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ベートーベン: 交響曲第7番 イ長調 作品92

フリッチャイ指揮 ベルリンフィル 1960年10月録音



Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第4楽章」


深くて、高い後期の世界への入り口

 「不滅の恋人」は「アマデウス」と比べるとそれほど話題にもなりませんでしたし、映画の出来そのものもいささか落ちると言わなければなりません。しかし、いくつか印象的な場面もあります。(ユング君が特に気に入ったのは、クロイツェル・ソナタの効果的な使い方です。ユング君はこの曲が余りよく分からなかったのですが、この映画を見てすっかりお気に入りの曲になりました。これだけでも、映画を見た値打ちがあるというものです。)

 それにしても、「アマデウス」でえがかれたモーツァルトもひどかったが、「不滅の恋人」でえがかれたベートーベンはそれに輪をかけたひどさでした。
 第9で、「人類みな兄弟!!」と歌いあげた人間とは思えないほどに、「自分勝手」で「傲慢」、そしてどうしようもないほどの「エキセントリック」な人間としてえがかれていました。一部では、あまりにもひどすぎると言う声もあったようですが、ユング君は実像はもっとひどかったのではないかと思っています。
 
 偉大な音楽家達というものは、その伝記を調べてみるとはっきり言って「人格破綻者」の集まりです。その人格破綻者の群の中でも、とびきりの破綻者がモーツァルトとベートーベンです。
 最晩年のぼろ屑のような格好でお疾呼を垂れ流して地面にうずくまるベートーベンの姿は、そのような人格破綻者のなれの果てをえがいて見事なものでした。

 不幸と幸せを足すとちょうど零になるのが人生だと言った人がいました。これを才能にあてはめると、何か偉大なものを生み出す人は、どこかで多くのものを犠牲にする必要があるのかもしれません。

 この交響曲の第7番は、傑作の森と言われる実り豊かな中期の時期をくぐりぬけ、深刻なスランプに陥ったベートーベンが、その壁を突き破って、後期の重要な作品を生み出していく入り口にたたずむ作品です。
 ここでは、単純きわまるリズム動機をもとに、かくも偉大なシンフォニーを構築するという離れ業を演じています。(この課題に対するもう一つの回答が第8交響曲です。)
 特にこの第2楽章はその特徴のあるリズムの推進力によって、一つの楽章が生成発展してさまをまざまざと見せつけてくれます。

 この楽章を「舞踏の祝祭」と呼んだのはワーグナーですが、やはり大したものです。

そしてベートーベンはこれ以後、凡人には伺うこともできないような「深くて」「高い」後期の世界へと分け入っていくことになります。


「誠実」なベートーベン

この翌年に録音された「運命」ほどではないですが、これもまた「精緻」さへの指向性を明らかにした演奏です。運命ほどに遅いテンポではないので、そう言う「精緻」さへの指向性よりは悠然としたスケール感の方に耳がとらわれるのですが、やはり目指しているのは「精緻」さだと思います。

フリッチャイにとって60年という年は実りの多い一年でした。
前年の秋には死線をさまよった白血病も一時的に寛解を迎えたようで、その闘病期間中のことを振り返って「何がよくて何が悪いか、なぜ自分は音楽家 になったか、他の人間を指揮するという課題は何を伴っているかということについて考える時間があったのである。 結局私は、これまでよりもいや増して真剣に、いっそうの責任感をもって自分の職業と使命とを把握しなければなら ないということを悟った。」と述べています。
60年という年は、そのような「覚悟」を持って指揮活動を再開した年だったのです。

そして、彼が「使命」と把握したのは、売れることや評価されることではなくて、作品そのもののが持っている価値をいかにして再創造できるかの一点だったのではないかと思います。

この録音にしっかりと耳を傾ければ、悠然としたテンポの中で音楽の折り目が鮮やかに浮かび上がっていることに気づきます。楽器間のバランス感覚が絶妙で、管楽器の印象的なフレーズが弦楽器群をほんの少し抑え気味にすることでクッキリと浮かび上がらせています。そして、その弦楽器群も低弦楽器の深々とした響きに下支えされることで、厚みのあるしなやかさを失うことがありません。
そして、ベートーベンの音楽を特徴づけるデュナーミクの拡大も非常に丁寧に実施されます。楽器に楽器が加えられて大きなクライマックスを築き上げていく場面がベートーベンの音楽にはあちこちに登場するのですが、その積み上げが極めて丁寧に処理されているので、その効用が暴力的な荒々しさに堕することが全くありません。もしかしたら、そう言う場面ではもっと「盛り上がってほしい」と思う人もいるかもしれませんが、そのようなことは彼にとってはただのあざとい「効果」としか思えなかったのでしょう。

ひと言で言えば、この上もなく「誠実」なベートーベンです。

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