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ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36

ブルーノ・ワルター指揮 ニューヨークフィル 1952年3月17日録音



Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第2番 ニ長調 作品36 「第4楽章」


ベートーベンの緩徐楽章は美しい。

これは以外と知られていないことですが、そこにベートーベンの知られざる魅力の一つがあります。
 確かにベートーベンが最もベートーベンらしいのは驀進するベートーベンです。
 交響曲の5番やピアノソナタの熱情などがその典型でしょうか。
 しかし、瞑想的で幻想性あふれる音楽もまたベートーベンを構成する重要な部分です。


 思いつくままに数え上げても、ピアノコンチェルト3番の2楽章、交響曲9番の3楽章、ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス、ヴァイオリンソナタのスプリング、そしてピアノソナタ、ハンマークラヴィーアの第3楽章。
 そう言う美しい緩徐楽章のなかでもとびきり美しい音楽が聞けるのが、交響曲第2番の第2楽章です。

 ベートーベンの交響曲は音楽史上、不滅の作品と言われます。しかし、初期の1番・2番はどうしても影が薄いのが事実です。
 それは3番「エロイカ」において音楽史上の奇跡と呼ばれるような一大飛躍をとげたからであり、それ以後の作品と比べれば確かに大きな落差は否めません。しかし、ハイドンからモーツァルトへと引き継がれてきた交響曲の系譜のなかにおいてみると両方とも実に立派な交響曲です。

 交響曲の1番は疑いもなくジュピターの延長線上にありますし、この第2番の交響曲はその流れのなかでベートーベン独自の世界があらわれつつあります。
 特に2番では第1楽章の冒頭に長い序奏を持つようになり、それが深い感情を表出するようになるのは後年のベートーベンの一つの特徴となっています。また、第3楽章はメヌエットからスケルツォへと変貌を遂げていますが、これもベートーベンの交響曲を特徴づけるものです。
 そして何よりも第2楽章の緩徐楽章で聞ける美しいロマン性は一番では聞けなかったものです。
 
 しかし、それでも3番とそれ以降の作品と併置されると影が薄くなってしまうのがこれらの作品の不幸です。第2楽章で聞けるこの美しい音楽が、影の薄さ故に多くの人の耳に触れないとすれば実に残念なことです。
 後期の作品に聞ける深い瞑想性と比べれば甘さがあるのは否定できませんが、そう言う甘さも時に心地よく耳に響きます。

 もっと聞かれてしかるべき作品だと思います。


「歌いたい」という本能を完璧にコントロールした演奏

モノラル録音によるベートーベン録音は、アメリカに亡命をしてから演奏スタイルが大きく変化したワルターの典型だと言われます。戦前のワルターを特徴づけていた世紀末の崩れたようなロマンティシズムはどこにも見あたらず、男性的で剛毅な響きがその特徴だと言われてきました。
しかし、個々の演奏を聴いていくと事情はそれほど単純ではないことに気づかされます。例えば、もっとも男性的で剛毅に響くべきである第5番では、その最初の二つの楽章は実に入念に歌い上げていて驚かされます。それが、田園や9番の第3楽章のような音楽においてならば納得もするのですが、何で、よりによって運命をこんな風に演奏するのだろうと訝しく思ったものです。
そして、私なりの結論として、「こういう演奏を聴かされると、ワルターという人の本質は「歌う」事だったんだなとつくづくと納得させられます。」としながらも、「ところが、よりによってこの5番「運命」においてワルターの本性がこぼれだしているのです。それ故に、多くの人にとっては「違和感」の感じる演奏になっていることは間違いありません。」と書かざるを得ませんでした。

しかし、2番や4番を聞くと、まさに「あんたは歌いすぎる」という批判に応えて、おのれの「歌いたい」本能を抑え込んで、ひたすら剛毅で男性的な音楽に仕上げようというベクトルを感じ取ることが出来ます。
特に第2番では、第1楽章から構えが大きくて、ポスト・ハイドン、ポスト・モーツァルトのシンフォニーと言うよりは、まさにベートーベンらしい風格に溢れた堂々たるシンフォニーに仕上げています。そして、特に注目すべきは、第2楽章の緩徐楽章で聞ける美しいロマン性が、実にキリリとして引き締まった表情を崩さないことです。同じ事が、第4番の第2楽章にも言えます。
ワルターの本能から言えば、形を崩してでも念入りに歌いたくなる音楽でしょうが、ここでは、そう言う本能を完璧にコントロールしきっています。それゆえに、セルやトスカニーニ以上にザッハリヒカイトに聞こえるほどです。

ワルターというのは本当に一筋縄ではいかない人です。最晩年のステレオ録音が世間に広く流布してしまったために、それだけを持って彼の音楽が評価されてしまいました。しかし、同じベートーベンの交響曲を取り上げてみても、モノラルとステレオではかなりテイストが異なります。そして、晩年のステレオ録音では2番と6番を除けばあれこれと「留保条件」がつかざるを得ないことを考えれば、この40〜50年代の現役バリバリの指揮者として活躍していた時代の録音は貴重です。
功成り名を遂げた巨匠の手すさびの芸と、現役バリバリで活躍してた時期の芸とでは、何よりもその内から発するエネルギー感が異なります。そして、そう言うエネルギー感が何よりも求められるのがベートーベンという音楽家です。

録音に関しても、さすがに40年代初頭の6番と8番は流石に苦しいと言わざるをえませんが、47年録音の第1番、49年録音のエロイカあたりは十分に鑑賞領域のクオリティを持っています。50年代の録音に関しては何の問題もないでしょう。
そして、これらを聞けば、「ワルターは頭文字がMの作曲家はいいが、どうもBとは相性が悪い」という指摘は、一面の真実を含みながらも、事はそれほど単純ではないことを納得していただけるはずです。

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