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ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104

(Cello)ピエール・フルニエ:ジョージ・セル指揮 ベルリンフィル 1961年6月1~3日録音



Dvorak:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 「第1楽章」

Dvorak:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 「第2楽章」

Dvorak:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 「第3楽章」


アメリカとボヘミヤという異なった血が混じり合って生まれた史上類をみない美人

この作品は今さら言うまでもなく、ドヴォルザークのアメリカ滞在時の作品であり、それはネイティブ・アメリカンズの音楽や黒人霊歌などに特徴的な5音音階の旋律法などによくあらわれています。しかし、それがただの異国趣味にとどまっていないのは、それらのアメリカ的な要素がドヴォルザークの故郷であるボヘミヤの音楽と見事に融合しているからです。
その事に関しては、芥川也寸志が「史上類をみない混血美人」という言葉を贈っているのですが、まさに言い得て妙です。

そして、もう一つ指摘しておく必要があるのは、そう言うアメリカ的要素やボヘミヤ的要素はあくまでも「要素」であり、それらの民謡の旋律をそのまま使うというようなことは決してしていない事です。
この作品の主題がネイティブ・アメリカンズや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説が早い時期から囁かれていたのですが、その事はドヴォルザーク自身が友人のオスカール・ネダブルに宛てた手紙の中で明確に否定しています。そしてし、そう言う民謡の旋律をそのまま拝借しなくても、この作品にはアメリカ民謡が持つ哀愁とボヘミヤ民謡が持つスラブ的な情熱が息づいているのです。

それから、もう一つ指摘しておかなければいけないのは、それまでは頑なに2管編成を守ってきたドヴォルザークが、この作品においては控えめながらもチューバなどの低音を補強する金管楽器を追加していることです。
その事によって、この協奏曲には今までにない柔らかくて充実したハーモニーを生み出すことに成功しているのです。


  1. 第1楽章[1.Adagio]:
    ヴァイオリン協奏曲ではかなり自由なスタイルをとっていたのですが、ここでは厳格なソナタ形式を採用しています。
    序奏はなく、冒頭からクラリネットがつぶやくように第1主題を奏します。やがて、ホルンが美しい第2主題を呈示し力を強めた音楽が次第にディミヌエンドすると、独奏チェロが朗々と登場してきます。
    その後、このチェロが第1主題をカデンツァ風に展開したり、第2主題を奏したり、さらにはアルペッジョになったりと多彩な姿で音楽を発展させていきます。
    さらに展開部にはいると、今度は2倍に伸ばされた第1主題を全く異なった表情で歌い、それをカデンツァ風に展開していきます。
    再現部では第2主題が再現されるのですが、独奏チェロもそれをすぐに引き継ぎます。やがて第1主題が総奏で力強くあらわれると独奏チェロはそれを発展させた、短いコーダで音楽は閉じられます。

  2. 第2楽章[2.Adagio ma non troppo]:
    メロディーメーカーとしてのドヴォルザークの資質と歌う楽器としてのチェロの特質が見事に結びついた美しい緩徐楽章です。オーボエとファゴットが牧歌的な旋律(第1主題)を歌い出すと、それをクラリネット、そして独奏チェロが引き継いでいきます。
    中間部では一転してティンパニーを伴う激しい楽想になるのですが、独奏チェロはすぐにほの暗い第2主題を歌い出します。この主題はドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして op.82-1 (B.157-1)」によるものです。
    やがて3本のホルンが第1主題を再現すると第3部に入り、独奏チェロがカデンツァ風に主題を変奏して、短いコーダは消えるように静かに終わります。

  3. 第3楽章[3.Finale. Allegro moderato]:
    自由なロンド形式で書かれていて、黒人霊歌の旋律とボヘミヤの民族舞曲のリズムが巧みに用いられています。
    低弦楽器の保持音の上でホルンから始まって様々な楽器によってロンド主題が受け継がれていくのですが、それを独奏チェロが完全な形で力強く奏することで登場します。
    やがて、ややテンポを遅めたまどろむような主題や、モデラートによる民謡風の主題などがロンド形式に従って登場します。
    そして、最後に第1主題が心暖まる回想という風情で思い出されるのですが、そこからティンパニーのトレモロによって急激に速度と音量を増して全曲が閉じられます。





「秘すれば花」の世界


つにこの録音もパブリックドメインとなったのかと、いささか感慨深いものがあります。
私がクラシック音楽なんぞというものを聞き始めた頃に、セルという男に出会ってすっかり感心してしまった話は、大昔(15年も前)にちょこっと書いたこと事があります。そんな、セルの録音の中でもベートーベンのエロイカと並んで大好きだったのがこのドヴォコンの演奏でした。

とにかく格好良いのひと言です。
この作品は「協奏曲」となっているのですが、その実体はチェロ独奏付きの交響曲・・・くらいの雰囲気が漂うほどにオケが前面に出てきます。ですから、よくあるコンサートのプログラム(前半に序曲と協奏曲、後半にメインの交響曲)でこの作品を取り上げたりすると、オケの方は「取りあえず伴奏しておきました」というようなスタンスになって、実にお粗末な演奏になってしまうことがよくあります。
取りあえずはオケに伴奏してもらって、後はソリストにお任せ!では駄目な作品だと言うことです。
かといって、チェロという楽器はピアノほどの威力はありませんから、オケを相手に丁々発止というわけにもいきません。
つまりは、オケは出るべき場面では前に出てしっかりと音楽を盛り上げ、ソリストを立てるべき場面ではさっと後ろに引いてサポートに徹するという「バランス感覚」が必要になります。そうなれば、若い頃から「バランスのセル」と言われたほどの男ですから、そのあたりのセルの手綱さばきは絶妙です。

聞けばすぐに分かることですが、全体としてはかなり速めのテンポで押し切っています。
このテンポ設定の主導権は指揮者であるセルがにぎっています。
例えば冒頭のオケによる序奏部分は颯爽としたテンポでセルの意志が明示されるのですが、それを受けて登場するフルニエ(3分25秒あたり)のテンポは明らかに遅めです。歌うことがチェロの本能ですから、それは当然といえば当然です。
しかし、それを受けたセルは、チェロの独奏が一息ついた部分で(4分半のあたりかな)ガツンと活を入れてテンポを引き戻しているのが分かります。それ以後も、実に微妙ではあるのですが、そう言う両者のやりとり(あつれき?)があちこちに散見されるのですが、最終的にはセルのテンポに収斂していきます。

その事がはっきり分かるのが第2楽章です。
フルニエにしてみればこの緩除楽章はチェロの聞かせどころなのですから、もっとたっぷりとしたテンポで歌い上げたいところでしょう。そして、聞き手によってはもっと歌って欲しかったと思うところでしょう。
しかし、基本的にはセルのテンポで全てが処理されていきます。そして、そのテンポたるや、まさに「素っ気ない」と思えるほどの速さで押し切っていきます。フルニエとしてみればかなりストレスがたまったと思われるのですが、セルには逆らえなかったようです。
しかし、結果としては、下らぬ情緒にまみれることなく、実に上品で気品のある音楽に仕上がっています。日本風に表現すれば、世阿弥の「秘すれば花」の世界が表現されています。
そしてこれは特筆すべき事ですが、そう言う抑えた表現の中から聞こえてくる管楽器の響きが出色なのです。

この録音に参加したクラリネット奏者のカール・ライスターは、ベルリンフィル時代における最も印象深かった経験としてこの録音のことを語っていて、さらには自分のオーケストラの欠点を明確に悟ったとも述べています。しかし、こういう管楽器の美しい響きを聞かされると、ベルリンフィルにはベルリンフィルならではの美質があったこともよく分かります。何故ならば、こういう管楽器の響きの美しさはクリーブランドのオケからは聞き取ることができないからです。

おそらく、聞く人によれば、この録音は個性に乏しいニュートラルな演奏だと思われるかもしれません。
ロストロさんのように、もっと深い情念を込めて緩除楽章を歌わせる演奏の方が好ましく思う人がいても不思議ではありません。しかし、このセルとフルニエの演奏は繰り返し聞かれることを宿命づけられた「レコード」というものをの本質と宿命を考え合わせれば、おそらくは最上のパフォーマンスの一つでしょう。
初めて聞いたときにはその強い個性に魅了されても、繰り返し聞くと、その個性が「灰汁」となってしまう演奏は意外と多いものです。この録音は、そう言う類の演奏とは最も隔たったところにある演奏です。

この演奏を評価してください。

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2013-03-03:ヨシ様


2013-03-04:セル好き


2013-03-08:シューベルティアン


2013-06-03:Hide


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