンブルに関して言えば・・・、やはり荒いですね。(^^;
オケのアンサンブルを鍛え上げるには「悪人」にならないといけないのですが、最後までそう言うことができないのがバーンスタインでした。彼は出来上がったオケを使って「自分の音楽」を表現するのは得意でしたが、一から物事を築き上げていくのは苦手な人でした。
ただし、ニューヨークのオケは五月蠅いことを言わないカリスマ型指揮者は好きでも、アンサンブルを鍛え上げるようなトレーナー型の指揮者はあまりお好きではなかったようですので、この組み合わせは彼らにとっては幸せなものだったでしょう。そして、オケのたがが緩んでどうにもならなくなった時点で彼はニューヨークを去り、その後、二度と音楽監督などと言う面倒な仕事を引き受けなかったのは賢明な選択でした。(彼の後を次いだブーレーズの苦労は一方ならないものだったようです)
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