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ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95(B.178)「新世界より」

ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1959年3月20日~21日録音



Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」

Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」

Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」

Dvorak:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」


望郷の歌

ドヴォルザークが、ニューヨーク国民音楽院院長としてアメリカ滞在中に作曲した作品で、「新世界より」の副題がドヴォルザーク自身によって添えられています。

ドヴォルザークがニューヨークに招かれる経緯についてはどこかで書いたつもりになっていたのですが、どうやら一度もふれていなかったようです。ただし、あまりにも有名な話なので今さら繰り返す必要はないでしょう。
しかし、次のように書いた部分に関しては、もう少し補足しておいた方が親切かもしれません。

この作品はその副題が示すように、新世界、つまりアメリカから彼のふるさとであるボヘミアにあてて書かれた「望郷の歌」です。

この作品についてドヴォルザークは次のように語っています。
「もしアメリカを訪ねなかったとしたら、こうした作品は書けなかっただろう。」
「この曲はボヘミアの郷愁を歌った音楽であると同時にアメリカの息吹に触れることによってのみ生まれた作品である」


この「新世界より」はアメリカ時代のドヴォルザークの最初の大作です。それ故に、そこにはカルチャー・ショックとも言うべき彼のアメリカ体験が様々な形で盛り込まれているが故に「もしアメリカを訪ねなかったとしたら、こうした作品は書けなかっただろう」という言葉につながっているのです。

それでは、その「アメリカ体験」とはどのようなものだったでしょうか。
まず最初に指摘されるのは、人種差別のない音楽院であったが故に自然と接することが出来た黒人やアメリカ・インディオたちの音楽との出会いです。

とりわけ、若い黒人作曲家であったハリー・サンカー・バーリとの出会いは彼に黒人音楽の本質を伝えるものでした。
ですから、そう言う新しい音楽に出会うことで、そう言う「新しい要素」を盛り込んだ音楽を書いてみようと思い立つのは自然なことだったのです。

しかし、そう言う「新しい要素」をそのまま引用という形で音楽の中に取り込むという「安易」な選択はしなかったことは当然のことでした。それは、彼の後に続くバルトークやコダーイが民謡の採取に力を注ぎながら、その採取した「民謡」を生の形では使わなかったののと同じ事です。

ドヴォルザークもまた新しく接した黒人やアメリカ・インディオの音楽から学び取ったのは、彼ら独特の「音楽語法」でした。
その「音楽語法」の一番分かりやすい例が、「家路」と題されることもある第2楽章の5音(ペンタトニック)音階です。

もっとも、この音階は日本人にとってはきわめて自然な音階なので「新しさ」よりは「懐かしさ」を感じてしまい、それ故にこの作品が日本人に受け入れられる要因にもなっているのですが、ヨーロッパの人であるドヴォルザークにとってはまさに新鮮な「アメリカ的語法」だったのです。
とは言え、調べてみると、スコットランドやボヘミアの民謡にはこの音階を使用しているものもあるので、全く「非ヨーロッパ的」なものではなかったようです。

しかし、それ以上にドヴォルザークを驚かしたのは大都市ニューヨークの巨大なエネルギーと近代文明の激しさでした。そして、それは驚きが戸惑いとなり、ボヘミアへの強い郷愁へとつながっていくのでした。
どれほど新しい「音楽的語法」であってもそれは何処まで行っても「手段」にしか過ぎません。
おそらく、この作品が多くの人に受け容れられる背景には、そう言うアメリカ体験の中でわき上がってきた驚きや戸惑い、そして故郷ボヘミアへの郷愁のようなものが、そう言う新しい音楽語法によって語られているからです。

「この曲はボヘミアの郷愁を歌った音楽であると同時にアメリカの息吹に触れることによってのみ生まれた作品である」という言葉に通りに、ボヘミア国民楽派としてのドヴォルザークとアメリカ的な語法が結びついて一体化したところにこの作品の一番の魅力があるのです。
ですから、この作品は全てがアメリカ的なもので固められているのではなくて、まるで遠い新世界から故郷ボヘミアを懐かしむような場面あるのです。

その典型的な例が、第3楽章のスケルツォのトリオの部分でしょう。それは明らかにボヘミアの冒頭音楽(レントラー)を思い出させます。
そして、そこまで明確なものではなくても、いわゆるボヘミア的な情念が作品全体に散りばめられているのを感じとることは容易です。

初演は1893年、ドヴォルザークのアメリカでの第一作として広範な注目を集め、アントン・ザイドル指揮のニューヨーク・フィルの演奏で空前の大成功を収めました。
多くのアメリカ人は、ヨーロッパの高名な作曲家であるドヴォルザークがどのような作品を発表してくれるのか多大なる興味を持って待ちかまえていました。そして、演奏された音楽は彼の期待を大きく上回るものだったのです。

それは、アメリカが期待していたアメリカの国民主義的な音楽であるだけでなく、彼らにとっては新鮮で耳新しく感じられたボヘミア的な要素がさらに大きな喜びを与えたのです。
そして、この成功は彼を音楽院の院長として招いたサーバー夫人の面目をも施すものとなり、2年契約だったアメリカ生活をさらに延長させる事につながっていくのでした。


完璧なまでの合奏による凄味

セルはドヴォルザークの新世界を3回録音しています。

チェコ・フィル 1937年10月30日録音
クリーブランド管弦楽団 1952年1月18日録音
クリーブランド管弦楽団 1959年3月20~21日録音

そして、この年明けにこれらをまとめて聞き直してみました。
それは、昨年の暮れからlinuxの上で動く「MPD(Music Player Daemon)」というシステムで音楽を聴くようになり、今までとは随分雰囲気が変わって聞こえるようになったからです。

興味ある方はこちら→ 最強の再生システム「MPD」//CD評価の難しさ

前回はリスニングルームを新しくしたことによる「変化」でしたが、今回もそれに匹敵するぐらいの「変化」がありました。

ここはオーディオ関係のことを云々する場所ではないので深入りは避けますが、このあたりに「録音」という媒介物を通して演奏を評価することの難しさがあります。

そして、この「変化」によって一番印象が変わったのが、今回アップしたステレオ録音による演奏です。

52年のモノラル録音を評して

「このモノラル録音では、あのあまりにも有名な第2楽章のメロディが、この上もなく深い情緒に満たされていることに驚かされます。
技術的な完璧さやオケの響きの緻密さという点ではステレオ録音に軍配が上がるでしょうが、この曰く言い難い風情というか情緒はこのモノラル録音でしか感じ取ることが出来ません。」

等と書いたのですが、じっくり聞き込んでみると、一見素っ気なく見えるステレオ録音の第2楽章も実に細かいニュアンスで彩られていることに気づかされます。
そして、何よりも圧倒的なのは、音楽が大きく盛り上がる部分での完璧なまでの合奏による凄味です。ここは、今まではそれぞれの楽器のセパレーションが良くなかったので「凄味」までは感じ取れなかったのですが、今度の新しいステムで聞くと、まさに圧倒的な迫力であり、実に熱い演奏であったことに気づかされます。

セルというと、理知的で冷たいという印象があるのですが、こうして16ビット/44.1KhzというCD規格の中におさめられている情報を極限まで絞り出して聞いてみると、セルもまた50~60年代のアメリカの黄金時代を背景とした音楽だったのかと思うようになってきました。
音楽を精緻にして豪快に鳴らし切ったときの生理的爽快感は、つまらぬ精神性に彩られた曲線的な演奏などを跳ねとばしてしまうほどの魅力があります。そして、この時代のアメリカは疑いもなくそのような音楽を欲していました。
たとえ、有名な音楽評論家から「猫ほどの知性もない」と酷評されても、多くの聴衆はホロヴィッツの音楽に喝采を送ったのです。それは、ハイフェッツやルービンシュタインにしても事情はそれほど変わるはずはありません。そして、ライナーやセルもまた然りだったように思います。そう言う意味では、ここにあるのはフルトヴェングラーの対極にある音楽たちです。

最終楽章の熱狂的な盛り上がりが一糸乱れぬ鬼のアンサンブルでばく進するとき、当時のアメリカの聴衆は拍手喝采を送ったはずです。
そう言う意味では、セルの演奏もまたこの時代のアメリカの時代精神を色濃く反映した音楽だったと言えそうです。

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2016-03-06:emanon


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