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シェーンベルク:グレの歌


レイボヴィッツ指揮 パリ新交響楽協会管弦楽団&合唱団 1953年9月&10月録音


聴衆に受けることは分かっていた

気がつくと、シェーンベルグの著作権が切れていることに気がつきました。
彼は1951年に亡くなっているので、本来ならば2002年に著作権が切れるはずなのですが、戦時加算という未だに残る敗戦国ペナルティによって2012年の5月21日までそれが先延ばしにされていました。

これで、ついに無調音楽の創始者であるシェーンベルグの音楽もパブリックドメインの仲間入りを果たすことになったわけで、実にもって目出度い限りです。何故ならば、これによって、多くの人がシェーンベルグの音楽を実際に耳にする機会がもてるようになるだろうと思うからです。

シェーンベルグやウェーベルン、ベルクなどに代表される音楽は、一見すると、戦後のクラシック音楽界を席巻した「前衛音楽」につながっていくように見えながら、その本質において全く異なるものだと思っています。
その違いはひと言で言えば、人の心に響く「何か」があるか否かです。
シェーンベルグなどの音楽は、それがロマン派以前の音楽とは全く異なる響きを身にまとっていても、聞く耳と心さえあればその奥底に人の心に響く「何か」をつかみ取ることができます。
それに対して、「前衛音楽」と称された多くの試みには、その「何か」が全く欠落しています。

もちろん、こういう言い方は全くお気に召さない方もいるでしょうし、コンクールの作曲部門では、未だにそういう「試み」にチャレンジした作品でなければ評価されないという現実もあります。
そう言う現実を見るたびに、いわゆる専門家という人の耳は一般人の耳とは根本的に異なっているんだなと感心もし驚きもするのですが、ほとんど大多数のクラシック音楽愛好家がそう言う音楽を拒否しているという動かしがたい現実も厳として存在しています。そう言う現実の前に、「善前衛音楽」なるものがどれほど多くの専門家たちによって称揚されても、結局はクラシック音楽の歴史の中に確固たる位置を占めることはありませんでした。
そして、そう言う現実こそは、常識というものの健全性を示すものでもありましたから、それを困った現実だと感じたことは一度もありませんでした。

ただ困るのは、「シェーンベルグ≒前衛音楽」という誤解が前衛音楽への拒否と重なってしまい、結果として、シェーンベルグの音楽までもが多くの人から拒否されてしまっている現実があることです。
これは実にもって困ったことだと思います。
もちろん、そんな誤解は彼の音楽を手元に置いてじっくりと聞いてみるという体験を重ねれば、いつかは解けるものだと思うのですが、果てさて、今のご時世にそんなお金を投資して彼の音楽を手元に置こうとする人は既にそのような誤解が解けている人だけでしょう。

と言うことで、彼の音楽がパブリックドメインの仲間入りしたことが目出度いと述べた理由が了解していただけたと思います。
著作権という檻の中に閉じこめられている間は、彼の音楽に気楽に接することはできませんでした。しかし、パブリックドメインの仲間入りをすれば、今後は次々と彼の作品はネット上にアップされていくことになるでしょう。そうなれば、やがては、彼の作品は20世紀前半の時代精神を最も誠実に反映した音楽だったことが多くの人に素直に受け入れられるようになるでしょう。
やはり音楽は、実際に聞いてみなければ何も分かりません。

ただし、今回アップした「グレの歌」は、無調音楽創始者というシェーンベルグのもう一つの顔である、後期ロマン派の掉尾を飾った作曲家としての作品です。そして、その事は、何故にジェーンベルグが無調音楽に進まざるを得なかったかを納得させてもらえる作品でもあります。
ここには、巨大化し複雑化していった後期ロマン派の音楽が行き着いた先が鮮やかに示されています。
シェーンベルグがこの作品に取り組んだのは1900年のことだとされています。そして、完成したのが1911年とされているのですが、実は作品の大部分は1900年のうちに書き上げられています。
この時、シェーンベルグはわずか26歳です。
つまりは、20代半ばにして、彼は西洋音楽の歴史の突端にたどり着いてしまったのです。そして、彼は、そのたどり着いた突端の渚でぶらぶらと時を過ごせるほど「愚か」ではなかったのです。こんな書き方はあまりにも月並みなのでいささか気が引けるのですが、彼はその突端から船を出さすにおれなかったのでしょう。
彼の居場所は、その誰もこぎ出さなかった未踏の海の中にしかなかったはずです。

ただ、そんな彼の後に続いたと言い張る多くの「前衛音楽」作曲家の愚かさは、シェーンベルクがたどり着いた突端に行き着く努力もしないで、目の前の渚から方向違いの方向に船を出してそれ以前の歴史を乗り越えたと言い張っていることです。

グレの歌は極めて巨大な音楽です。
シェーンベルクはこの音楽を作曲するために、特注の53段のスコアを準備しました。
そして、何よりもそこで展開される音楽は、ドロドロの愛憎劇であり、これぞ後期ロマン派!!と言いたくなる音楽に仕上がっています。ですから、この作品の初演はシェーンベルクの作品としては珍しいほどの好評を博すのですが、その事についてシェーンベルク自身は「聴衆に受けることは分かっていた」と素っ気なく語っただけでした。

この作品は1900年の間にほとんど完成していたのですが、様々な理由で感性は先延ばしされ、最後の第4部となる「夏風の荒々しい狩」が仕上がったのが1911年でしたから、おそらくその時には彼の中では既に「過去の作品」となっていたのでしょう。

この作品のテキストはデンマークの作家ヤコブセンの「サボテンの花ひらく」からとられています。
この作品は、娘の気をひくために5人の若者が物語を披露するというオムニバス形式の小説なのですが、その物語の一つが「グレの歌」なのです。

グレの歌はデンマークの王であるヴァルデマールとその愛人であるトーヴェの物語です。

第1部
ヴァルデマールとトーヴェの間で愛の歌がかわされます。
しかし、その事に嫉妬した后によってトーヴェは毒殺されます。この部分はテキストでは明示されず、ただオーケストラによって暗示されます。そして、それに次いで、山鳩がトーヴェの死を知らせます。(山鳩の歌)

来て! 聞いて!
トーヴェは死にました! 彼女の瞳には夜の闇が訪れました



第2部
トーヴェを失ったヴァルデマールは神を呪います。

主よ、あなたはトーヴェを私から連れ去った時
自分が何をしたのかご存じですか?
あなたは私を最後の隠れ家から
狩り出してしまったのだということをご存じですか?
主よ、あなたは恥じて赤面することもないのですね
あれは貧しい者のたった一つの子羊だったのに!



第3部
神を呪ったヴァルデマールは、その罪として魂は天国へ行くことを許されず、彼は亡者として従者を引き連れてグレの地を荒らし回ります。

真夜中の時間
忌まわしい一族が
忘れられ、埋もれた墓から姿を現し
城の蝋燭や小屋の灯りを
あこがれに満ちて見つめる
風は彼らに向かって
あざ笑うかのごとくまき散らす
ハープの調べと杯の音と
愛の歌を。
そして彼らは消え入りながらため息をつく
「我らの時は過ぎ去った![*]」と――。
我がこうべは生命の波に揺れ
我が手は胸の鼓動を感じる
生命に満ちて私に降り注ぐ
燃える口づけの深紅の雨。
そして我が唇は歓呼する
「今こそ我が時!」と。
だが時が過ぎゆけば
私はさまよい歩くことになるだろう
真夜中に
死んだような足取りで
死に装束をぴったりとかき合わせ
冷たい風に向かって
遅い月の前を忍び足で。
そして悲しみに縛られ
黒い十字架で
おまえの愛しい名前を
土に刻み
地に沈みゆきつつ嘆くのだ
「我らの時は過ぎ去った!」と。



夏風の荒々しい狩
やがて夜は訪れ、新しい朝の訪れが朗唱風に歌われていきます。そして、夜明けを告げる壮大な音楽によってヴァルデマールの魂が救済されたことを暗示して幕を閉じます。
これを聴いてブラヴォーがでなければ嘘です。

目覚めよ、目覚めよ、すべての花よ
太陽が来る!
東の色彩の奔流の中のすべてが
我らに朝の夢の挨拶をよこす。
もうすぐ暗い水の上から
太陽がほほ笑みながら現れ
豊かな光の髪を
明るい額からまき散らす!


シェーンベルクの弟子、レイボヴィッツ


レイボヴィッツと言えば、60年代の初頭に録音したベートーベンの交響曲全集が有名です。それ以外には、何と言っても彼の師であったシェーンベルクの録音が有名です。
ただ、残念ながら、とりわけシェーンベルクの録音はほとんど復刻されていません。

このレイボヴィッツによるグレの歌は非常にゆったりとしたテンポ設定で、その細部をできる限り忠実に再現しようとする意図が見て取れます。
もちろん、今となってはこれよりははるかに精緻な演奏はたくさんありますから、世界初のセッション録音という価値しかないかもしれません。しかし、腰を据えてじっくりと聞いてみれば、精緻さだけでないある種の「アツさ」みたいなものもあふれていて、結構聴き応えがあります。

ただ、オケが・・・(^^;。
パリ新交響楽協会管弦楽団・・・って、どこのオケ・・・なんや?


ルネ・レイボヴィッツ指揮 パリ新交響楽協会管弦楽団、合唱団
リチャード・ルイス(ヴァルデマール)
エセル・セムサー(トーヴェ)
ネル・タンジェマン(森の鳩)
フェリー・グルーバー(道化師クラウス)
ジョン・ライリー(バス)
モリス・ゲゼル(語り)


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2012-07-31:菅野茂


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