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ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36

クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1957年10月録音



Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第4楽章」


ベートーベンの緩徐楽章は美しい。

これは以外と知られていないことですが、そこにベートーベンの知られざる魅力の一つがあります。
 確かにベートーベンが最もベートーベンらしいのは驀進するベートーベンです。
 交響曲の5番やピアノソナタの熱情などがその典型でしょうか。
 しかし、瞑想的で幻想性あふれる音楽もまたベートーベンを構成する重要な部分です。


 思いつくままに数え上げても、ピアノコンチェルト3番の2楽章、交響曲9番の3楽章、ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス、ヴァイオリンソナタのスプリング、そしてピアノソナタ、ハンマークラヴィーアの第3楽章。
 そう言う美しい緩徐楽章のなかでもとびきり美しい音楽が聞けるのが、交響曲第2番の第2楽章です。

 ベートーベンの交響曲は音楽史上、不滅の作品と言われます。しかし、初期の1番・2番はどうしても影が薄いのが事実です。
 それは3番「エロイカ」において音楽史上の奇跡と呼ばれるような一大飛躍をとげたからであり、それ以後の作品と比べれば確かに大きな落差は否めません。しかし、ハイドンからモーツァルトへと引き継がれてきた交響曲の系譜のなかにおいてみると両方とも実に立派な交響曲です。

 交響曲の1番は疑いもなくジュピターの延長線上にありますし、この第2番の交響曲はその流れのなかでベートーベン独自の世界があらわれつつあります。
 特に2番では第1楽章の冒頭に長い序奏を持つようになり、それが深い感情を表出するようになるのは後年のベートーベンの一つの特徴となっています。また、第3楽章はメヌエットからスケルツォへと変貌を遂げていますが、これもベートーベンの交響曲を特徴づけるものです。
 そして何よりも第2楽章の緩徐楽章で聞ける美しいロマン性は一番では聞けなかったものです。
 
 しかし、それでも3番とそれ以降の作品と併置されると影が薄くなってしまうのがこれらの作品の不幸です。第2楽章で聞けるこの美しい音楽が、影の薄さ故に多くの人の耳に触れないとすれば実に残念なことです。
 後期の作品に聞ける深い瞑想性と比べれば甘さがあるのは否定できませんが、そう言う甘さも時に心地よく耳に響きます。

 もっと聞かれてしかるべき作品だと思います。


一度はココロして正面から向かい合いたい音楽

クレンペラーとフィルハーモニア管は1955年にベートーベンの録音を始めるのですが、途中からステレオ録音の時代に突入したために、1957年からあらためてセッションを開始します。
ただし、3番・5番・7番はモノラルでの録音をすましているので、集中して録音された1957年の10月と11月には残りの交響曲を一気に録音しています。おそらく、クレンペラーにしてみればこれで全ての交響曲の録音は終了した思いだったでしょうが、プロデューサーにしてみれば3曲がモノラルのままでは営業上まずいのは明らかなので、59年に3番と5番、60年に7番を改めてステレオで録音し直してめでたく「全集」が完成します。
そのせいで、55年のモノラル録音が継子扱いされる不幸については既に述べました。

クレンペラーのベートーベンは「厳かなまでの厳しさ」に貫かれているのが特徴であり、それはクレンペラー以外の指揮者では絶対になしえないであろう強い個性が刻印されています。
基本的にはインテンポで推し進められていくあたりはクリュイタンスと同じなのですが、音楽のたたずまいは随分と異なります。
クリュイタンスのインテンポは、その事によって作品の内部構造がくっきりと浮かび上がってくるような明晰さをもたらします。しかし、クレンペラーのインテンポは、全ての障害物をなぎ倒して押し進んでいく重戦車のような迫力をもたらします。そして、その突撃が喊声を上げて突き進むような「動的」なものでなく、厳かなまでの「静けさ」の中で成し遂げられていくので、何とも言えない「凄味」が醸し出だされます。
そのもっとも素晴らしい例が、最後に録音された第7番の演奏です。
あそこには、インテンポの鬼とも言うべきクレンペラーの凄さがもっともはっきりとした形で刻印されています。まさに氷りづけにされた情熱です。

クレンペラーの音楽は官能に訴えるような分かりやすさとは最も遠いところにある演奏です。そして、人の感情に訴えかけるような「下品」な振る舞いはひたすら避けて、結果として聞き手の前に見上げるような巨大な構築物を組み上げてくれます。
素っ気ないと言えば素っ気なく、厳しいと言えば厳しい音楽であり、作品によってはもう少し愛想があってもいいのではないかと思うときもありますが、それがベートーベンであれば不満はありません。
決して、聞きやすく、耳になじみやすい音楽ではありませんが、一度はココロして正面から向かい合いたい音楽であることは間違いありません。

<1番・2番について>
おそらく、作曲したベートーベン本人だって、こんなにも立派な交響曲を書いたという思いはなかったでしょう。そして、このやり方は、一連のハイドンのシンフォニーにおけるやり方と全く同じです。
とにかく、この男にとって古典派の交響曲というのは、強固で巨大な構造を持った建築物として再現しなければ気がすまなかったようなのです。そこには、洒落やウィットなどは入るこむ隙間もありませんでした。
そして、そんなやり方はモーツァルトの交響曲においても揺るぐことはありませんでした。しかし、モーツァルトに関しては、なるほどこんな表現もあるのだと感心はしながら、どこかに違和感を感じないわけではありません。

ですから、この男の演奏でハイドンのザロモンセットやモーツァルトの一連の交響曲を聞き、その流れでこの2つの初期シンフォニーを聞くと、なるほどハイドンの直系の後継者はモーツァルトではなくてベートーベンであることを確信させてくれます。

ベートーベンの交響曲全集などを仕上げるときに、意外と難しいのがこの2つの初期シンフォニーでしょう。どうしても、刺身のつまみたいな扱いを受けてしまうのですが、こういう演奏を聴かされると、そんなことで悩むのはまだまだ修行が足りないと言うことなのでしょう。

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