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ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30

P:クライバーン コンドラシン指揮 シンフォニー・オブ・ジ・エア 1958年5月19日録音



Rachmaninoff:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30 「第1楽章」

Rachmaninoff:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30 「第2楽章」

Rachmaninoff:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30 「第3楽章」


難曲中の難曲

今では映画「シャイン」のおかげで、2番のコンチェルトよりも有名になってしまったかもしれません。なんといっても、古今東西のあらゆるピアノ協奏曲の中でこれほどまでに演奏が困難なものはちょっと思い当たりませんし、映画でもその点を強調して主人公はその困難さにとりつかれて精神に異常をきたしてしまうのですから、話題性は満点です。

しかし、どうなんでしょうか?最近のバカウマの若手連中なら誰でも弾きこなすのではないでしょうか。確かに難しいことは難しいでしょうし、とりわけ2種類あるカデンツァのうち「ossia」と呼ばれる方はとんでもなく難しいものです。それでも、演奏するだけなら何とかやり遂げるだけの能力は今の若手ならほとんどが身につけているのではないでしょうか。

それはさておき、この作品を聞けば、派手さはあるものの2番のコンチェルトで聞けたロシアの郷愁のようなものは後退していることに気づかされます。それは、この作品がラフマニノフのアメリカへの演奏旅行のために創作されたという経緯とも関係しているのかもしれません。当時のアメリカではとにかく派手な名人芸がもてはやされていましたから、この作品ではラフマニノフの芸人魂が爆発したかのような作品が出来上がってしまったのではないでしょうか。
とにかくピアノという楽器を使ってどこまで圧倒的に音楽を盛り上げることができるのかという課題に対する一つの模範解答がここにあることは間違いありません。
ただしなのです。
この作品に限ったことではないのですが、私には彼の作品に散漫でとりとめのない雰囲気を感じ取ってしまうのです。その散漫さが2番のコンチェルトでは影を潜めていたのが、ここでまたあふれ出してきたように感じられます。
ピアノの響きはどこまでも分厚くて重厚であり、それがここぞという場面ではクレッシェンドに続くクレッシェンドで音楽を圧倒的に盛り上げていくのですが、聞き終わった後になんと見えない空虚さを感じてしまいます。その芸人魂には感服するのですが、果たして歴史の審判に耐えて芸術作品として後世に残るのかと聞かれれば自信を持ってイエスとは言えないユング君です。


ある種の痛ましさを感じる演奏

辻井伸行氏が「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」で優勝して一躍時の人になってから、あっという間に1年が経ってしまいました。あの頃は、「クライバーンの録音をアップしてください」などというメールをたくさんいただいたものですが、基本的にへそが曲がっているユング君は意地でもアップするのものかと嘯きながら、さらには嫌われることを承知のうえで、ブログの方にこんな事を書いたりしていました。

「マスコミはクライバーンのことを世界的ピアニストなどと言っていますが、それは大間違い!!
確かに、彼は若くしてチャイコフスキーコンクールに優勝して一躍スターに祭りあげられました。しかし、悲しいかな、その後はタレントのごとく引き回されてあっという間に才能をすり減らされ、その後は引退同然になってしまった人です。

* ラルフ・ヴォダペク(1962)
* ラドゥ・ルプー(1966)
* クリスティーナ・オルティーズ(1969)
* ウラディミール・ヴィアルド(1973)
* スティーヴン・デ・ グローテ(1977)
* アンドレ=ミシェル・シューブ(1981)
* ホセ・フェガーリ(1985)
* アレクセイ・スルタノフ(1989)
* シモーネ・ペドローニ(1993)
* ジョン・ナカマツ(1997)
* スタニスラフ・ユデニチ、オルガ・ケルン(2001)
* アレクサンダー・コブリン(2005)
* 辻井伸行、チャン・ハオチェン(2009)

これが、このコンクールの優勝者です。

私の不勉強かもしれませんが、この中で知っているのは66年優勝のルプーだけです。
これで、世界一のコンクールと報道するのはちょっと苦しいです。

おまけに、そのルプーの経歴を調べてみると、彼はこのクライバーンのコンクールを登竜門として世界的ピアニストとして羽ばたいていったのではないことが分かります。
彼はクライバーンコンクールにに優勝したあと、なんと、もう一度音楽院に戻って勉強し直しているのです。
そして、67年のエネスコ国際コンクール、69年のリーズ国際ピアノ・コンクールに優勝することで自信を深めて演奏活動を再開し、同年の11月にロンドン・デビューを成功させ国際的な演奏活動を始めるようになったのです。」

これくらいのことは、調べる気になれば5分もあれば十分だと思うのですが、それでもマスコミは「世界的ピアニスト、クライバーン」「世界一のコンクール」と連日のようにかき立てていました。

でもまあ、騒ぎも一段落したことなので、そろそろ「世界的ピアニスト」であるクライバーンの録音を取り上げてもいい頃でしょう。

1958年に、ソ連が国の威信をかけてかけて開催した「チャイコフスキー国際コンクール」で、大方の予想を覆して無名のアメリカの若者が優勝をかっさらったことは、当時のアメリカ国民を驚喜させました。
そして、一躍時の人となったクライバーンを待ち受けていたのが、「アイゼンハワー大統領による空港での出迎え」「ホワイトハウスでの祝賀パーティ」「カーネギーホールでの凱旋コンサート」そして「紙吹雪が舞う中での5番街のパレード」でした。
そして、そんな合間をぬって企画されたのがチャイコフスキーとラフマニノフの録音でした。

正直言って、これらの録音を聞くと、ある種の痛ましさを感じてしまいます。
ここからは、音楽には絶対に必要な自由で伸びやかな喜びみたいなものがどこからも伝わってきません。それどころか、必死の形相で、それこそ切羽詰まった焦燥感のようなものにあおり立てられながら演奏しているクライバーン姿が浮かんでくるのです
おそらく、クライバーンは自分の目の前で演じられた信じがたいほどの「歓迎行事」を通して己に向けられたアメリカ国民の「期待」を感じ取ったはずです。そして、この手の「期待」はそれを背負うものにとっては簡単に「恐怖」に転化します。

ああ、彼はいったいどのような思いでこの録音に臨んだのでしょう。絶対に失敗できないと思えば指は硬直するでしょうし、それを振り切ろうとすれば逆に力みかえってしまうはずです。
この大騒ぎが一段落した61年に、ライナー&シカゴ響のバックアップで録音したラフマニノフの2番が実に細やかなニュアンスに富んだ名演になっているのを聞くと、この時の彼の「恐怖」がいかばかりものだったのかと同情してしまいます。
そして、この時期の彼の録音を聞くと、世間(マスコミを除く)で言われるほどの「能なし」ピアニストではなかったことも分かります。このチャイコフスキーとラフマニノフの録音も、そう言う「悪条件」の中での録音だと考えれば「健闘」の部類にはいると言えるかもしれません。

それだけに、マスコミに引き回されてこの後のキャリアを台無しにしてしまったことは残念だったと言わざるを得ません。

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