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ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(Vienna_Concert_House_Quartet)|ブラームス:弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36
ブラームス:弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団:1954年録音
Brahms:弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36 「第1楽章」
Brahms:弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36 「第2楽章」
Brahms:弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36 「第3楽章」
Brahms:弦楽六重奏曲第2番 ト長調 作品36 「第4楽章」
渋くて、複雑で、厚ぼったい音楽
ブラームスは弦楽六重奏という一般的ではない楽器編成で2つの作品を残しています。弦楽4部にヴィオラとチェロを追加したこの楽器構成は内声部が充実することで、よく言えば「重厚」、悪く言えば少々厚ぼったい雰囲気の音楽になってしまいます。
しかし、それでも若書きの1番の方は、日頃の気むずかしいブラームスの雰囲気とは全く異なる、若々しくて情熱的な音楽になっているので、厚ぼったい雰囲気よりはロマンティックな感情の方が表に顔を出しています。それと比べると、この2番の方は実にもってブラームスらしい音楽になっています。また、聞くところによると、この作品に限ってはヨアヒムの助言を求めることはなく(若い時代のブラームスにとっては珍しいこと)、さらには作品の完成後にもほとんど手を加えることがなかったようです。そう言う意味でも、ブラームスの素の顔がはっきりとあらわれています。
ただし、その素の顔をと言うのがなかなかに取っつきにくいものです。
クラシック音楽を聴き始めたような人にとって室内楽というのはオーケストラ曲のような華やかさには不足するので取っつきにくいジャンルです。そんな取っつきにくい室内楽の中でも、かなり取っつきの悪い作品の一つと言えそうです。
そう言えば、エキセントリックなピアニストだったフランソワはブラームスのピアノ曲を演奏すると吐き気がすると言い放っていました。
おそらくは、そう言う吐き気がしてしまいそうなブラームスの特質が最も色濃くにじんでいるのがこの2番の方の弦楽六重奏曲です。
渋くて、複雑で、厚ぼったい音楽です。
同じ六重奏曲でも、1番と2番ではその性格は「真逆」と言うほどに異なります。あれほどに、健康的な明るさに満ちていた第1番とは違って、第2番の方はヴィオラが揺れ動く中で始まる冒頭の音楽からして不安な感情にとらわれます。そして、その音型にのってファーストヴァイオリンが歌い出す第一主題は、破局した恋人の名前、アガーテにもとづくものだと言われています。(イ?ト?イ?ロ?ホという音型。ドイツ語音名で読み替えるとA?G?A?H?Eとなる。)
ブラームスはこの作品を書くことによってアガーテとの破局による痛手に決着をつけたと言われていますが、確かに4つの楽章を続けて聞くと「なるほどなぁ」と思わせるものがあります。
第1楽章からは、アガーテとのうまくいかない恋の道行き、第2楽章のスラブ的な憂愁からはその恋の破局が感じ取れます。そして、ハンスリックが「主題のない変奏曲」と評したようほどに複雑極まる構成を持つ第3楽章は破局の中で揺れ動く不安な感情が次第におさまっていく様子が読み取れるような気がします。
こんな事を書くと、またあの野郎お得意の文学的解釈か!とお叱りお受けそうなのですが、そう思ってでも聞いてみないと、この渋みがまさって取っつきの悪いこの作品を楽しく聞くのは難しいでしょう(^^;。
そして、そう思って最後の楽章を聞くと、「やっぱり俺にはクララしかいないんだ!」というブラームスの開き直った声が聞こえてきそうです。とりわけ、管弦楽的に盛り上がる終結部を聞くと、この屈折した男のとびきり屈折した思いが透けて見えてくるようで、なんだか笑ってしまうのは私だけでしょうか。
楽しく、分かりやすく
現在の弦楽四重奏団の方向性というものは、アメリカにおけるジュリアードやラ・サール、さらにはそれらの影響を受けて、ウィーンでもアルバン・ベルク四重奏団らに代表されるような譜面を正確に音にかえる精緻な演奏スタイルが主流となっています。いや、「譜面を正確に音にかえる」というのはいささか正確さに欠ける表現ですね。「譜面を正確に音にかえる」というのは最低限の前提であって、そのうえでカルテットの4つのパートが同じ重みを持って精緻極まるアンサンブルを実現することが主流になっているのです。
そういう現在の流れから行くと、このコンツェルトハウスの演奏はポルタメントを多用し、歌い回すことに重点をおきすぎたがためにきわめて不正確な演奏になっているという批判はあるでしょう。
また、第1ヴァイオリンのカンパーがリーダー的な役割を果たして、その個性にしたがってじっくりと歌い上げていくスタイルは前世紀の遺物とも言うべき演奏スタイルなのですが、それがこの上もなく耳に心地よいのも否定しきれません。
カンパーは「ムジカー(音楽家)だったが、同時にムジカント(楽士)でもあった」と評されたように、その基本はあくまでも楽しさを大切にした音楽家でした。
確かに、4つのパートが対等の立場で緊密かつ機能的なアンサンブルを形作っていく現在的なスタイルもスリリングな魅力にあふれてはいるのですが、全てが全て、上手下手の違いはあっても同じスタイルでは飽き飽きしてしまいます。
ちなみに、この団体は途中でメンバーが入れ替わるのですが、そのうちのチェロとヴィオラの新しいメンバーは後にウェルナー・ヒンクのもとでウィーン弦楽四重奏団を結成します。そして、このウィーン弦楽四重奏団は日本のカメラータとの共同作業でシューベルトの弦楽四重奏団の全曲録音を完成させることになります。その演奏は、精緻さを何よりも優先する現在的スタイルとは一線を画したもので、明らかにコンツェルトハウス以来の伝統を現在的な姿で引き継いだものとなっています。
ウィーンの凄さはこのような地下水脈におけるつながりにあることをあらためて認識させられるエピソードです。
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