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ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36

ビーチャム指揮 ロイヤルフィル 1956年5月9日&14日、1957年3月28日録音



Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第4楽章」


ベートーベンの緩徐楽章は美しい。

これは以外と知られていないことですが、そこにベートーベンの知られざる魅力の一つがあります。
 確かにベートーベンが最もベートーベンらしいのは驀進するベートーベンです。
 交響曲の5番やピアノソナタの熱情などがその典型でしょうか。
 しかし、瞑想的で幻想性あふれる音楽もまたベートーベンを構成する重要な部分です。


 思いつくままに数え上げても、ピアノコンチェルト3番の2楽章、交響曲9番の3楽章、ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス、ヴァイオリンソナタのスプリング、そしてピアノソナタ、ハンマークラヴィーアの第3楽章。
 そう言う美しい緩徐楽章のなかでもとびきり美しい音楽が聞けるのが、交響曲第2番の第2楽章です。

 ベートーベンの交響曲は音楽史上、不滅の作品と言われます。しかし、初期の1番・2番はどうしても影が薄いのが事実です。
 それは3番「エロイカ」において音楽史上の奇跡と呼ばれるような一大飛躍をとげたからであり、それ以後の作品と比べれば確かに大きな落差は否めません。しかし、ハイドンからモーツァルトへと引き継がれてきた交響曲の系譜のなかにおいてみると両方とも実に立派な交響曲です。

 交響曲の1番は疑いもなくジュピターの延長線上にありますし、この第2番の交響曲はその流れのなかでベートーベン独自の世界があらわれつつあります。
 特に2番では第1楽章の冒頭に長い序奏を持つようになり、それが深い感情を表出するようになるのは後年のベートーベンの一つの特徴となっています。また、第3楽章はメヌエットからスケルツォへと変貌を遂げていますが、これもベートーベンの交響曲を特徴づけるものです。
 そして何よりも第2楽章の緩徐楽章で聞ける美しいロマン性は一番では聞けなかったものです。
 
 しかし、それでも3番とそれ以降の作品と併置されると影が薄くなってしまうのがこれらの作品の不幸です。第2楽章で聞けるこの美しい音楽が、影の薄さ故に多くの人の耳に触れないとすれば実に残念なことです。
 後期の作品に聞ける深い瞑想性と比べれば甘さがあるのは否定できませんが、そう言う甘さも時に心地よく耳に響きます。

 もっと聞かれてしかるべき作品だと思います。


「何でもないような」演奏

ビーチャムと言えば、「軽妙洒脱」という言葉が浮かぶのですが、このベートーベンの録音ではかなり豪快にオケを鳴らしきっています。そして、そのオケの音色が実にザックリとした生成の魅力にあふれていて、実に好ましく思えます。
そして、何よりも、ここからは音楽をする「喜び」みたいなものがあふれ出してきます。それは、ドイツの「3大B」(バッハ、ベートーヴェン、ブラームス)のことを音楽史上の「3大退屈男」と呼んだ男が、「こういう風に演奏すれば退屈しないですむんじゃよ・・・(^□^)」と言っているかのような演奏です。

確かに、今回アップした第2番にしても第7番にしても、深刻さのかけらもありません。実に伸びやかに、そして楽しく演奏されています。そして、注目すべきは、ともに歌心にあふれた第2楽章では、決して深刻ぶることはないもののしみじみと心にしみいる音楽になっていることです。実に聞かせどころを押さえた「上手い演奏」だなと思います。

確かに、己の新しい解釈を世に問うというような「ギラギラとした野心」にあふれた演奏も魅力的です。作品に込められた深い情念を抉り出すような演奏もいいでしょう。
しかし、そのような演奏ばかりでは、時には疲れてしまうことも事実です。
そんな時に、こういうビーチャムのような演奏で音楽を聴かせてくれると、しみじみと「音楽っていいなぁ・・・」と思わせてくれます。そして、そう言うたぐいの演奏は、この国では「名演」と呼ばれることはなく、どこか一段低い芸術と見なされてきたことは事実です。いや、この国でなくても事情は大差ないかもしれません。

しかし、振り返ってみれば、こういう「何でもないような」演奏を聴かせてくれる指揮者はビーチャム以降ではほとんどいなかったことに気づかされます。何人かあげようと思ったのですが、どうしても指を折ることができません。
敢えて挙げるとするならば、その晩年において自分のやりたいことだけをやりたいように指揮したバーンスタインが、その心の有り様としては共通点があったのかもしれません。ただし、マーラーを全く認めなかったビーチャムとでは音楽に対する方向性が全く異なりますし、情念をさらけ出すことこそが自分のやりたいことだったバーンスタインとでは、その方向性は真逆です。
やはり、この比較には無理がありますね。

そう言えば、レッグがビーチャムのことを「イギリスが生んだ最後の偉大な変人」と評したことは有名な話です。
これは、何とも言えず逆説的な話になるのですが、生き馬の目を抜くようなこの世界において、何の野心も持たずひたすら音楽の楽しさを前面に押し出したような「何でもない演奏」をし続けるには「偉大な変人」である必要があると言うことなのでしょう。
もちろん、彼が「偉大な変人」であり続けることができた背景には、ほとんど無尽蔵とも言える財力があったからこそです。なるほど、お金というものは、使いようによっては実に偉いものだと感心させられます。

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