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バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007

(Vc)フルニエ 1960年12月録音



Bach:無伴奏チェロ組曲1番「プレリュード」

Bach:無伴奏チェロ組曲1番「アルマンド」

Bach:無伴奏チェロ組曲1番「クーラント」

Bach:無伴奏チェロ組曲1番「サラバンド」

Bach:無伴奏チェロ組曲1番「メヌエット」

Bach:無伴奏チェロ組曲1番「ジーグ」


組曲について

「組曲」とは一般的に何種類かの舞曲を並べたもののことで、16世紀から18世紀頃の間に流行した音楽形式です。この形式はバロック時代の終焉とともにすたれていき、わずかにメヌエット楽章などにその痕跡を残すことになります。
 その後の時代にも組曲という名の作品はありますが、それはこの意味での形式ではなく、言ってみれば交響曲ほどの厳密な形式を持つことのない自由な形式の作品というものになっています。
 この二通りの使用法を明確に区別するために、バッハ時代の組曲は「古典組曲」、それ以後の自由な形式を「近代組曲」とよぶそうです。まあ、このような知識は受験の役に立っても(たたないか・・)、音楽を聞く上では何の役にも立たないことではありますが。(^^;

 バッハは、ケーテンの宮廷楽長をつとめていた時代にこの組曲形式の作品を多数残しています。
 この無伴奏のチェロ組曲以外にも、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ、無伴奏フルートのためのパルティータ、そして管弦楽組曲等です。
 それにしても疑問に思うのは、この難曲である無伴奏のチェロ組曲を誰が演奏したのかということです。
 ヴァイオリンの方はおそらくバッハ自身が演奏したのだろうと言われていますが、チェロに関してはそれほどの腕前は持っていなかったことは確かなようです。
 だとすると、ケーテンの宮廷楽団のチェロ奏者がこの曲を演奏したと言うことなのでしょうか。現代においてもかなりの難曲であるこの作品を一体彼はどのような思いで取り組んだのでしょうか。
 
 もっとも、演奏に関わる問題は作品にも幾ばくかの影響は与えているように思います。
 なぜなら、ヴァイオリンの無伴奏組曲と比べると6曲全てが定型的なスタイルを守っています。
 また、ヴァイオリンの組曲はシャコンヌに代表されるように限界を超えるほどのポリフォニックな表現を追求していますが、チェロ組曲では重音や対位法的な表現は必要最小限に限定されています。
 もちろん、チェロとヴァイオリンでは演奏に関する融通性が違いますから単純な比較はできませんが、演奏者に関わる問題も無視できなかったのではないかと思います。

 それにしても、よく知られた話ですが、この素晴らしい作品がカザルスが古道具屋で偶然に楽譜を発見するまで埋もれていたという事実は本当に信じがたい話です。
 それとも、真に優れたものは、どれほど不当な扱いを受けていても、いつかは広く世に認められると言うことの例証なのでしょうか。

 やはり一度はカザルスの演奏でじっくりと聞いてみたい作品です。
 

第1番ト長調 BWV1007

前奏曲(Praeludium)
アルマンド(Allemande)
クーラント(Courante)
サラバンド(Sarabande)
メヌエット I/II(Menuetto I/II)
ジーグ(Gigue)

聞くところによると、この組曲は番号が後ろに行くほど難しくなると言われています。ということは、この第1番は最も易しい作品と言うことになります。
確かに、「ト長調」という調性はチェロにとっては指使いが易しいので、数年の「真面目な訓練」に耐えれば何とか演奏は可能になるそうです。冒頭の前奏曲はこの組曲の中では最も有名であり、第4曲のサラバンドのしみじみとしたメロディはCMにも使われたりしてよく耳にします。
チェロを習い出せば、何とか演奏してみたいと思わせる魅力を持った作品ですね。

第2番ニ短調 BWV1008

前奏曲(Praeludium)
アルマンド(Allemande)
クーラント(Courante)
サラバンド(Sarabande)
メヌエット I/II
ジーグ(Gigue)

これもまた、1番と同じ程度の難易度で、さらにはこの組曲の中では珍しく瞑想的な雰囲気にあふれているので、これもまた素人がチャレンジするにはもってこいの作品のようです。第5曲メヌエットのシンプルにして優雅なメロディなどは実に魅力的です。
ただし、1番と違って第2曲アルマンドの重音奏法がかなり困難ではあるようです。

第3番ハ長調 BWV1009

前奏曲(Praeludium)
アルマンド(Allemande)
クーラント(Courante)
サラバンド(Sarabande)
ブーレ I/II(Bourree I/II)
ジーグ(Gigue)

組曲の中で最も演奏機会の多い作品がこの3番です。理由は、ハ長調という調性がチェロにとっては演奏しやすくて、そのために4声和音を生かした低音の響きが容易に引き出せるために演奏効果が上がりやすい、という事情があるようです。
また、細かい音符の流れの中にト音が執拗に繰り返されることからくる効果は絶大で、冒頭の前奏曲に何とも言えない力強さと迫力を与えています。こう言うのを持続低音(オルゲルプンクト)と言うらしいです。

第4番変ホ長調 BWV1010

前奏曲(Praeludium)
アルマンド(Allemande)
クーラント(Courante)
サラバンド(Sarabande)
ブーレ I/II
ジーグ(Gigue)

組曲の中では一番地味な作品でしょうか。しかしながら、演奏技術的には3番までとは一線を画す難しさがあるようです。

第5番ハ短調 BWV1011

前奏曲(Praeludium)
アルマンド(Allemande)
クーラント(Courante)
サラバンド(Sarabande)
ガヴォット I/II(Gavotte I/II)
ジーグ(Gigue)

ハ短調という調性はチェロにとっては普通に調弦したのでは非常に演奏が困難な調性らしいです。そのためチェロの最高弦であるA線を1音下げて演奏することが一般化していたのですが、それでは当然のことながら響きが冴えなくなります。
そこで、最近では、本来の響きの美しさを保つために、超絶技巧を持ってして(^^;、通常の調弦で乗り切るのが一般化してきています。当然のことながら、アマチュア演奏家には用のない作品と言えますが、ハ短調という調性らしい荘重な音楽は実に魅力的です。

第6番ニ長調 BWV1012

前奏曲(Praeludium)
アルマンド(Allemande)
クーラント(Courante)
サラバンド(Sarabande)
ガヴォット I/II
ジーグ(Gigue)

バッハはこの作品を5弦のチェロで演奏することを想定して作曲しました。当然のことながら通常のチェロは4弦ですから、ハイポジションを多用した超絶テクニックで乗り切らなければなりません。もちろん、バッハ時代の5弦のチェロを復元して演奏をしてもいいのですが、それではハイポジションを多用した通常のチェロで演奏したときとは音楽の雰囲気が全く変わってしまいます。
やはり、この作品からイメージされる強い緊張感に満ちた音楽にするためには、超絶テクニックを使った通常のチェロである塩素する必要があるようです。ただし、ヘタをすると首を絞められたような悲鳴になりかねないので難しいところです。



「チェロの貴公子」はやめて「チェロの騎士」と呼びたいですね。

フルニエといえばいつも「チェロの貴公子」というラベルがついて回ります。誰が言い出したことなのか分かりませんが(おそらくはフルニエを売り出したいレコード会社の広報担当あたりでしょうか?)、フルニエ自身にしていれば随分と迷惑な話だったのではないでしょうか。
「貴公子」と言ったって、語尾に「子」がつく以上は所詮は洟垂れ小僧です。いつまでたっても子ども扱いでは、それはいい気はしないでしょう。

何しろ、50年代の終わりにはグルダと組んでベートーベンのチェロソナタを録音し、その時にあのグルダが「フルニエはあらゆる点で指導者」で、「非常に多くを学んだ」と語っているのです。グルダにそこまで言わしめたフルニエを子ども扱いにしてはいけません。

国語事典を引けば、貴公子とは「高貴な家柄の男子、貴族の子弟」という意味以外に「容貌・風采がすぐれ、気品のある青年」とも書いてあります。最近は売れないクラシック音楽を売るためには見た目が優先される時代らしいのですが、言うまでもなくこの時代はそこまで落ちぶれてはいません。フルニエが評価されたのは「気品のある容貌」ではなくて、あくまでも彼の音楽によってでした。そしてその音楽も「優雅で洗練された演奏」という言葉で塗りつぶせるほど単純なものではありませんでした。

その事が最もよく現れているのがこのバッハの無伴奏の録音です。
ここからは、貴公子という言葉からイメージされるナヨッとした感じは微塵もありません。それどころか、これと肩を並べることができるのはカザルスくらいしか思い浮かばないほどに強靱な響きでバッハを造形しています。
あれ?フルニエってこんなにも男性的な音楽をやる人だったっけ?・・・と言う感じです。

前に書いたことがあるのですが、私の中のフルニエの刷り込みはセル&ベルリンフィルで録音したドヴォコンです。「とにかく、彼のチェロはいつも伸びやかでよく歌います。ある意味ではゴリゴリしたカザルスなんかとは対極にあるチェリストです。」なんて書いたことがあるのに、ここではカザルスを思わせるような強さに満ちています。
ただし、ゴリゴリはしていません。(^^v

フルニエには3種類の無伴奏の録音が残っています。59年の放送用のライブ、そしてこの60年のセッション録音と72年の来日時のライブ録音です。熱さでとるなら59年のライブ、完成度でとるなら60年の録音となるのでしょうが、そのどれをとっても意外なほどに力強い音楽に仕上がっています。ですから、誰かが「チェロの貴公子」はやめて「チェロの騎士」と言った方がいいと書いていましたが、なかなかにいいところをついていると思いました。

それから、こうしてみると、この時代は、チェリスト百花繚乱の時代だったようですね。
シュタルケル、トルトゥリエ、そしてフルニエ。これに、シャフランやヤニグロが絡み、そしてロストロにデュ・プレ等が登場してくるのですから。(ピアティゴルスキーにナヴァラやジャンドロンも忘れるな・・・という声が聞こえてきますが・・・)
あまり年寄りの愚痴みたいな事は言いたくないのですが、いい時代だったのですね。

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