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ブラームス:ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調 Op.60

(P)イェルク・デムス バリリ弦楽四重奏団のメンバー 1956年録音

Brahms:Piano Quartet No.3 in C minor OP.60 [1st movement "Allegro non troppo"]

Brahms:Piano Quartet No.3 in C minor OP.60 [2nd movement "Scherzo. Allegro"]

Brahms:Piano Quartet No.3 in C minor OP.60 [3rd movement "Andante "]

Brahms:Piano Quartet No.3 in C minor OP.60 [4th movement "Finale. Allegro comodo"]


同じ時期に構想された3つのピアノ四重奏曲

ブラームスは生涯に3曲のピアノ四重奏曲を作曲していますが、そのうちの二つは作品番号が25と26ということで、対のような形で創作されています。ブラームスは同じ楽器編成による作品を対で書いたときには、その性格が対照的なものになることが一般的でしたが、その法則性がこの第1番と第2番の四重奏曲では笑ってしまうほどにぴったりと当てはまっています。
誤解を恐れずに言ってしまえば、独創性にあふれていて、さらに哀愁に満ちたロマン派好みの第1番に対して、いかにもブラームスらしい地味で手堅い第2番という対比です。

第1番の四重奏曲は暗い色彩と言われるト短調で書かれているのですが、音楽全体からは若きブラームスの若々しい覇気が伝わってきます。最終楽章ではツィゴイナー風のロンドと呼ばれるようなプレストを持ってきているのですが、それはもうハンガリー舞曲を思い出せるような弾んだ音楽になっています。
おまけに、最後の最後で、ピアノによる雪崩落ちるようなカデンツァで大見得を切った後に弦楽による圧倒的なクライマックスが続くなんてのは恥ずかしいくらいの効果狙いで、最初から最後までブラームスとは思えないような行儀の悪さが貫かれています。

それに対して、第2番の方は調性も伸びやかで輝かしいイ長調を採用し、構成の方も「アレグローアダージョースケルツォーアレグロ」という感じで至ってオーソドックスで行儀の良い音楽に仕上げています。でも、正直言ってちょっと退屈なのです。
演奏機会も含めて最も人気薄なのが第2番です。


下手をすれば演奏時間が40分に近くなってしまう第2番の方は時を経るにつれてポピュラリティを失ってしまい、最近は演奏される機会も少なくなってしまっているようです。
しかし、じっくりと耳を傾けてみれば、実に多彩な材料が駆使されているにもかかわらず、それらが決して散漫になることなく緊密な構成を維持していることや、ピアノと弦楽器のバランスには細心の注意が払われていて、決してピアノが全体を圧倒してしまわないように巧妙に組み立てられている点などは、さすがにブラームスの練達の技がうかがえます。

同じ楽器編成のモーツァルトの作品を演奏するときは、ピアニストがよほどのバランス感覚をもって演奏しないとピアノが弦を圧倒してしまうらしいのですが、ブラームスの場合はピアノにも十分に活躍させながら、それでいて弦とのバランスが決して崩れないように書かれているという話を聞いたことがあります。

そして、もう一つが「ヴェルテル四重奏曲」と呼ばれることもある第3番の四重奏曲で、恩人であるシューマンの自殺とクララに対する実らぬ愛への痛惜の思いが反映した作品です。この第3番は完成したのは一番遅いのですが、着想されたのはシューマンがライン川に投身自殺を図った時期にまで遡るといわれています。

ピアノによるフォルテのハ音で始まり、それに続けて思い詰めたような弦楽部が悲痛な音楽を奏でます。ブラームスはこの作品の楽譜の扉に「ピストルを頭に向けている人の姿を書くといいでしょう」と述べているのですが、まさにこの冒頭のハ音はピストル自殺の場面に出くわしたような思いにさせられます。そして、悲劇的な雰囲気は全く変わることなく、第2楽章では弦楽伴奏付きのピアノ曲かと思うほどに、ピアノが悲痛な叫びをわめき続けます。

ところが、第3楽章だけが突然ホ長調で書かれていて、この部分だけがかろうじて傷ついた心を癒してくれます。
そして、終楽章では再びブルーな気分が全体を支配するのですが、そこではすでに危機は過ぎ去り、彼の顔には諦観表情が浮かぶだけです。最後まで聞き続けるのは結構しんどい音楽です。

こうして並べてみると、第1番だけが特別に人気があるのは分かるような気がします。


こすっからい存在

ブラームスにとって室内楽というのは重要なジャンルなのですが、その中で「ピアノ四重奏曲」が占めるポジションはかなりマイナーです。とりわけ第2番は「退屈」と言うこともあって、この3作品を同一のメンバーでコンプリートしている演奏家はそれほど多くありません。
ですから、ウェストミンスターに残されたバリリ四重奏団+イエルク・デムスのコンビによる録音は、長い間この作品のスタンダードとも言うべき位置を占めていました。

確かに、今風の演奏比べれば縦の線なんかはかなりいい加減ですし、アンダンテやアダージョの楽章なんかになると、いかにもおらが町の音楽はこうなんだ!と言うような土着性(媚び?)を感じさせてくれるます。言葉をかえれば、ブラームスという「おらが町」の音楽家の音楽を「おらが風」に演奏してきた伝統を強く感じさせます。
しかし、こういう音楽の形に安易に「ウィーン風」という形容詞を冠するには注意が必要です。
何故ならば、ウィーンにおける戦前の演奏を聴いてみると意外なほどに端正な演奏をしていることが多くて、いわゆるこういう「ウィーン風」の演奏には出会わないという事実があるからです。

そして、私たちが一般的にイメージする「ウィーン風」の演奏というイメージの少なくない部分が、アメリカのウェストミンスターというレーベルによって作られたのかもしれないという「疑惑」が否定しきれないのです。

ウェストミンスターというレーベルがヨーロッパに乗り込んできたのは40年代の終わり頃でした。
第2次世界大戦の傷手は至る所に残っていて、クラシック音楽の世界と言っても未だに立ち直るには時間と金がいる状況だったのです。そして、そう言う危機的な状況だったが故に、ウェストミンスターという新興レーベルがウィーンの音楽界に食い込むことができたのです。

そして、そう言うレーベルから録音の依頼があったときにウィーンの音楽家連中は考えたはずです。
「海の向こうのアメリカでは鬼のような即物主義が音楽界を席巻しているらしい、・・・それならばそれと同じスタイルで勝負するのはどう考えても得策ではない、・・・当然のことながら、レーベルの方にしても、そんなスタイルの演奏は望んでもいないだろう、・・・それならば、アメリカとは異なった自分たちのスタイルを前面に押し出すことこそが世界市場で売り出していくための武器だ・・・(私の妄想ですが^^;)」
と考えたはずです。

そして生まれたのが、いわゆる「ウィーン風」の演奏だったのです。(言い切っちゃいます!!)

その「ウィーン風の演奏」とは、今まであまり意識もしていなかった自分たちの独特な演奏スタイルを、世界市場で売り出していくための武器として再認識しはじめたが故に、よりデフォルメされた形で昇華した演奏スタイルだったのです。
ですから、私たちが伝統的スタイルと信じてきた「ウィーン風の演奏」とは、マーラーが毛嫌いした「怠惰の別名」としての伝統ではなく、新しく再構築された演奏スタイルにつけられた「戦略的ブランド名」だったのです。

そして、おそらくこの戦略は、その後の歴史を見れば大成功であったことは疑う余地はありません。
極東の島国では、どこの馬の骨ともしれぬオケに「ウィーン○○管弦楽団」という適当な名前を付けてウィンナーワルツを演奏させるだけで客が集まるのです。
「ウィーンブランド」には絶大な力があるのです。
それがご本尊の「ウィーン・フィル」ともなれば、どんなグダグダな演奏であってもブラボーを叫んでくれるのです。

ウィーンという町は言うまでもなくハプスブルグ帝国の都として栄えてきた町です。まさに都市の中の都市であり、それ故に、そこに住まう連中は骨の髄までの都市の人間なのです。
そして、本当の意味での「都市の人間」というのは実にこすっからい存在なのです。

ただし、そう言うこすっからい連中でなければ表現できない味があることを忘れてはいけません。
ピアノのデムスにはそう言う味は薄いのですが、バリリのメンバーは流石の都会人なのです。

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