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ベイヌム(Eduard van Beinum)|シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47
Vn.:ヤン・ダーメン ベイヌム指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1952年5月録音
Sibelius:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47 「第1楽章」
Sibelius:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47 「第2楽章」
Sibelius:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47 「第3楽章」
シベリウス唯一のコンチェルト
シベリウスはもとはヴァイオリニスト志望でした。しかし、人前に出ると極度に緊張するという演奏家としては致命的な「欠点」を自覚して、作曲家に転向しました。これは、後世の人々にとっては有り難いことでした。ヴァイオリニストとしてのシベリウスならば代替品はいくらでもいますが、作曲家シベリスの代わりはどこにもいませんからね。
そんなわけで、シベリウスにとってヴァイオリン協奏曲というのは「特別な思い入れ」があったようです。
作曲されたのは2番の交響曲を完成させて、作曲家としての評価を確固たるものとした時期でした。1903年に彼はこの作品に取り組みはじめ、そして年内に一応の完成をみます。その翌年には初演も行われたのですが、評価はあまり芳しいものではなかったようです。
そして、その翌年の05年に彼はベルリンでブラームスのヴァイオリン協奏曲を「聞いてしまいます。」
シベリウスの基本は交響曲であり、民族的な素材に基づいた交響詩です。ですから、彼はこのコンチェルトを書くときも、独奏楽器の名人芸をひけらかすだけのショーピースとしてではなく、交響的な響きをともなった構成のガッチリとした作品を書いたつもりでした。ところが、ベルリンで初めて聞いたブラームスのコンチェルトは、そう言う彼の思いをはるかに超えた、まさに驚くほどに交響的的なコンチェルトだったが故に、彼に大きな衝撃を与えました。
ヘルシンキに舞い戻ったシベリウスは猛然と改訂作業に取りかかり、1903年に完成させた初稿版は封印してしまいます。
とにかく、彼にとって冗長と思える部分はバッサリとカットされます。オーケストレーションもより分厚い響きが出るようにかなりの部分は変更されたようです。結果として、できあがった改訂版の方は初稿と比べるとかなり短く凝縮されたものに変身しましたが、反面、初稿には感じられた素朴な暖かみや自由なイメージの飛翔という部分は後退しました。
ただし、作曲家本人が全力を挙げて改訂作業に取り組み、さらに初稿の方を封印したのですから、我々ごときが「どちらの方がいい?」などという気楽なことは問うべきでないことは明らかでしょう。世界中から第8交響曲を期待され、そして、何度かそれらは「完成」しながらも、満足できないが故に結局は全て焼却してしまった男です。
現在は「遺族の了承」という大義名分のもとに初稿版を聴くことができるのですが、やはり、シベリウスのヴァイオリンコンチェルトは1905年の改訂版で聴くのが筋というものなのでしょう。
かちっとした剛毅な演奏
これはかなり珍しい組み合わせで、特にヴァイオリンのヤン・ダーメンって誰?と言う感じです。
しかし、調べてみると戦前のベルリンフィルやシュターツカペレ・ドレスデンでコンマスを務め、戦後は死ぬまでコンセルトヘボウのコンマスの地位にあった人でした。つまりは、メンゲルベルグが戦犯容疑で追放された後のコンセルトヘボウを指揮者のベイヌムとともに支えた人だったのです。
ですから、どうしてこの組み合わせでオケがロンドン・フィルなんだと「?」が3つくらいはつく感じなのですが、おそらくは録音がデッカだったので手近にあったオケを使ったのでしょう。
<追記>
キチンと調べもしないで「雰囲気」だけでいい加減なことを書いてしまった。
ベイヌムはメンゲルベルグの後を受けてコンセルトヘボウを率いながら、1949年からはロンドンフィルとも契約を結んで極めて良好な関係を維持していました。つまり、ロンドンフィルは、ベイヌムにとってはコンセルトヘボウと変わらぬほどの「手兵」だったわけです。
ですから、彼がこの時期にロンドンフィルとスタジオ録音をするのは何の不思議もない話なのです。そして、このコンビでシベリウスのコンチェルトを録音しようとなったときに、ベイヌムの脳裏に浮かんだのが信頼できるヤン・ダーメンだったのでしょう。そう思えば、この組み合わせには何の不思議もないと言うことになります。
<追記終わり>
さて、肝心の演奏の方なのですが、これは「北国的」な風情は気迫です。どちらかというと、非常にかちっとした剛毅な演奏に仕上がっています。ただし、かちっとしているとは言っても、さすがはコンセルトヘボウのコンマスだけあって、この時代を席巻した新即物主義的な乾いた雰囲気とも異なります。
旋律を流麗に響かせるよりは、ひたすら真面目にラインを描き出していくような潔さに貫かれています。
それに対して、オケの方は手兵のコンセルトヘボウではないこともあって、基本的には控えめな演奏に徹しています。もちろん、第1楽章ではかなり頑張っている場面もあるのですが、作品全体としてみれば抑え気味です。
悪くはない演奏ですし、録音もこの時期としては優秀な部類に属します。
できれば、オケがコンセルトヘボウならば申し分なかったのですが・・・。
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