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グリーグ:ペール・ギュント 第1組曲 作品46

ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1955年4月29&30日録音



Grieg:ペール・ギュント 第1組曲 作品46 「前奏曲 朝の気分」

Grieg:ペール・ギュント 第1組曲 作品46 「オーゼの死」

Grieg:ペール・ギュント 第1組曲 作品46 「アニトラの踊り」

Grieg:ペール・ギュント 第1組曲 作品46 「山の魔王の宮殿にて」


今では組曲の方が有名になってしまいました。

 イプセンが書いた詩劇「ペールギュント」はノルウェーに古くから伝わる民話を素材としていますが、簡単に言えば、とんでもない身勝手な男とそんな馬鹿な男を支えて待ち続ける純情な女の物語です。ワーグナーなんかが典型なのですが、どうもこういう「とんでもない男の身勝手」というモチーフが西洋人は好きなようです。
 登場するのは道楽の果てに財産を使い果たした馬鹿親父を持つ大ボラふきのペールとそんな馬鹿息子を溺愛する馬鹿母のオーゼです。(凄い一家です^^;)そして、そんなペールに心を寄せる「純情な娘・・・ソルヴェイグ」がこの物語の主要な登場人物です。

 物語はペールの波乱に満ちた人生を縦糸に、そんなペールを信じて待ち続けるソルヴェイグを横糸として展開されていきます。
 ペールはソルヴェイグという恋人がいながら幼なじみだったイングリットを結婚式の場から奪って逃げたり、国際的な山師となってモロッコの皇帝の財宝をだまし取ったり、カリフォルニアで大金持ちになったりします。しかし、せっかく奪ったイングリッドなのにあきて捨ててしまったために山の魔物に酷い目にあわされたり、だまし取った財宝を色仕掛け(アニトラのお踊り)でだましたられたり、せっかくの財宝も船が難破して全て失ったりしてしまいます。
 そしてようやくにして帰り着いた故郷では盲目になりながらもソルヴェイグが彼の帰りを待ち続け、そんなソルヴェイグに許しを請いながら安らかな最期を迎えるというお話です。(何という荒っぽいあらすじ・・・_(_^_)_ ゴメンチャイ)
 グリーグはそんなとんでもないお話に音楽をつけるのは心がすすまなかったようですが、頼まれると嫌といえない性格だったのか、苦労しながら28曲の音楽を作曲します。そして、その28曲の中から4曲ずつ「お気に入り」を抜き出し、オーケストレーションなどを手直しして1888年に第1組曲、1892年に第2組曲を作曲します。
 現在では本家の詩劇の方はほとんど読まれることもなく、そのために全曲版の方も滅多に演奏されません。しかし、組曲の方は見方によっては4楽章構成の交響曲のように見えなくもない(見えないか・・・^^;)まとまりの良さもあって、現在ではグリーグを代表する作品としてよくコンサートでも取り上げられます。

○ 第1組曲
1. 前奏曲『朝の気分』 第4幕の前奏曲(No.13)
2.『オーゼの死』 第3幕前奏曲・第3幕第4場(No.12)
3.『アニトラの踊り』 第4幕第6場(No.16)
4.『山の魔王の宮殿にて』 第2幕第6場の開始(No.8)

○ 第2組曲
1. 前奏曲『花嫁の略奪とイングリッドの嘆き』 第2幕の前奏曲(No.4)
2.『アラビアの踊り』 第4幕第6場(No.15)
3. 前奏曲『ペールギュントの帰郷』 第5幕の前奏曲(No.21)
4.『ソルヴェイグの歌』 第5幕第5場(No.23)


ミッシング・リンク

いったいどこで、はたまた何がきっかけでロジンスキーに「爆演型指揮者」というラベルがついてしまったのでしょうか?

先に紹介したドヴォルザークの「新世界より」などは、直線的で攻撃的と言えるような部分があるにせよ、演奏の基本は「精緻」さへの執念であって「爆演」などとはかけ離れた音楽でした。彼の録音(特に、50年代のウェストミンスター録音)をまとめて聴いてみても「爆演」と言えるような録音は存在しませんでした。
もちろん、探せばどこかに「爆演」と言われるような『粗雑ではあっても勢いだけで押し切る』ようなライブ録音があるのかもしれません。しかし、彼自身が承認した正規録音を聞く限り、ロジンスキーの本質は「精緻」に尽きると思います。

世の中には「勘違い」というものは存在するのですが、この「勘違い」は酷すぎます。
ロジンスキーという男は「精緻」さへの執念ゆえに周囲から嫌われ、疎まれて、ついにはアメリカから追放された男なのです。ひたすら精緻に音楽を再現することに全力を尽くした男が、何かの拍子でそれとは真逆の「爆演型指揮者」というレッテルを貼られたことを知れば、あの世で苦笑を禁じ得ないでしょう。そして、そんな「爆演で良しとできたならば俺の人生、あんなに苦労しなかったよ・・・」とぼやいていることでしょう。
もう一度繰り返しますが、ロジンスキーの本質は「爆演」ではなく「精緻さへの執念」です。

ですから、まとめて聴いた中でひとしお気に入ったのが「ペールギュント組曲」です。

何より素晴らしいのがオケの響きです。
低声部をしっかりと響かせた上に全ての楽器がキチンと役割を果たし、さらにはそれらの楽器のバランスが絶妙にコントロールされています。このゴリゴリとした手応え充分のオケの響きは実に魅力的ですし、その響きでもって描かれるペールギュントの世界は端正そのものです。
そして、驚くのは、そう言う響きのおいしさを見事にすくい上げているウェストミンスター録音の素晴らしさです。

ウェストミンスターの録音というとあまり音が良くないというのが通り相場でした。
しかし、このレーベルの録音は決してクオリティが低かったわけではありません。そうではなくて、60年代に経営が破綻した後に身売りが繰り返され、そのドタバタの中でマスターテープが行方不明になった事が大きな原因でした。マスターテープが行方不明になってからは劣悪なコピーテープからレコードが制作され、さらには「廉価盤」と言うことで材質も粗悪なものが多かったようで、結果として「音の悪いウェストミンスター録音」が出回ることになってしまったわけです。
その後、このレーベルの業績を深くリスペクトしている日本人の手によってゴミ同然に積み上げられている段ボール箱の中からマスターテープが発掘された話は有名です。そして、その発掘されたマスターテープから制作されたCDは、それまでの粗悪品とは別物と言ってもいいほどの音質によみがえったことも、これまた有名な話です。

それでも、ウェストミンスターと言えば実内楽録音がメインですから、ロジンスキーやシェルヘンのような人の業績にまで音質改善の恩恵が及ぶには時間がかかりましたし、未だに粗悪な音質のCDもたくさん出回っているようです。
ただし、MP3に変換した音源で、そう言うオケのおいしい響きがどこまで伝わるのかはいささか不安はあります。
もしも、そのあたりに興味があるようでしたら、できるだけ早くFLACファイルもアップしたいと思いますので、それなりのオーディオシステムで再生してみてください。響きの素晴らしさだけでなく、モノラルとは思えないほどにクリアに楽器が分離していますので、ロジンスキーがどれほどの執念でもってオケをコントロールしているかが手に取るように分かるはずです。

ただし、あれこれ聞いてみて、ロシアや東欧系という周辺部の(こんな言い方は独墺至上主義みたいで嫌なのですが^^;)音楽には非常に高い適応力を示しても、ベートーベンやワーグナーみたいな音楽になるとガタイが小さくなって、いささか不満を感じる事は正直に述べておきます。非常に精緻ではあるのですが、それが結果として音楽をこぢんまりとさせてしまっています。

しかし、ドヴォルザークのスラブ舞曲やコダーイの舞曲、ハーリ・ヤーノシュ組曲などは実に見事なものです。また、独墺系の音楽でもシュトラウスのワルツなんかだとガタイの小ささはあまり気にならないので、セルやライナーを思わせるような直線的で鮮烈な音楽はなかなかに見事なものです。
そう言う意味では、ロジンスキーという指揮者はトスカニーニからライナー、セルへとつながっていく系譜の中で、その間に位置する「ミッシング・リンク」みたいな存在だったのかもしれません。
そう考えると、指揮芸術の歴史的系譜の中で、一度くらいは目配せはしておいた方がいい存在なのかもしれません。

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