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バックハウス(Wilhelm Backhaus)|ブラームス:3つの間奏曲 作品117より第1曲 変ホ長調
ブラームス:3つの間奏曲 作品117より第1曲 変ホ長調
(P)バックハウス 1956年録音
Brahms:三つの間奏曲 作品117より第1曲 変ホ長調
舞い落ちる枯れ葉
この小品が大好きでした。もちろん今も大好きです。そして、もしかしたら数あるピアノ音楽のなかで私が一番好きな作品がこれかもしれません。
よく知られているように、創作力の衰えを感じた晩年のブラームスは作品の整理と小品の作曲のみに専念しました。それが人一倍自己批判力の強いブラームスという音楽家の身の処し方だったのでしょう。もっとも、このように思い定めた数年後にミュールフェルトという優れたクラリネット奏者と出会い、それがきっかけとなって最晩年の重要な二つのクラリネット作品が生み出されます。クラリネット五重奏曲と三重奏曲です。
しかし、それも一時のことで、1892年からは再び小品の世界へと戻っていきます。その後も、クラリネットへの愛着がたちがたく、94年には二つのクラリネットソナタを生み出しますが、この最晩年のブラームスを特徴づけるのは作品番号で言えば116番以降のピアノ小品の世界です。
そんなブラームスのピアノ小品は、年を経るほどに身近なものに感じられるようになってきました。
若い頃のブラームスのピアノ作品と言えば、パガニーニやヘンデルの主題による変奏曲に代表されるように、規模が大きくてエネルギッシュな作風が特徴でした。そう言う作品と比べると、この晩年の小品群は別人のものかともうほどに簡明で、かつ地味な音楽です。
若い頃は、ちょっと洒落た気分になって、こういう枯れた小品もいいね!などと言っていたものが、年をとるにつれて本当によくなってくると言うのは恐ろしいもので、自分のなかに若い頃のようなエネルギーが枯渇しているのかもしれないと言う事実を突きつけられたような気がします。
このブラームス自身が「苦悩の子守歌」と題した3つの間奏曲のなかで、この第1番は古いスコットランドの子守歌の歌詞が冒頭に引用されています。
「安からに眠れ、わが子、眠れ安らかに、美しく!
私はおまえの泣くのを見るのがたまらない。」
彼は「ある恵まれない母親の子守歌」と題されたこの子守歌からインスピレーションを得てこの作品を生み出したと言うことなのでしょうが、私にはそう言う子守歌的なものよりは、まさに枯れ葉舞い落ちる「秋」そのもののイメージが語られているように思われます。
そして、その舞い落ちる枯れ葉の一枚一枚に託して、過ぎ去った己の人生のあれこれを、愚痴の一歩手前になる範囲で節度をもってポツリポツリと語られているような風情です。
やっぱり、年だな、私も。
無骨さのなかの深い味わい
私はこの作品をカーゾンのピアノで聞くのが好きです。セルとのコンビで録音した第1番のコンチェルトの埋め草のように収録されている演奏です。あの演奏と比べると、このバックハウスのピアノははるかに無愛想です。ですから、若い頃はもうちょっとは愛想よく演奏できんのか、などとほざいておりました。
しかし、ブラームスの晩年の小品にロマン派的情緒は無用だと思うようになってくると、カーゾンの演奏は少しばかり愛想がよすぎるかもしれないと思うようにもなってきます。そして、このバックハウスの無骨なまでの愛想のなさがかえって好ましく思えてきたりもします。
まあ、どちらにしても、この二人のピアノはきっと死ぬまで聞き続けることでしょう。
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1304 Rating: 5.7/10 (145 votes cast)
よせられたコメント
2010-10-09:カンソウ人
- ブラームスのこの曲はリクエストしたことがありました。
ロマンティックなこの音楽に惚れ込んだのは大学時代でした。
グル―ドのブラームスの間奏曲はこの曲の魅力を教えてくれました。
アファナシェフの演奏には、自分の壮年期に出会いました。
老境のブラームスを想像するには適切な演奏でしたが、その過剰な演出は現代感覚そのものです。
バックハウスのCDはダンボール箱の底にあったまま、この夏まで封を切られる事はありませんでした。
ユングさんも書いておられるように、武骨な微笑まない演奏でした。
でも、ブラームスはこのような物を想定していたのでしょうね。
そんな気がしました。
今の定年前の自分には、ピッタリな感じがします。
出来ることなら、SP時代のバックハウスの演奏で、ブラームスの晩年のピアノ曲が聴きたいものだなあ。
それは本当に自分の楽しみです。
自分が死ぬまでに満たされないかもしれないけれど、大騒ぎして手に入れようとはしないつもりです。
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