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Home|レジナルド・ケル(Reginald Kell)|サン=サーンス:クラリネットソナタ 変ホ長調 OP.167

サン=サーンス:クラリネットソナタ 変ホ長調 OP.167

(Cl)レジナルド・ケル (P)ブロック・スミス 1957年5月27日録音



Saint-Saens:Clarinet Sonata, Op.167 [1.Allegretto]

Saint-Saens:Clarinet Sonata, Op.167 [2.Allegro animato]

Saint-Saens:Clarinet Sonata, Op.167 [3.Lento]

Saint-Saens:Clarinet Sonata, Op.167 [4.Molto allegro]


分水嶺に位置した音楽かも?

古いと言われようが、時代遅れと言われようが、これが私の音楽なのです!と、静かに訴えかけるような音楽は聴く人の心をとらえます。

確かに、新しいチャレンジは聞く人をワクワクさせますし、時に困惑させるような不可解さが混じり合っていたとしても聞く人の知的好奇心を満足させてくれます。
しかし、年を経て、そのような新しさには共感できなくなった年寄りが、それでも己の感性とスタイルを失うことなく時代と対峙する姿勢もまた格好いいのです。

サン=サーンスという人は、若い頃から保守的な音楽家だと言われてきました。それ故に、母国フランスでは受け入れられずに不遇な作曲家人生を送ったと書かれているサイトも多いのですが、そんな「不遇な音楽家」が亡くなったときに「国葬」などはされないのです。
「時代遅れの保守的な作風→レベルの低い二流作曲家→音楽史における低い評価→こんな奴は不遇であって然るべき」とでも言うような連想が浮かんだのでしょうか?
しかし、晩年にはレジオンドヌール勲章の最高位であるグラン・クロワも贈呈され、国葬を持ってその死を悼まれたのですから、芸術家としての後世の評価はひとまずおくとしても、現世的にはこれ以上は考えられないほどの栄光に包まれた人生だったといえるのです。

そんな晩年の栄光に包まれたサン=サーンスが、その最後に取り組んだのが、作品に恵まれない楽器(ほとんど顧みられてこなかった楽器)のために新しいレパートリーを提供することでした。結果的には最後の年になってしまった1921年にオーボエやバスーン、クラリネットのためのソナタが完成されたのですが、それらの作品に続けて、さらに「顧みられてこなかった楽器」のための作品を構想していたようなのです。

おかしな言い方になりますが、それらの作品には「時代遅れの音楽家」と言われ続けた男の真骨頂が発揮されています。
クラリネットソナタの冒頭のメロディを聴けば、誰もが「どこかで聞いたことがあるような」既視感にとらわれるはずです。そうです、これはまさに「イタリア映画」の世界です。
そう言えば、サン=サーンスには「世界ではじめて映画音楽を書いた作曲家」という肩書きもあります。

20世紀のクラシック音楽は、そう言うサン=サーンス的な音楽を拒絶して「前衛」という名の果てしなくも虚しい実験を繰り返す中で聞き手を失ってしまいました。しかし、そうしてクラシックな人が顧みなかった音楽を拾い上げて、一段も二段も低い存在と馬鹿にされながら多くの人に聞かれ愛される音楽を書いた人々が次々と登場したのも20世紀という時代でした。
そう思えば、もしかしたらこの作品は聴衆に対する立ち位置を作曲家に問いかけるという意味で、分水嶺に位置した作品なのかもしれません。

果てしない自己満足だけの前衛も願い下げですが、ひたすら聞き手に迎合するだけの音楽も同じくらいに気分が悪くなります。しかし、このサン=サーンスの音楽のように、その両者のせめぎ合う分水嶺の位置をはっきりと意識しながら、絶妙のバランスで音楽を書く能力と意思を持った人がほとんどいなくなったのが20世紀のクラシック音楽の世界でした。

そう言えば、サムラゴウチではなくて新垣さんが書いた交響曲が多くの人に受け入れられた背景には、全聾の作曲家という物語だけでなく、その音楽がサン=サーンス的な分水嶺を意識した音楽だったからかな?などと思ってしまいました。


仕事に行くのがイヤになる演奏

レジナルド・ケル と言えばすでに過去の人となっていますが、そのほんわかとした響きは今もってなかなかに魅力的です。モーツァルトやブラームスのクラリネット作品だけでなく、いろいろなクラリネット小品も録音していて、そう言う小品を次々と聞いていると、「仕事に行くのが嫌になってしまうような魅力」を持っています。
また、聞くところによると、今はクラリネットにはビブラートはかけてはいけないようなのですが、ケルは結構かけまくっています。それが耳障りに聞こえる人もいるでしょうが、私は結構好きです。

そんなわけですから、このイタリアの映画音楽を思わせるようなサン=サーンスの作品もどこか飄々とした風情がただよう演奏に仕上がっています。
そう言えば、ケルはこの作品を録音した1957年に、わずか51歳で引退してしまいます。もちろん、大病を患ったわけでもなく、何かスキャンダルを引き起こしたわけでもなく、引退後は母校での教育活動や出版社にも勤めたことはあったようですが、基本的には1981年になくなるまで悠々自適の隠居生活をおくったようです。

きっと、彼の演奏から漂う雰囲気は、彼自身の人生観からもたらされたものだったのかもしれません。

ウラッハと言いケルと言い、この時代は凄い人がたくさんいたものだと感心させられます

この演奏を評価してください。

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