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Home|クレンペラー(Otto Klemperer)|ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21

ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21

クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1957年10月録音



Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第4楽章」


栴檀は双葉より芳し・・・?

ベートーベンの不滅の9曲と言われ交響曲の中では最も影の薄い存在です。その証拠に、このサイトにおいても2番から9番まではとっくの昔にいろいろな音源がアップされているのに、何故か1番だけはこの時期まで放置されていました。今回ようやくアップされたのも、ユング君の自発的意志ではなくて、リクエストを受けたためにようやくに重い腰を上げたという体たらくです。

でも、影は薄いとは言っても「不滅の9曲」の一曲です。もしその他の凡百の作曲家がその生涯に一つでもこれだけの作品を残すことができれば、疑いもなく彼の代表作となったはずです。問題は、彼のあとに続いた弟や妹があまりにも出来が良すぎたために長兄の影がすっかり薄くなってしまったと言うことです。

この作品は第1番という事なので若書きの作品のように思われますが、時期的には彼の前期を代表する6曲の弦楽四重奏曲やピアノ協奏曲の3番などが書かれた時期に重なります。つまり、ウィーンに出てきた若き無名の作曲家ではなくて、それなりに名前も売れて有名になってきた男の筆になるものです。モーツァルトが幼い頃から交響曲を書き始めたのとは対照的に、まさに満を持して世に送り出した作品だといえます。それは同時に、ウィーンにおける自らの地位をより確固としたものにしようと言う野心もあったはずです。

その意気込みは第1楽章の冒頭における和音の扱いにもあらわれていますし、、最終楽章の主題を探るように彷徨う序奏部などは聞き手の期待をいやがうえにも高めるような効果を持っていてけれん味満点です。第3楽章のメヌエット楽章なども優雅さよりは躍動感が前面にでてきて、より奔放なスケルツォ的な性格を持っています。
基本的な音楽の作りはハイドンやモーツァルトが到達した地点にしっかりと足はすえられていますが、至る所にそこから突き抜けようとするベートーベンの姿が垣間見られる作品だといえます。


一度はココロして正面から向かい合いたい音楽

クレンペラーとフィルハーモニア管は1955年にベートーベンの録音を始めるのですが、途中からステレオ録音の時代に突入したために、1957年からあらためてセッションを開始します。
ただし、3番・5番・7番はモノラルでの録音をすましているので、集中して録音された1957年の10月と11月には残りの交響曲を一気に録音しています。おそらく、クレンペラーにしてみればこれで全ての交響曲の録音は終了した思いだったでしょうが、プロデューサーにしてみれば3曲がモノラルのままでは営業上まずいのは明らかなので、59年に3番と5番、60年に7番を改めてステレオで録音し直してめでたく「全集」が完成します。
そのせいで、55年のモノラル録音が継子扱いされる不幸については既に述べました。

クレンペラーのベートーベンは「厳かなまでの厳しさ」に貫かれているのが特徴であり、それはクレンペラー以外の指揮者では絶対になしえないであろう強い個性が刻印されています。
基本的にはインテンポで推し進められていくあたりはクリュイタンスと同じなのですが、音楽のたたずまいは随分と異なります。
クリュイタンスのインテンポは、その事によって作品の内部構造がくっきりと浮かび上がってくるような明晰さをもたらします。しかし、クレンペラーのインテンポは、全ての障害物をなぎ倒して押し進んでいく重戦車のような迫力をもたらします。そして、その突撃が喊声を上げて突き進むような「動的」なものでなく、厳かなまでの「静けさ」の中で成し遂げられていくので、何とも言えない「凄味」が醸し出だされます。
そのもっとも素晴らしい例が、最後に録音された第7番の演奏です。
あそこには、インテンポの鬼とも言うべきクレンペラーの凄さがもっともはっきりとした形で刻印されています。まさに氷りづけにされた情熱です。

クレンペラーの音楽は官能に訴えるような分かりやすさとは最も遠いところにある演奏です。そして、人の感情に訴えかけるような「下品」な振る舞いはひたすら避けて、結果として聞き手の前に見上げるような巨大な構築物を組み上げてくれます。
素っ気ないと言えば素っ気なく、厳しいと言えば厳しい音楽であり、作品によってはもう少し愛想があってもいいのではないかと思うときもありますが、それがベートーベンであれば不満はありません。
決して、聞きやすく、耳になじみやすい音楽ではありませんが、一度はココロして正面から向かい合いたい音楽であることは間違いありません。

<1番・2番について>
おそらく、作曲したベートーベン本人だって、こんなにも立派な交響曲を書いたという思いはなかったでしょう。そして、このやり方は、一連のハイドンのシンフォニーにおけるやり方と全く同じです。
とにかく、この男にとって古典派の交響曲というのは、強固で巨大な構造を持った建築物として再現しなければ気がすまなかったようなのです。そこには、洒落やウィットなどは入るこむ隙間もありませんでした。
そして、そんなやり方はモーツァルトの交響曲においても揺るぐことはありませんでした。しかし、モーツァルトに関しては、なるほどこんな表現もあるのだと感心はしながら、どこかに違和感を感じないわけではありません。

ですから、この男の演奏でハイドンのザロモンセットやモーツァルトの一連の交響曲を聞き、その流れでこの2つの初期シンフォニーを聞くと、なるほどハイドンの直系の後継者はモーツァルトではなくてベートーベンであることを確信させてくれます。

ベートーベンの交響曲全集などを仕上げるときに、意外と難しいのがこの2つの初期シンフォニーでしょう。どうしても、刺身のつまみたいな扱いを受けてしまうのですが、こういう演奏を聴かされると、そんなことで悩むのはまだまだ修行が足りないと言うことなのでしょう。

この演奏を評価してください。

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