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バルビローリ((Sir John Barbirolli)|ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21
ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21
バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1958年1月1日録音
Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第1楽章」
Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第2楽章」
Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第3楽章」
Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第4楽章」
栴檀は双葉より芳し・・・?
ベートーベンの不滅の9曲と言われ交響曲の中では最も影の薄い存在です。その証拠に、このサイトにおいても2番から9番まではとっくの昔にいろいろな音源がアップされているのに、何故か1番だけはこの時期まで放置されていました。今回ようやくアップされたのも、ユング君の自発的意志ではなくて、リクエストを受けたためにようやくに重い腰を上げたという体たらくです。
でも、影は薄いとは言っても「不滅の9曲」の一曲です。もしその他の凡百の作曲家がその生涯に一つでもこれだけの作品を残すことができれば、疑いもなく彼の代表作となったはずです。問題は、彼のあとに続いた弟や妹があまりにも出来が良すぎたために長兄の影がすっかり薄くなってしまったと言うことです。
この作品は第1番という事なので若書きの作品のように思われますが、時期的には彼の前期を代表する6曲の弦楽四重奏曲やピアノ協奏曲の3番などが書かれた時期に重なります。つまり、ウィーンに出てきた若き無名の作曲家ではなくて、それなりに名前も売れて有名になってきた男の筆になるものです。モーツァルトが幼い頃から交響曲を書き始めたのとは対照的に、まさに満を持して世に送り出した作品だといえます。それは同時に、ウィーンにおける自らの地位をより確固としたものにしようと言う野心もあったはずです。
その意気込みは第1楽章の冒頭における和音の扱いにもあらわれていますし、、最終楽章の主題を探るように彷徨う序奏部などは聞き手の期待をいやがうえにも高めるような効果を持っていてけれん味満点です。第3楽章のメヌエット楽章なども優雅さよりは躍動感が前面にでてきて、より奔放なスケルツォ的な性格を持っています。
基本的な音楽の作りはハイドンやモーツァルトが到達した地点にしっかりと足はすえられていますが、至る所にそこから突き抜けようとするベートーベンの姿が垣間見られる作品だといえます。
基本的にはミスマッチなのですが・・・。
バルビローリのベートーベンと言われてピント来る人はほとんどいないでしょう。
私たちにとってバルビローリと言えば、まずはシベリウスに代表される北欧系の作曲家や、世界的にはあまり人気があるとは思えない英国の作曲家達を積極的に取り上げた人というのが最初のイメージでしょう。そこに加えて、優れたマーラー指揮者であり、ドヴォルザークやチャイコフスキー等でとても個性的で優れた録音を残した人というのが続きます。
その特徴は、まず何よりもよく歌うこと、そして揺れ動きつつその音楽に込められたロマンティックな感情を恥ずかしげもなくさらけ出す度胸を持ち合わせていたことです。たとえば、ウィーンフィルと録音したブラームスの交響曲全集などは、よほどの度胸がなければあんな風に演奏できるものではありません。
ですから、バルビローリにとってベートーベンのような「構築型」の音楽はどう考えても相性がいいとは思いません。
調べてみたのですが、私の知る限りでは、ベートーベンの交響曲を録音したのは以下の通りです。
交響曲第4番:ニューヨークフィル 1936年録音
交響曲第5番:ハレ管弦楽団 1947年録音
交響曲第1番:ハレ管弦楽団 1958年録音
交響曲第8番:ハレ管弦楽団 1958年録音
交響曲第3番:BBC交響楽団 1967年録音
たったこれだけです。
そして、交響曲以外では、「コリオラン序曲(1937年録音)」「レオノーレ序曲第3番(1959年録音)」「エグモント序曲(1949年録音)」のような管弦楽曲と「ピアノ協奏曲第5番(1959年録音)」くらいしかないのではないでしょうか。
この時代の巨匠と言われた指揮者のなかでは、異例と言っていいほどの少なさです。
さて、少しばかりチェックを入れてみると、不遇のニューヨーク時代にケリをつけて、新たにハレ管弦楽団との関係を築き始めた頃に録音された「運命」が既にアップしていることに気づきました。そして、そこを読むとこんな風に書いてあります。
「この演奏を聴き始めたとき、ずいぶん小ぶりな運命だな、と思いました。しかし、聞き進むうちにこれは小ぶりなのではなくて「歌う運命」だと気づいた次第です。
音楽を歌わせることにかけては20世紀最高の指揮者と言ってもいいのがバルビローリです。それだけに、「音楽は構成だ!」と叫ぶこの作品に対しても、基本は「歌わせる」ことで徹底しています。
第2楽章を朗々と歌うのはまだしも理解できますが、その勢いで第3楽章においても入念に表情付けを行って実によく歌っています。
決してスタンダードな演奏とは言えませんが、いかにもバルビローリらしい「運命」となっています。」
我ながら、ポイント押さえて上手く書いているものだとほっと胸をなで下ろしました。
確かに、今回紹介した1番と8番の交響曲も、星の数ほども録音が出回っているなかで、無理をしてこの録音を選ぶ理由は何一つないでしょう。しかし、バルビローリとベートーベンという、どう考えてもミスマッチとしか言いようのない組み合わせであっても、徹底的にバルビローリ色に染め上げていく彼の芸を楽しみたいという人には興味深い録音です。
そう言う意味では、人格者として知られるこのジェントルマンも、その根っこの部分ではかなり「我」の強い人だったんだろうなと思わせられます。
そして、そんな「我」の強さが一番いい形で炸裂しているのが67年に録音された「エロイカ」でしょう。パブリックドメインになるにはかなりの時間が必要ですが、もし聞く機会があれば一度は聞いてみる価値があると思います。音楽が崩壊する寸前の遅いテンポで朗々と歌われるエロイカは、古典派の交響曲というよりは、まるでロマン派のシンフォニーのように響きます。
恐るべし、バルビローリなのです。
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