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Home|カイルベルト(Joseph Keilberth)|ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調

ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調

カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニ管弦楽団 1956年録音



Bruckner:交響曲第9番 ニ短調 「第1楽章」

Bruckner:交響曲第9番 ニ短調 「第2楽章」

Bruckner:交響曲第9番 ニ短調 「第3楽章」


ブルックナーの絶筆となった作品です

しかし、「白鳥の歌」などという感傷的な表現を寄せ付けないような堂々たる作品となっています。ご存じのようにこの作品は第4楽章が完成されなかったので「未完成」の範疇にはいります。
もし最終楽章が完成されていたならば前作の第8番をしのぐ大作となったことは間違いがありません。

実は未完で終わった最終楽章は膨大な量のスケッチが残されています。専門家によると、それらを再構成すればコーダの直前までは十分に復元ができるそうです。
こういう補筆は多くの未完の作品で試みられていますが、どうもこのブルックナーの9番だけはうまくいかないようです。今日まで何種類かのチャレンジがあったのですが、前半の3楽章を支えきるにはどれもこれもあまりにもお粗末だったようで、今日では演奏される機会もほとんどないようです。

それは補筆にあたった人間が「無能」だったのではなく、逆にブルックナーの偉大さ特殊性を浮き彫りにする結果となったようです。

ブルックナー自身は最終楽章が未完に終わったときは「テ・デウム」を代用するように言い残したと言われています。その言葉に従って、前半の3楽章に続いて「テ・デウム」を演奏することはたまにあるようですが、これも聞いてみれば分かるように、性格的に調性的にもうまくつながるとは言えません。

かといって、一部で言われるように「この作品は第3楽章までで十分に完成している」と言う意見にも同意しかねます。
ブルックナー自身は明らかにこの作品を4楽章構成の交響曲として構想し創作をしたわけですから、3楽章までで完成しているというのは明らかに無理があります。

天国的と言われる第3楽章の集結部分を受けてどのようなフィナーレが本当は鳴り響いたのでしょうか?永遠にそれは聞くことのできない音楽だけに、無念は募ります。


職人としての良心が生み出したブルックナー演奏

カイルベルトという指揮者はずいぶん古い時代の人のように感じるのですが、調べてみると生まれは1908年で没年は1968年ですから、セルなんかよりもかなり若い人なので驚いてしまいました。同じ年に生まれた有名な指揮者と言えば、真っ先に思い浮かぶのはカラヤンでしょうが、感覚的に二世代も三世代も前の音楽家のように感じてしまいます。

しかし、そう言う「誤解」を生んでしまうのは、彼の音楽スタイルにも原因があるようです。
おそらく、彼ほど「職人」という言葉がぴったりくる指揮者はそうそういるものではありません。オペラハウスのコレペティトゥール(歌手などに音楽稽古をつけるピアニスト)からの叩き上げで、最後はドレスデンやバイエルンの歌劇場のシェフにまでのぼりつめた人でした。それだけに、バイエルンの歌劇場で「トリスタンとイゾルデ」の上演中に心臓発作を起こしてなくなるという最期は、彼としてみれば「本望」だったのかもしれません。
とはいえ、わずか60歳という若すぎる死だったことにあらためて驚かされました。

カイルベルトの演奏は、とにかく聞き手に「媚びる」ということが全くありません。分かりやすく聞かせようとか、美しく聞かせようというような「邪心」は全くない指揮者で、その点は同年の生まれのカラヤンなどとは真逆の存在でした。結果として、人気が出るわけもなく、一般受けのしない指揮者としての日々が続き、おまけに「いよいよこれから」という時期に早すぎる死を迎えたために、「渋い音楽家」という評価が定着したままになってしまったようです。

彼が作り出す響きは、いわゆるドイツのオケの伝統ともいうべき重厚なものですが、オケへの指示が的確で無駄がないためか、内部の見通しは悪くありません。
その意味では、当時のザッハリヒカイトの流れの中にあるのでしょうが、彼の音楽はどうもそう言う「主義」とは縁遠いところにあるような気がします。そうではなくて、彼の音楽の明晰さはそう言う「主義」に起因するものではなくて、あるべきものはあるべきままの姿でキッチリ仕上げていくという、職人としての良心によっているような気がするのです。
特に、こういうブルックナーのような音楽になると、実に一つずつキッチリ仕上げているという雰囲気が伝わってきます。おかげで、音楽はブルックナーらしいゴツゴツとしたものになって、聞き手にとっては聞きやすい代物ではなくなるのですが(カラヤンのブルックナーを思い出されたし!!まさに真逆のブルックナーです)、しかし、聞き終わると「なるほどこれがブルックナーだ」と納得させてくれる演奏になっています。
おまけに、このザラッとした生成の風合いを思わせるようなオケの響きは、まさにブルックナーに相応しいものです。

確かに、彼のブルックナーはクナッパーツブッシュのような「雄大な音楽」にはなりませんが、まさにドイツの人々が「私たちの音楽」として受け入れてきたブルックナーとはどういうものかを教えてくれる演奏ではあります。
歴史に「if」はありませんが、もしもカイルベルトやフリッチャイがもう少し長生きしてくれたならば、カラヤン一人勝ちの60~70年代のクラシック音楽界はずいぶん様相が変わったことでしょう。
なお、録音は56年と古いのですが、幸いなことにステレオで録音されています。当時のデッカやRCAのクリアな録音と比較すると一歩譲りますが、職人カイルベルトの美質は十分にすくい取れていると思います。

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