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ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」

ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1954年10月5,7,8&9日録音



Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」 「第1楽章」

Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」 「第2楽章」

Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」 「第3楽章」

Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」 「第4楽章」


望郷の歌

ドヴォルザークが、ニューヨーク国民音楽院院長としてアメリカ滞在中に作曲した作品で、「新世界より」の副題がドヴォルザーク自身によって添えられています。

この作品はその副題が示すように、新世界、つまりアメリカから彼のふるさとであるボヘミアにあてて書かれた「望郷の歌」です。

この作品についてドヴォルザークは次のように語っています。
「もしアメリカを訪ねなかったとしたら、こうした作品は書けなかっただろう。」
「この曲はボヘミヤの郷愁を歌った音楽であると同時にアメリカの息吹に触れることによってのみ生まれた作品である」

その言葉に通りに、ボヘミヤ国民楽派としてのドヴォルザークとアメリカ的な語法が結びついて一体化したところにこの作品の一番の魅力があるといえます。
さらに、過去の2作がかなりロマン派的な傾向を強めていたのに対して、この9番は古典的できっちりとしたたたずまいを見せていることも、分かりやすさと親しみやすさを増しているようです。

初演は1883年、ドヴォルザークのアメリカでの第一作として広範な注目を集め、アントン・ザイドル指揮のニューヨーク・フィルの演奏で空前の大成功を収めました。


凍てつく家路

ロジンスキーと言っても今ではピンと来る人は少ないでしょう。
もしかしたら、トスカニーニのアシスタントとしてNBC交響楽団のトレーニングに尽力したという文脈で名前を聞いたことがあるかもしれません。
もしくは、歴史的録音に興味のある人は、レオポルド・ウラッハをサポートしてモーツァルトのクラリネット協奏曲を録音したと言うことでかろうじて記憶にとどめているかもしれません。

しかし、その経歴を見てみると、ロサンジェルス・フィル(1929~1933)・クリーヴランド管弦楽団(1933~1943)・ニューヨークフィル(1943~1947)・シカゴ交響楽団(1947)の常任指揮者や音楽監督を歴任しています。トスカニーニと知り合ってからは彼の引きもあったのかもしれませんが、それでも、凡庸な指揮者であれば、例え強力な引きがあったとしても20年以上もこの世界のトップで居続けることなどできるはずがありません。彼が意に反してニューヨークやシカゴでのポストを失ったのは能力のゆえではなくて、あまりにも厳しいトレーニングに対して楽団員が反発したことや、芸術面での完璧を求めて赤字を気にしなかった姿勢に対してマネージメント側が音を上げたことが原因でした。

ただし、それを幸いと呼ぶには躊躇いを感じますが、シカゴでのポストを失って失意の中でヨーロッパに去ったロジンスキーに声をかけるレーベルがあらわれました。それが、戦争の痛手から未だ立ち直れ切れていないヨーロッパで積極的に録音活動を始めたアメリカの新興レーベル「ウェストミンスター」でした。
ウェストミンスターレーベルは、当初は室内楽を中心に録音活動を始め、その分野で一定の成果を上げると、活動の幅を次第にオーケストラの分野へと広げていきます。その時に声をかけたのが、アメリカを追われたロジンスキーでした。
その能力には絶対的な信頼がおける指揮者がヨーロッパで不遇を託っていたのですから、ウェストミンスターレーベルにしてみればこれ以上の幸いはなかったでしょう。
そして、その幸いは聞き手である私たちにおいても同様で、録音セッションに充分に時間をかけることで、この偏屈男の信じた音楽を良質な演奏と録音で享受できることになったわけです。

それでは、ロジンスキーが実現しようとした音楽とは何だったのでしょうか。
それは、彼が残した録音の中でも最良のものの一つと言われるこの「新世界より」を聞けばすぐに了解できます。

ロジンスキーはこの作品を通俗名曲という親しみやすさの中に閉じこめるようなことはしていません。それは、あまりにも有名な第2楽章を聞くだけで充分です。小学校の下校放送にもよく使われる音楽ですが(^^;、ほのぼのとした暖かさや郷愁などはどこを探しても見つかりません。それどころか、ここにあるのはそう言うノスタルジックな雰囲気とは全く正反対の、言ってみれば凍てつくような大地を踏みしめて帰る家路の情景です。
つまりは、世間一般が「こんなもんだろう!」と勝手に決めつけたイメージで安直に作品を構成することを潔しとせず、自分なりにスコアから読み取ったイメージを丁寧に再現しようとしたのです。当然のことながら、家路を凍てつくような大地のイメージとして再現することが絶対に正しいわけではないでしょうが、それでも、安直に常識的なイメージに寄りかかって演奏される音楽よりははるかに説得力があります。
また、弦楽器主体で後は適当に雰囲気で演奏するような安直さは絶対に許せなかったようで、管楽器などの細かい動きも全て聞こえるようにバランスをとりながら一人一人の奏者に細かい指示を出していたこともうかがえます。

なるほど、こういう感じで管楽器奏者が締め上げられると、その当時としては「我慢」できなくなったのもうなずけます。そう言う意味では、彼は少しばかり速く生まれすぎたのかもしれません。少なくともこのような録音を聞かされると、アメリカのオケとの軋轢はそう言うロジンスキーのスタンスが受け入れがたかったために起こったのはないかと思わざるを得ません。

それに対して、ここでのオケ(ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団)はロジンスキーに対して協力的です。
その背景には、このオケが「若かった」事が大きな要因となっているのでしょう。1946年にビーチャムによって創設されたオケですから、新興レーベルだったウェストミンスターも使いやすかったのでしょうが、その事が指揮者のロジンスキーにとっても幸いしたようです。
この若いオケはロジンスキーの指示に全力で応えようとしていますし、残された録音風景などを聞くと、懐に拳銃をしのばせてリハーサルに臨んだという過去など信じがたいほどにロジンスキーものびやかに音楽を楽しんでいるように聞こえます。

シカゴを去ってからのロジンスキーはそれまでの無理が祟ったのか健康を害してしまい、そのために、ウェストミンスターでの録音も1956年までの短い期間で終わりをむかえます。しかし、短かったとは言え、その最後で己の信じる音楽を十分に納得できるか形で残すことができたのですから、波瀾万丈の人生をくりながらも最後は幸せな男だったと言えるのではないでしょうか。

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