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Home|アラウ(Claudio Arrau)|ベートーベン:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110

ベートーベン:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110

(P)アラウ 1957年5月18日録音



Beethoven:ピアノソナタ第31番 変イ長調  作品110 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第31番 変イ長調  作品110 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第31番 変イ長調  作品110 「第3楽章」


嘆きの歌〜疲れはて、嘆きつつ

最後の3つのソナタはミサ・ソレムニスと同時並行で作曲されたことはよく知られた事実です。
そしてこれらの作品は今までのソナタとは全く違う世界を世界をしめしています。それを一言で言えば「深い悲嘆」と「浄化」です。

そして悲嘆と言うことなら、この真ん中の「作品110」こそが、もっとも深い悲嘆に包まれた作品となっています。
とりわけ第3楽章の「嘆きの歌」と言われるように、その全体は果てしもないような深い悲しみで包まれています。それ故か、ワーグナーに代表されるように、ロマン派の作曲家たちに大変好まれた作品でした。

ピアノソナタ31番 Op.110 変イ長調

第1楽章
 モデラート・カンタービレ・モルト・エスプレッシーヴォ 変イ長調 4分の3拍子 ソナタ形式
第2楽章
 アレグロ・モルト ヘ短調 4分の2拍子 三部形式
第3楽章
 アダージョ・マ・ノン・トロッポーアレグロ・マ・ノン・トロッポ 変イ長調 4分の3拍子ー8分の4拍子 序奏ーフーガ
アダージョの大きな序奏とフーガ形式からなる「嘆きの歌」


いささか印象が希薄なソナタの録音です

若い頃のアラウにとっては、ベートーベンのピアノソナタは彼の中心をなすレパートリーではなかったようです。おそらく、それらを己のレパートリーの中心に据え始めたのは齢八十に達せんとする最晩年の頃だったようです。ですから、彼の最晩年の協奏曲の演奏を「遅めのテンポで何だか彫りの浅い平べったい音楽」などと悪口を言ったにも関わらず、ソナタに関してはフィリップスで録音した最晩年のものをとるのが相応しいのかもしれません。
もちろん、だからといって、そのソナタの録音がコンチェルトとは一変して指も回ってバシッと気合いが入っているというわけではありません。遅めのテンポで、よく言えば「叙情的」に美しく歌う音楽に仕上がっている、悪く言えば淡々とした平板な演奏と言えます。しかし、そのことがソナタの場合にはそれほど大きな不満には感じられないと言うことです。
コンチェルトは基本的にはエンターテイメントの世界ですから技術的な衰えは致命的です。しかし、ソナタは独白の世界ですから、指が回ると言うことは絶対条件ではないように思います。いや、それどころか、雄弁な独白というのは時には嫌らしくさえもあります。逆に、ポツリ、ポツリとした朴訥な語りを通して、いつの間にか語り手の世界に引き込まれると言うことはよくある話です。

ただし、技術的な衰えは否定できませんから、そう言うことが気になって仕方がないという人にとっては我慢のならないかもしれません。

それと比べると、この50年代の後半から60年代の初め頃に録音された一連のソナタ作品の録音は、テクニック的には万全です。ただし、録音のクオリティに原因があるのかと思うのですが、音のセパレートがいささか悪くて、よく言えば響きが重厚、悪く言えば鈍重なのが残念です。
ただし、この一連のソナタを聴いて、私はあまり感心しませんでした。人によっては、この録音を「一切の虚飾を廃した真摯な演奏」と褒める人もいますし、そのことを否定する気はありません。しかし、ベートーベンのその人の独白を聞くような思いにさせられる最晩年の録音と比べると、この壮年期の録音は聞き終わったあとの印象が驚くほど希薄なのです。

ですから、今、私はとても困っているのです。

聞き終わったあとにそれなりの印象が残れば、それを言葉に変換することは可能なのですが、それがあまりにも希薄だと途方に暮れてしまいます。もちろん「玩味熟読」すればその良さが分かるという言葉もありますから、きっと私の修行が未だ足りていないのでしょう。
しかし、そう言う「謙虚」な気持ちの片隅に、「なんかベートーベンのソナタっていまいちピントこないなぁ・・・、とはいえプログラムに入れないわけにもいかないから、まあ有名どころだけでも録音しておくか・・・」みたいな気持ちがアラウ自身にあったのではないかという「不遜」な気持ちも燻ってはおります。
ただし、このような思いは晩年のソナタを聴いたからであって、これがアパショナータやワルトシュタインのような作品だったらまた変わってくるかもしれません。

<追記>
「録音のクオリティに原因があるのかと思うのですが、音のセパレートがいささか悪くて、よく言えば響きが重厚、悪く言えば鈍重なのが残念です。」などと書きましたが、これはアンプが壊れかけの頃に聞いたのが原因だったようです。完全に壊れてしまって、新しいアンプを入れ替えたあとに聞いた感じでは、文句をつけるほどには録音は悪くないようです。
ただし、高域方向の抜けが今ひとつでいささかつまり気味の感は残りますが、まあ時代相当のクオリティと言うところでしょう。

しかし、そう言う面が多少は改善されたので、演奏に関する感想も変わったのかと言うと、そちらに関しては残念ながら大きな変化はありませんでした。指はよく回っているのは以前よりはよく感じ取れたのですが、それでもなお聞き終わったあとに残るものは希薄です。
やはり、アラウのソナタに関しては晩年の録音を聞くべきなのでしょう。

この演奏を評価してください。

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