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ミュンシュ(Charles Munch)|サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調 Op.78「オルガン付き」
サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調 Op.78「オルガン付き」
シャルル・ミンシュ指揮 ボストン交響楽団 1959年4月5日~6日録音
Saint-Saens:交響曲第3番 ハ短調 Op.78 「オルガン付き」 「第1楽章(前半)」
Saint-Saens:交響曲第3番 ハ短調 Op.78 「オルガン付き」 「第1楽章(後半)」
Saint-Saens:交響曲第3番 ハ短調 Op.78 「オルガン付き」 「第2楽章(前半)」
Saint-Saens:交響曲第3番 ハ短調 Op.78 「オルガン付き」 「第2楽章(後半)」
虚仮威しか壮麗なスペクタルか?
巨大な編成による壮大な響きこそがこの作品の一番の売りでしょう。3管編成のオケにオルガンと4手のピアノが付属します。そして、フィナーレの部分ではこれらが一斉に鳴り響きます。
交響曲にオルガンを追加したのはサン=サーンスが初めてではありません。しかし、過去の作品はオルガンを通奏低音のように扱うものであって、この作品のように「独奏楽器」として華々しく活躍して場を盛り上げるものではありませんでした。それだけに、このフィナーレでの盛り上がりは今まで耳にしたことがないほどの「驚きとヨロコビ」を聴衆にもたらしたと思われるのですが、初演の時に絶賛の嵐が巻き起こったという記述は残念ながら見あたりません。
これは全くの想像ですが、当時のイギリスの聴衆(ちなみに、この作品はイギリスのフィルハーモニー協会の委嘱で作曲され、初演もイギリスで行われました)は、おそらく「凄いなー!!」と思いつつ、その「凄いなー」という感情を素直に表現するには「ちょっと気恥ずかしいなー」との警戒感を捨てきれずに、表面的にはそこそこの敬意を表して家路をたどったのではないでしょうか。
まあ、全くの妄想の域を出ませんが(^^;。
しかし、その辺の微妙な雰囲気というのは今もってこの作品にはつきまとっているように見えます。
よく言われることですが、この作品は循環形式による交響曲としてはフランクの作品と並び称されるだけの高い完成度を誇っています。第1部の最後でオルガンが初めて登場するときは、意外にもピアノで静かに静かに登場します。決して効果だけを狙った下品な作品ではないのですが、しかし、「クラシック音楽の王道としての交響曲」という「観点」から眺められると、どこか物足りなさと「気恥ずかしさ」みたいなものを感じてしまうのです。ですから、コアなクラシック音楽ファンにとって「サン=サーンスのオルガン付きが好きだ!」と宣言するのは、「チャイコフスキーの交響曲が好きだ」と宣言するよりも何倍も勇気がいるのです。
これもまた、全くの私見ですが、ハイドン、ベートーベン、ブラームスと引き継がれてきた交響曲の系譜が行き詰まりを見せたときに、道は大きく二つに分かれたように見えます。一つは、ひたすら論理を内包した響きとして凝縮していき、他方はあらゆるものを飲み込んだ響きとして膨張していきました。前者はシベリウスの7番や新ウィーン楽派へと流れ着き、後者はマーラーへと流れ着いたように見えます。
その様に眺めてみると、このオルガン付きは膨張していく系譜のランドマークとも言うべき作品と位置づけられるのかもしれません。
おそらく、前者の道を歩んだものにとってこの作品は全くの虚仮威しとしか言いようがないでしょうが、後者の道をたどったものにとっては壮麗なスペクタルと映ずることでしょう。ただ、すでにグロテスクなまでに膨張したマーラーの世界を知ったもににとって、この作品はあまりにも「上品すぎる」のが中途半端な評価にとどまる原因になっているといえば、あまりにも逆説的にすぎるでしょうか?
もしも、この最終楽章に声楽を加えてもっと派手に盛り上げていれば、保守的で手堅いだけの作曲家、なんて言われなかったと思うのですが、そこまでの下品さに身をやつすには彼のフランス的知性が許さなかったと言うことでしょう。
今でも現役盤として通用する録音
こういう演奏を聴くと、どうしてミンシュの評価が依然として低空飛行なのか首をかしげてしまいます。数年前に、ミンシュのボストン時代の録音がかなりまとまってリリースされたので、これで彼の評価も上がるだろう・・・と思ったのですが、変わらないですね。
ここで、私が「評価が低い」というのは、彼の演奏をけなしている人が多いという意味で使っているのではなくて、「話題に上ることが少ない」という意味で使っています。
たとえば、カラヤンなんかは褒めるにしても貶すにしても、彼のことは頻繁にネット上で話題になります。実は貶されるのも「評価」のうちで、一番悲しいのは「忘れ去られる」ことです。
何だか、ミンシュも「まあ、熱くていい演奏もしたけれどね・・・」みたいな感じで、次第にフェードアウトしながら忘却の無効に消えていきそうな懸念を感じてしまいます。
しかし、このサン・サーンスの「オルガン付き」なんかを聞くと、これを凌ほどの演奏は今でもなかなかないではないか!!・・・と思わせる力があります。とりわけ、オルガンが入ってきてからの絢爛豪華なオケの響かせ方は、さすがはミンシュだ!!と拍手をおくりたくなります。
もちろん、細部にはあまりこだわらず、それ故にボストン響の機能を低下させたという批判もあるのですが、こういう豪快にオケを慣らしきった演奏を聴かされると、それがどうしたとも言いたくなります。チマチマとした細部の微調整に終始した、瑕疵はなくても全く面白くない演奏よりは100倍も素敵です。
と、偉そうなことを書いたのですが、実は私もこの録音がパブリックドメインになっていることを全く忘れていたのです。
図書館で、何気なくレコ芸の「21世紀の名曲名盤」というのを手にとってパラパラとページを繰っていると、この録音が高く評価されていることに目がとまったのです。
確かに、「ミンシュ サン・サーンス オルガン付き」という組み合わせは実に良さげです。
そこで、帰ってから久しぶりに引っ張り出して聞いたみたところ、録音も良し、演奏も申し分なく良しで、「これって現役盤でも十分通用するじゃないですか」と思った次第なのです。
もっとも、評論家の先生方もそう思ったので、「21世紀の名曲名盤」でも高い評価を与えたのでしょう。こんな古い録音も忘れずにしっかり目配りしている評論家先生も偉いものです。
なお、話はいささか逸れますが、この「21世紀の名曲名盤」と言うシリーズは古楽器による洗礼も通り過ぎたようで、先祖返りのようなオーソドックスさにあふれています。
何よりも、一つ一つの作品について合議の様子が収録されているのが好ましいです。
それを読むと、取りあえずは1位、2位、3位になっているけれども仕方なく順番をつけたんだよ、とか、これは誰が何と言っても歴史的名盤だよ、というのが手に取るように分かります。
さらに、どうしてこれが?と疑問に思うような新録音が上位に顔を見せることもなく、論評の背後に各レーベルの影もあまり感じません。言葉を変えれば、それほどまでにクラシック音楽の新譜の世界は冷え込んでいると言うことなのでしょう。
そう言う意味では、個人的な趣向にこりかたっまった「裏盤ガイド」や「○○を聞け」みたいなものよりははるかに良心的で、クラシック音楽の演奏史を振り返る上では結構参考になるなぁと思うと同時に、レコ芸も変わってきたなぁと思った次第です。
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よせられたコメント
2010-04-27:南 一郎
- 先ずは、録音が持つエネルギーの厚みに驚きました。
レコード評でよく使われる言葉で「盤面に入りきらない」というものがありますが、まさにこの盤のことをいうのだと、全編を聞いて感じました。
それは、ミンシュの演奏の魅力も含めます。ミンシュの熱気と言うものは音で体感出来そうですが、気迫を音に聞くだけで、理解には不十分といえると考えます。
オーケストラをオルガンに仕立てたのはストコフスキーとフィアデルフィアですが、ミンシュはこの交響曲をオルガン付きの次元ではなく、オーケストラをオルガンとして豪快にドライブして、オルガンは通奏低音扱い位にしか思っていなかったのでは無いでしょうか。
コンサートホールのオルガンは、ヨーロッパの教会で聞くそれに比べて、音が薄いです。ミンシュのこの演奏には、建物ごと鳴り響く教会のオルガンを彷彿とさせる音を感じさせます。
古い演奏には、音楽の背景に熱気を感じることが多く、もう体験出来ない音楽空間に自分を置きたい願望が捨て切れません。この会場に居られたら、どんな汗をかけたのでしょうか。
管理人もこの演奏評に書かれていますが、新譜や聴衆冷え込みの要因に、何かに取り付かれる程の熱気が薄れていて、聞いて知ったことしか語られない薄さを悲しく感じてしまいます。
2010-11-03:mitikusa
- ミンシュってわりと分かり易い指揮をする人だなと言う印象がありました。でも管理人さんの解説を読みながら改めて聞くと(サンサーンスを意識して聞いたのは初めてです)オルガンがポイントなんだって改めて聞き直してしまいましたが、まだまだ勉強不足で語るべき言葉が足りません。安心して聞けると言ったら怒られますかね?
2013-12-23:ハイハイおじさん
- 何種類かの“オルガン付”を聞きましたが、ミュンシュ盤は圧倒的に説得力があります。全曲を通じて、この曲はこういう風に演奏するように作られたんだと思わせられてしまいます。全く退屈させずに、深く、温かく、そして熱く劇的です。音楽が生き生きとした息遣いとともに、聴く者の胸に一気にしみ込み一体となります。曲の分析とか解釈とか、そんな頭で行う作業は一切必要ありません。これは、本当に名演奏だと思います。
2021-07-16:りんごちゃん
- ミュンシュの演奏はとてもよいですね
特に条件を出されずに、ここに上がっている演奏6つの中からどれか一つをおすすめせよと言われた場合、これを選ぶのが順当だとわたしは感じます
他と比べた特徴をあえていうなら、ここに上がっている演奏の中では一番はっちゃけた演奏でしょうか
実際のところは、「はっちゃけた」シーンでもオーケストラは常に冷静にコントロールの効いた響きを作っているので、正確に言うとはっちゃけたとこを演出しているのですけどね
ミュンシュというひとは、頭はクールに心は熱くということをよく理解していて、それを形にできる人なのでしょう
一方オーケストラの方は、それはよく理解しているけどまだサン=サーンスへの共感を形にしたいというところまではいっていない、というところがもしかしたら少しあるのかもしれませんね
パレーは頑張ってもはっちゃけるなどという事はできない人だったかもしれませんし、オーマンディはそのようなものは明らかに慎重に回避しています
少なくともパレーのような見通しの良さとかオーマンディのような中庸で耳あたりの良い演奏といったものはこのひとあまり考えてませんよね
オーケストラの方は、クリュイタンスのもののように俺はサン=サーンスの使徒だなどと思っているところはかけらもないように聞こえますが、指揮者の方はサン=サーンスここがいいだろって色んな所で繰り返し語りかけているかのようです
パレーが馬鹿になりきれていないところできっちり馬鹿をやってくれているので、パレーのちょっと物足りないところで満足できる上に、クリュイタンスのようなオーケストラと作曲者との一体感のようなものはないかもしれませんが、サン=サーンスってこういうもんだというものを形にして見せてくれる素晴らしい演奏ですよね
それでいて録音も大変よいように思われるのです
音空間の塗りの美しさでも響きのみずみずしさでも文句ないですよね
オーケストラの音色は実際のところよくわからないのですが、弦は線が細いものの軽快で美しく優美なシーンにも華やかなシーンにもよく合うサン=サーンス向きの音色であるように感じる一方で、左右の分離が良すぎて時折中央がちょっとスカスカに聞こえたりもしますが、そんなことは気にせずいい湯だなして聞いたとき大変快い響きであるように思います
第三楽章終了1分前辺りの弦のみのシーンはこの録音の弦の美点がとくに際立って感じられるように思うのですが、わたしは頭の中にシャワーを浴びているかのような心地よさを感じますね
金管はもうちょっと自分の出してる音聞いたらと思うのですが
これを聞きますと、オーマンディの金管が耳をつんざかないようにどれだけ心を配って演奏しているかがよくわかりますね
要はそういったことを色々感じる程度には品質の高い録音であることは間違いないでしょう
この人のレパートリーにはモーツァルトはないようですのでわたしの認識の外にいる人でしたが、もう忘れることはないでしょう
それにしても、なんでフランス人ばかりがサン=サーンスを巧みに演奏できるのか、本当に不思議ですね
単に、フランス人以外はサン=サーンスの価値がわからないので、そもそも手出ししないだけなのかもしれませんが
もしそうであるなら、わたしのようにサン=サーンスは「映画音楽」だと思ってる人は、まず何をおいてもフランス人の演奏を聞くべきだってことになりそうですね
音楽ってのは結局考えるものではなく勝手にわかるものなので、サン=サーンスここがいいだろって色んな所で繰り返し語りかけてくれるような演奏を選んで、素直に音の流れに身を任せるのが本当は正しいと思うのです
追記:
Flacには2つ録音が上がっていますが、この2つは演奏は同じなんでしょうかね
結論だけ申しますと、わたしはリスニングルームに選ばれていない上の方(ファイル名が_Box.flac)の録音を断然好ましく感じます
こういったものを聴き比べるのも面白いのですが、この違いにこだわるのは間違いなくオーディオファンの方々ですので、ここから先はおまかせすることにいたしましょう
よろしければパレーのところもご覧くださいませ
2024-08-04:ken1945
- ミュンシュの生前、多数のLPレコードを愛聴していたが、このサンサーンスはディジタル化して何度かの品質調整をしてからやっと納得するレベルでの音質となった。オーディオファンは当初アンセルメを愛聴していたと記憶するし、録音技術が進歩してからわざわざシャルトル大聖堂のオルガンで録音した演奏(合成)も発売された。日本ではコンサートホールが設立されると各地でお金に任せてパイプオルガンを導入し、必ずサンサーンスを演奏するようになり今日では人気曲になった。本演奏は風圧を感じるほどの文句なしの迫力でブラボーであるが、ライブのCDもありそれを聴くと会場でのより一層の大迫力である。サンサーンスの作曲手法からして間違いなくアメリカのオーケストラ中心のスペクタクル演奏が作者の意図を表現している。今日でも本演奏の支持者が多数を占めていることにミュンシュ信奉者としては幸せを感じる。
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