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ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

アンセルメ指揮 スイスロマンド管弦楽団 1957年録音



Debussy:牧神の午後への前奏曲


苦手なドビュッシーの中でこれだけは大好きでした。

ドビュッシーは苦手だ・・・、と言うことはあちこちで書いてきました。ピアニストが誰だったかは忘れましたが、オール・ドビュッシーのプログラムで、コンサートが始まると同時に爆睡してしまったことがあるほどです。あの茫漠としたつかまえどころのない音楽が私の体質には合わないと言うことなのでしょう。
しかし、そんな中で、なぜかこの「牧神の午後への前奏曲」だけは若い頃から大好きでした。
何とも言えない「カッタルーイ」雰囲気がぬるま湯に浸かっているような気分の良さを与えてくれるのです。言葉をかえれば、いつもはつかまえどころがないと感じるあの茫漠たる雰囲気が、この作品でははぐれ雲になって漂っているような心地よさとして体に染みこんでくるのです。
我ながら、実に不思議な話です。
何故だろう?と自分の心の中を探ってみて、ふと気づいたのは、響きは「茫漠」としていても、音楽全体の構成はそれなりに筋が通っているように聞こえることです。響きも茫漠、形式も茫漠ではつかまえどころがないのですが、この作品では茫漠たる響きで夢のような世界を語っているという「形式感」を感じ取れる事に気づかされました。
それは、この作品がロマン派の音楽から離陸する分岐点に位置していることが大きな理由なのでしょう。
牧神以前、以後とよく言われるように、この作品はロマン派に別れを告げて、20世紀の新しい音楽世界を切り開いた作品として位置づけられます。そして、それ故に冒頭のフルートの響きに代表されるような「革新性」に話が集中するのですが、逆から見れば、まだまだロマン派のしっぽが切れていないと言うことも言えます。そして、その切れていないしっぽの故に、ドビュッシーが苦手な人間にもこの作品を素直に受け入れられる素地になっているのかもしれません。それは、調性のある音楽に安心感を感じる古い人間にとっての「碇」みたいなものだったのかもしれません。


私たちの時代の音楽

アンセルメにとって、若い頃に親交のあったドビュッシーの音楽はまさに「私たちの時代の音楽」であったはずです。クラシック音楽というのはそのまま日本語に訳すと「古典音楽」、つまり古い時代の音楽を演奏するイメージがあるのですが、それは20世紀も後半になってからの不幸な時代の話。本来のクラシック音楽というのは、常に「同時代の音楽」を演奏するのが基本でした。
それは、モーツァルトであれベートーベンであれ、注目されるのはいつも彼らの「新作」であり、そして、演奏する側も聞く側も、常にそうのような新作を「私たちの時代の音楽」として共有することに喜びを感じていたのです。
クラシック音楽がその様な「同時代性」を失うのは、20世紀後半に「前衛音楽」という名の愚かな実験が世界を席巻したことによります。その意味では、クラシック音楽がかろうじて「同時代性」の幸福を維持していた最後の残光がこのアンセルメの演奏から感じ取ることが出来ます。
これ以後のクラシック音楽の演奏家は、「同時代性」を共有できない「前衛音楽」に背を向けて、ひたすら古い時代の音楽ばかりを演奏する不幸で奇妙な時代に突入していきます。

最後に、この時代のデッカの録音は本当に優秀です。これなんかは、最近の録音と比べても遜色がないほどのクオリティの高さです。

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2010-06-10:松本文樹





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