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ドニゼッティ:ランメルモールのルチア

S:マリア・カラス セラフィン指揮 フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団  ディ・ステーファノ、ゴッビ、他 1953年1月29日〜2月6日録音



Donizetti:歌劇「ランメルモールのルチア」 前奏曲

Donizetti:歌劇「ランメルモールのルチア」 第1幕1場

Donizetti:歌劇「ランメルモールのルチア」 第1幕2場

Donizetti:歌劇「ランメルモールのルチア」 第2幕1場

Donizetti:歌劇「ランメルモールのルチア」 第2幕2場

Donizetti:歌劇「ランメルモールのルチア」 第3幕1場

Donizetti:歌劇「ランメルモールのルチア」 第3幕2場


超絶技巧とドラマ性が絶妙なバランスの上に成り立っている希有のオペラ

「ルチア」と言えば「狂乱の場」であり、「狂乱の場」と言えば「ルチア」です。それほど、この二つは結びつけて語られるのですが、オペラの歴史を少し振り返ってみると、「狂乱の場」は決して「ルチア」の専売特許ではありません。
例えば、ベッリーニの有名な「清教徒」では、ヒロインが狂乱してアリアを歌いますし、「夢遊病の女」では、タイトルのように夢遊病という設定のもとで狂乱します。その意味では、ヴェルディの「マクベス」に登場する「夢遊の場」もこの範疇に入れていいかもれません。
これは言うまでもなく、「狂乱」という場面設定が、その異常さ故に通常では考えられないようなソプラノのテクニックを披露させることが出来るために、作曲家にとっては結構「おいしかった」からです。そして、19世紀の前半という時代が、その様な「超絶技巧」がもてはやされ、歌い手の側も無理は承知でその様な「見せ場」を作ることを望んだという事情もあったようです。
しかし、19世紀も後半にはいると、ヴェリズ・モオペラが全盛を迎えるようになり、ドラマの展開から遊離して、「狂乱の場」だけが見せ場となるようなオペラは次第に姿を消していくようになりました。そして、19世紀の前半に量産された「狂乱のオペラ」も、その「狂乱の場」がドラマの展開と結びつきを持っているものを除いては姿を消していきました。

その意味では、この「ランメルモールのルチア」はソプラノの「超絶技巧」と「ドラマの展開」が絶妙なバランスを保って成功している数少ない「狂乱のオペラ」と言えます。


<登場人物>
* ルチア (Miss Lucia)(ソプラノ)
* エドガルド (Sir Edgardo di Ravenswood)(テノール)
* エンリーコ (Lord Enrico Ashton)(バリトン)
* アルトゥーロ (Lord Arturo Bucklaw)(テノール)
* ライモンド (Raimondo Bidebent)(バス)
* アリーサ (Alisa)(メゾ・ソプラノ)
* ノルマンノ (Normanno)(テノール)

<話のあらすじ>

第1幕

舞台はエンリーコの城内。
城主エンリーコは傾きかけたおのが運を回復させるために、妹ルチアを利用した「政略結婚」を画策していますが、彼女がなかなか承伏しないために苛立ちを隠しきれません。そして、衛兵隊長から彼女が宿敵のエドガルトと恋仲であることを知らされて怒りをあらわにします。
ここで歌われるエンリーコのアリアは、今までは添え物にしかすぎなかったバリトンに歌わせていると言うことで、注目すべきものです。このバリトンにも存在価値を認める流れが完全に定着するにはヴェルディの登場を待たなければならないのですが、バリトンに初めて活躍の場面を与えたものとしては注目に値します。(一番最初かどうかは不明ですが、最初期の事例であることは間違いありません。)

やがて軽やかなハープの前奏にのってルチアが登場し、「あたりは沈黙に閉ざされ」と歌い出し、嫉妬に駆られた男が女を刺し殺して泉に沈めたという「泉の伝説」を語り始めます。そして、今度は一転して「このうえない情熱に心奪われたとき」とエドガルトへの愛を歌い上げます。
侍女のアリーサはそのような不吉な恋はやめるようにと忠告するのですが、そこへエドガルトが登場します。

ドニゼッティのオペラは一般的に「プリマ・ドンナ・オペラ」と呼ばれるものなのですが、このオペラではテノールであるエドガルトにも活躍の場が与えられています。特に、最後の「墓場の場」の美しさは素晴らしく、時には主役のルチアを食ってしまうほどの魅力が与えられています。
ですから、この最初の登場で歌うアリアは聞きものです。
フランスへの旅立ちをルチアに打ち明け、兄であるエンリーコと和解して結婚の許しを得たいと語るエドガルト、それは逆効果にしかならないとして彼を必死に押しとどめるルチア、この二人の二重唱が最後は「吐息は微風に乗って」という「愛のテーマ」へと盛り上がっていきます。
このテーマは有名な狂乱の場において回想として歌われるので要チェックです。
そして、このアリアはユニゾンと三度平行で盛り上がっていく中で二人は指輪を交換し結婚を決意して大きな盛り上がりの中で幕を閉じます。

第2幕

舞台はエンリーコの居間
何とかルチアとアルトゥーロ卿との結婚を成功させないと一族の破滅となると考えるエンリーコは、ノルマンノと謀ってエドガルトの心変わりを示す手紙を偽造します。そして、それをルチアに見せて政略結婚に同意させてしまいます。
エンリーコとルチアの二重唱は、政略結婚に苦しむルチアの思いと、エドガルドの心変わりを嘆く部分が美しく歌われていきます。

やがて「婚礼の合唱」が鳴り響くなか婚礼の準備は進められていき、花嫁衣装に身を包んだルチアが登場します。そして、エンリーコの強要によってついにルチアは結婚契約書に署名をしてしまいます。
そこへ、突然にエドガルトが乱入してきて場面は一気に混乱と緊張の度を深めます。

この場面はルチア(ソプラノ)、アリーザ(メゾ・ソプラノ)、エドガルト(テノール)、アルトゥーロ(テノール)、エンリーコ(バリトン)、ライモンド(バス)によって歌われる六重唱で、6人が全くバラバラの歌詞を歌いながら見事なまでの緊張感を作り上げていきます。音楽的には、有名な「狂乱の場」よりも聴き応えのある場面だと言えます。
そして、エドガルトが「お前は神と愛とを裏切った」とルチアを罵りながら指環を投げ捨てると、さらに合唱までが加わって大混乱の中で幕がおります。

第3幕

冒頭は「嵐の場」と呼ばれ、結婚式を荒らされたことを怒ったエンリーコがエドガルトに決闘を申し込むのですが、この部分は慣例としてカットされることが多いようです。

舞台はエンリーコの城。
結婚式の宴に集まった人々が喜びの合唱を歌うなかへライモンドが駆け込んできて、ルチアが悲しみのあまりに精神に異常をきたしてアルトゥーロを刺し殺してしまったことを告げます。
明るく華やか雰囲気が一瞬にして悲劇的な雰囲気に一変する音楽作りは実に見事です。

やがて、血に染まったルチアが登場して歌い始めるのが、このオペラでもっとも有名な「狂乱の場」です。
印象的なフルートのメロディに導かれてエドガルトとの結婚式の幻想が歌われていきます。
普通に歌えば15分を超える長大なアリアはコロラトゥーラの芸の全てがつぎ込まれたものであり、最後の最高音はEフラットにまで達します。まさに、ルチア歌いの最大の聞かせどころであり、歌い終わってルチアは息絶えて倒れてしまいます。

場面は一転して墓場に変わり、何も知らないエドガルトが自分を裏切ったルチアへの恨みを歌います。このアリアは実に美しく、このオペラの聞き所の一つです。
そして、ライモンドと合唱による「葬送の合唱」で、ルチアが自分への愛で狂って死んでしまったことを知ると、絶望のあまりに自らの胸に短剣を突き立て、息も絶え絶えの中で「神のもとへと翼を広げた君よ」と歌います。
この二つのアリア実に美しく、力のあるテノールの手にかかると、場合によってはルチアの「狂乱の場」がかすんでしまうほどの魅力を持っています。

最後は、天国で二人が結ばれることを願いながら、人々の深い悲しみの中でエドガルトが息を引き取る中で幕がおります。


技巧のひけらかしから偉大なるドラマへと昇華した演奏

カラスは何度もルチアを録音していますが、この古い録音が彼女にとってもベストであり、そして、モノラル録音に価値を見いださない一部の人々にとっては承伏しかねるでしょうが、おそらくは今もって、このオペラのベストの録音だと私は断言します。

マリア・カラスという偉大な歌役者によって、技巧のひけらかしにしかすぎなかった「狂乱の場」が、このオペラの中核を形づくる最も重要な「ドラマ」へと昇華させられました。
もちろん、カラス以後において、技巧的には彼女を上回るソプラノは何人もいました。(例えば、サザーランド。)もちろん、その様な超絶技巧はこのオペラを楽しむ上では重要な要素ですから、決して否定はしません。しかし、この録音で聞かれる深いドラマを聞いてしまうと、何か物足りなさを感じてしまいます。
日本では絶大な人気を誇ったグルヴェローヴァは、カラス張りのドラマを意図しますが、どこか恣意的な感じが否めず、カラスのような深みは感じられませんでした。

彼女の50年代の録音に接すれば接するほど、このソプラノの偉大さを身にしみて感じさせられます。

<配役>
 マリア・カラス(S)
 ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(T)
 ティート・ゴッビ(Br)
 ラファエル・アリエ(Bs)
 ヴァリアーノ・ナターリ(T)
 アンナ・マリア・カナーリ(Ms)
 ジーノ・サッリ(T)

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2016-03-20:ジェームス





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