クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




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Presenting Jaime Laredo

(Vn)ハイメ・ラレード:(P)ウラディーミル・ソコロフ 1959年7月13日~15日録音



Vivaldi:Sonata for violin & continuo in A major, Op. 2/2, RV 31

Falla:Suite Populaire Espagnole, for violin & piano (arr. from "Popular Spanish Songs" by Kochanski): II. Nana (Berceuse)

Falla:Suite Populaire Espagnole, for violin & piano (arr. from "Popular Spanish Songs" by Kochanski): IV. Jota

Paradis:Sicilienne for keyboard in E flat major

Wieniawski:Scherzo-tarantelle, for violin & piano in G minor, Op. 16

J.S.Bach:Orchestral Suite No. 3 in D major, BWV 1068: Air on the G-String

Paganini:Caprice for solo violin in B flat major ("The Devil's Chuckle"), Op. 1/13, MS 25/13

Debussy:La fille aux cheveux de lin, prelude for piano, L. 117/8

Sarasate:Fantasy on Bizet's "Carmen," for violin & orchestra (or piano), Op. 25


Presenting Jaime Laredo

おそらく、ハイメ・ラレードのデビュー盤だと思われます。
それにしても「Presenting Jaime Laredo」とは、驚くようなアルバムのタイトルなのですが、このアルバムに収められている作品を眺めてみると、それはまさにこの若きヴァイオリニストの才能を広く世に知らしめるためには最適なものであることが分かります。

最近はこういう「小品集」を「小品集」としてまとめてアップしてしまうと、一つ一つの作品を蔑ろにしているような気がするので出来るだけ避けていたのですが、このアルバムに関しては「小品集」としてまとめてアップしなければ逆に意味を失ってしまうようです。
おさめられている作品は以下の通りです。

  1. ヴィヴァルディ:ソナタ第2番イ長調Op.2-2

  2. ファリャ:「スペイン民謡組曲」より「ナナ」「ホタ」

  3. マリア・テレジア・フォン・パラディス(ドゥシュキン編):シチリエンヌ

  4. ヴィエニャフスキ:スケルツォ=タランテッラ Op.16

  5. J.S.バッハ:「管弦楽組曲第3番」よりアリア

  6. パガニーニ:カ プリース第13番 変ロ長調

  7. ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女

  8. サラサーテ(ジンバリスト編):カルメン幻想曲


こういう若くて早熟の天才というのは、その指がよくまわることを誇示することでデビューすることが多いのですが、この選曲はそう言う意図とは随分異なっています。
ここで選ばれているのは、それぞれに雰囲気の異なった作品群です。
そして、そう言う作品が持っている世界を的確に描き出す多彩な音色のパレットを持っていることを彼はこのアルバムで証明しています。

指がよくまわる早熟の演奏家の録音は良く聞きますが、こういう多彩さをこの年で具えているというのはそれほど多くはないでしょう。
ですから、ハイメ・ラレードの凄さを知ってもらうには、これをまとめてアップしないといけないのです。



作品が持っている世界を的確に描き出すだけの多彩な音色のパレットを持っている

オーディオ好きにとっては、友人同士でお互いの家を行き来してそれぞれのシステムの音を聞きあうというのは大きな楽しみの一つです。現役で仕事をしていたときはそんな暇はなかったのですが、退職してからはそれは大きな楽しみの一つとなり、さらに言えばそこから芋づる式に交友関係も広まっていきます。
現役時代はどうしても人間関係は仕事を中心としたものに偏りがちだったのですが、退職後のこういうつながりは何の利害関係もないし、それぞれの経験も多様なので、それはもう実に貴重なものです。これに加えて、地域でのクラシック音楽を聞きあう集まりなんかも出来たりして、退職をするときには職場の連中からは「仕事を辞めて何をするの?」と聞かれたものですが、気持ちをフラットにしてどんどん広がりをつなげていけばやることはいくらでもあるものだと感謝しています。

そんな友人同士の行き来の中で、ある時「シャルル・ミンシュが指揮したボストン響が伴奏を付けているメンデルゾーンの協奏曲をかけるね」といって、その友人はアナログ・レコードをターンテーブルにセットしました。
ヴァイオリンに関してはアナログ再生には何ともいえない魅力がありますから「良いね!」と言って聞き始めたのですが、しばらくしてなんだか変だな・・・と思い始めました。そして、友人の方を見やるとニヤリと笑って「してやったり!」という顔をしているではないですか。そして、彼は「まあ、最後まで聞いてくださいよ」と言ってすまし顔です。

どう考えても、この独奏ヴァイオリンはハイフェッツではありません。しかし、間違いなくレコードのレーベル面はRCAでしたからミンシュ&ボストン響のメンデルスゾーンと言えばハイフェッツしかないはずです。しかし、今聞かせてもらっているバイオリンは艶やかで素晴らしい音色であって、決して悪い演奏でもなく、それどころか十分すぎるほどに魅力的なのですが、それはどう考えてもハイフェッツではありません。

そして、演奏が終わってレコードを見せてもらうと、ヴァイオリンは「Jaime Laredo」と記されています。
恥ずかしながら、この「Jaime Laredo」の読み方さえ分からないほどに未知のヴァイオリニストでした。一般的には「ハイメ・ラレード」と読むようですが、英語読みで「ジェイミー・ラレード」と呼ばれることもあるようです。1941年に南米のボリビアで生まれたのですから、そちらを優先して、私の場合は「ハイメ・ラレード」でいきたいと思います。

5歳から音楽を初めて、7歳の時には本格的に音楽を学ぶためにアメリカに移っていますから、基本的にアメリカの音楽家と言っていいでしょう。
しかし、驚いたのは、この「ハイメ・ラレード」を独奏者にむかえた録音は1960年12月24日&26日に行われていることです。このコンビによるハイフェッツとの録音は1959年に行われていますから、どう考えてもRCAサイドからの要望でないことは明らかです。そして、ハイメ・ラレードはこの録音の時は未だ19歳だったのですから、こんな大曲を録音したいなどと主張できるはずもありません。

そうなると、この異例の録音はミンシュの要望によって行われたとしか考えられません。
つまりは、なんらかの機会にミンシュがハイメ・ラレードの演奏を聞いて惚れ込んだのでしょう。そして、この若者を何とか世に出したいと思ってRCAにねじ込んで強引に録音をさせたものと思われます。その証拠に、この協奏曲におけるミンシュのスタンスは通常の協奏曲の伴奏とは随分と雰囲気が異なります。

オケが前面に出るところでは思いっきり鳴らしているのはいつもの通りなのですが、独奏ヴァイオリンの伴奏にまわったときは、この若者のヴァイオリンを引き立てようと実に魅力的な表情付けを行って全力でサポートしているのです。正直言って、こんなにも必死でソリストをサポートするミンシュは聞いたことがありません。
つまりは、それだけミンシュはこの若者に惚れ込んでいたのでしょう。なんだか、ミンシュという人への見方が大きく変わるような録音でした。

しかし、さらに調べてみると、この録音に至るまでにハイメ・ラレードはRCAから3枚のレコードをリリースしていました。そして、1960年10月のカーネギーホールでのリサイタルで大成功をおさめていましたから、そのあたりの絡みもあって普通ならあり得ないメンデルスゾーンの録音が実現したのでしょう。

と言うことで、ここで紹介している録音とは直接関係のない話が長々と続いたのですが、今ではほとんど記憶に残っていないハイメ・ラレードに辿り着いたのはその様な経緯があったからです。
そして、そんなハイメ・ラレードのデビュー盤がおそらくここで紹介しているアルバムだと思われます。

それにしても、そのアルバムのタイトルには驚かされます。
「Presenting Jaime Laredo」なんですから、直訳してしまえば「ハイメ・ラレード発表会」になってしまいます。なんだか子供のヴァイオリン教室の発表会みたいなタイトルみたいなのですが、その演奏を聞いてみてびっくりでした。
なるほど、ミンシュが惚れ込むのも納得がいくというものです。

このアルバムの録音を行ったのはハイメ・ラレードがようやく18歳になったころでした。こういう早熟のヴァイオリニストと言えば、そのよくまわる指を誇示するような作品で自己主張するのが普通なのですが、ここではその様な選曲は行っていません。
もちろん、ヴィエニャフスキの「スケルツォ=タランテッラ」のような超絶技巧を誇示する作品もあるのですが、バッハの「G線上のアリア」やドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」のような叙情性が必要な作品も見事に歌い上げています。そして、その叙情性もバッハとドビュッシーでは大きく性格が異なるのですが、それもまた見事に弾き分けています。
さらに言えば、ファリャのようなスペインの民族性が溢れた作品に対してもそれに相応しい雰囲気を見事に描き出しています。

そして、アルバムの最後に、おそらく小品とはいえないであろう「カルメン幻想曲」を持ってきて、そこで己の持てる全てのものを出し切っているのです。
つまり、彼は18歳にしてそれぞれの作品が持っている世界を的確に描き出すだけの多彩な音色のパレットを持っているのです。

ただ、分からないのは、これだけの才能を持ちながらそれ以後はあまり華々しい活躍はしていないことです。辛うじてグレン・グールドと共演した録音が少しは記憶に残っているくらいでしょうか。
調べてみれば、現在も存命中であり、決してアルコール中毒になったり、アパートの窓から飛び降り自殺をしたりして若くしてキャリアを絶ったわけではありません。ただし、1999年からはヴァーモント交響楽団というカナダの田舎オケの指揮者に就任していますし、晩年は教育活動に尽力していますので、例えばティボール・ヴァルガのように、演奏家としての名声にはあまり興味がなかったのかもしれません。

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