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Home|グールド(Glen Gould)|バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻(BWV846‐BWV853)

バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻(BWV846‐BWV853)

(P)グールド 1962年6月7,8,14日&9月20,21日録音

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in C major, BWV 846

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in C major, BWV 846

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in C minor, BWV 847

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in C minor, BWV 847

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in C-sharp major, BWV 848

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in C-sharp major, BWV 848

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in C-sharp minor, BWV 849

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in C-sharp minor, BWV 849

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in D major, BWV 850

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in D major, BWV 850

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in D minor, BWV 851

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in D minor, BWV 851

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in E-flat major, BWV 852

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in E-flat major, BWV 852

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Prelude in E-flat minor, BWV 853

Bach:The Well-Tempered Clavier Book1 Fugue in E-flat minor, BWV 853


平均律クラヴィーア曲集「第1巻」

成立過程やその歴史的位置づけ、楽曲の構造や分析などは私がここで屋上屋を重ねなくても、優れた解説がなされたサイトがありますのでそれをご覧ください。


  1. 平均律クラヴィーア曲集

  2. 平均律クラヴィーア曲集 第1巻



などです。

グールドはこの第1巻を8曲ずつ3つの部分に分けて録音(62年・63年・65年)しています。


  1. BWV 846 前奏曲 - 4声のフーガ ハ長調(前奏曲はシャルル・グノーがアヴェ・マリアの伴奏として用いた。)

  2. BWV 847 前奏曲 - 3声のフーガ ハ短調

  3. BWV 848 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ハ長調

  4. BWV 849 前奏曲 - 5声のフーガ 嬰ハ短調

  5. BWV 850 前奏曲 - 4声のフーガ ニ長調

  6. BWV 851 前奏曲 - 3声のフーガ ニ短調

  7. BWV 852 前奏曲 - 3声のフーガ 変ホ長調

  8. BWV 853 前奏曲 変ホ短調 - 3声のフーガ 嬰ニ短調

  9. BWV 854 前奏曲 - 3声のフーガ ホ長調

  10. BWV 855 前奏曲 - 2声のフーガ ホ短調

  11. BWV 856 前奏曲 - 3声のフーガ ヘ長調

  12. BWV 857 前奏曲 - 4声のフーガ ヘ短調

  13. BWV 858 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ヘ長調

  14. BWV 859 前奏曲 - 4声のフーガ 嬰ヘ短調

  15. BWV 860 前奏曲 - 3声のフーガ ト長調

  16. BWV 861 前奏曲 - 4声のフーガ ト短調

  17. BWV 862 前奏曲 - 4声のフーガ 変イ長調

  18. BWV 863 前奏曲 - 4声のフーガ 嬰ト短調

  19. BWV 864 前奏曲 - 3声のフーガ イ長調

  20. BWV 865 前奏曲 - 4声のフーガ イ短調

  21. BWV 866 前奏曲 - 3声のフーガ 変ロ長調

  22. BWV 867 前奏曲 - 5声のフーガ 変ロ短調

  23. BWV 868 前奏曲 - 4声のフーガ ロ長調

  24. BWV 869 前奏曲 - 4声のフーガ ロ短調





グールドは何を求めたのか?

グールドのゴルドベルグ変奏曲に対して「原曲よりグールドの個性が強すぎてついていけません。ほんとにそんなにいい演奏でしょうか。」というコメントが寄せられたときに、なるほど、そんなふうに思う人もいるんだ、と感心させられました。
そもそも「原曲」って何?と言う突っ込みは脇に置くとして、あらためて「グールドの個性」というものについて考えさせられるきっかけとなりました。

クラシック音楽といえども、20世紀のある時期までは、聴衆の興味は「新曲」に向けられていました。それは、ポップス音楽を取り巻く現状と同じです。
聞き手が贔屓筋の音楽家が発表する「新曲」の出来不出来に一喜一憂するというのは、音楽に接する上では一番正しい姿なんだろうと思います。そして、そう言う「正しい世界」においては常に作曲家が王者でした。

しかし、20世紀のある時期を境としてクラシック音楽の世界では「新曲」が登場しなくなりました。そして、不毛の状態が長く続くうちに、ついには新曲が登場すると云う選択肢が聞き手の側から消え去ってしまいました。結果として、クラシック音楽の世界では創作活動を行う作曲家は王者の地位から転げ落ちてしまいました。
そして、変わりに王者の地位に就いたのは「巨匠」と呼ばれるようになった一部の指揮者やピアニスト、ヴァイオリニストたちでした。
何故ならば、「新曲」が出てこないので、既に存在している「旧曲」をどのように玩弄してくれるのかという方向に聞き手の興味が移行したのです。さらに、その「玩弄」のことを「解釈」と呼ぶようになり、そこに「精神性」というスパイスがふりかけられることによって、気がつけば「再現芸術」という新たな芸術領域が出来上がることになってしまったのです。

結果として、かつては巨万の富を手に入れることができた作曲家は今ではアルバイトで口を糊するようになり、逆にただの楽士にすぎなかった演奏家の一部は「巨匠」という尊称と巨万の富を手に入れるようになったのです。

しかし、落ち着いて考えてみると、それはかなり気持ちの悪い光景です。
例えば、ビートルズの「イエスタディ」が素晴らしい名曲だというコンセンサスが出来上がり、それゆえにビートルス以外の音楽家たちも様々な解釈で「イエスタディ」の演奏と録音を求められるようになっったとしたらそれはかなり気持ちの悪い光景です。さらに、その解釈の出来不出来とふりかけられた「精神性」の高低によって彼らがランク付けされるようになったとしたら、その気持ちの悪さは二倍どころか二乗になりそうです。

ところが、クラシック音楽の世界では、そう言う気持ちの悪い光景がごく当たり前の光景になってしまっているのです。そして、驚くべき事に誰もその気持ちの悪さに言及しようとしないのです。

そして、何とも前ふりが長くなりましたが、誰もふれようとしなかったそう言う気持ちの悪い体質に異議申し立てをしたのがグールドなんだと、最近になって気がつくようになってきたのです。

例えば、62年に録音したバッハの平均律では、明らかに彼はバッハの音楽を解釈して演奏しようとはしていません。もしかしたら、バッハの音楽を演奏しているという気持ちもなかったかのようです。
彼にとって、バッハの書いた楽譜は解釈の対象ではなくて、グールド自身が欲する音楽を創造するための素材でしかないかのように聞こえます。
ですから、ここで鳴り響いているのはバッハの音楽ではなく、バッハの楽譜を素材として再創造したグールドの音楽です。

グールドは明らかに「解釈」を拒否しています。彼にとっての演奏という行為は作曲という創造活動と等価のものとして存在しているのです。

その事に思い当たることで、彼がなぜにコンサート活動を拒否したのかがはっきりと理解できました。
創作活動というものは、閉ざされた空間で行う極めて個人的な作業です。聴衆を前にして公開で作曲活動を行う作曲家がいたとすれば、パフォーマンスとしては面白いかもしれませんが、かなりいかがわしいと云わざるを得ません。グールドにとっても事情は同じだったはずです。
彼は作曲家が書いた楽譜を素材として、様々なテンポ、強弱、ニュアンスを試したはずです。そう言う様々なトライの末に生み出された最良の結果が録音として刻み込まれることこそがグールドにとっての「創造活動としての演奏」だったのです。

グールドはよく「コンサートにはテイク2がない」と語っていました。それは演奏ミスを潔しとしないグールドの潔癖性と結びつけられることが多かったのですが、上のような文脈で考えてみれば、様々な可能性にトライすることができないコンサートという「形式」の無意味さといかがわしさを語ったものとして受け取るべきなのでしょう。

ですから、グールドのゴルドベルグ変奏曲に対して「原曲よりグールドの個性が強すぎてついていけません。ほんとにそんなにいい演奏でしょうか。」と感じるのは実にもって当然のことです。
しかしながら確言しますが、そこで鳴り響いているグールドの音楽は(決してバッハの音楽ではない)、例え最初は気に入らなくても、時間をおいて何度かはトライして聴き直す価値は絶対にあります。その時に大切なことは、そこで鳴り響いているのは常にグールドの音楽であるということに気づくことです。使われている楽譜がバッハやベートーベンやモーツァルトであったとしても、鳴り響いているのはいつでもグールドが創造した音楽だと云うことを心にとどめておくことです。
それでも気に入らないというのであれば、それはそれで仕方のないことですし、否定されるべきものではありません。

グールドはなろうと思えば簡単にピアノの巨匠になれたはずです。そして、世界中のコンサート会場を駆けめぐって巨万の富を手に入れることもできたはずです。
しかし、彼はそう言う気持ちの悪い世界にどっぷりつかり込むにはあまりにも真面目で潔癖にすぎました。

グールドこそは巨匠と呼ばれた数多くのピアニストたちとは次元の違う存在でした。もちろん、その次元の違いは価値の高低を意味していません。意味しませんが、巨匠はクラシック音楽の世界が持っている気持ちの悪さを温存する存在であり、逆にグールドはそう言う気持ちの悪さに風穴を開ける存在だったと云う意味での次元の違いです。そして、私は何があってもグールドを愛します。

悲しいのは、彼と同じ道を歩もうとする人が二度と現れなかったことです。

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