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Home|ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(Vienna_Concert_House_Quartet)|モーツァルト:弦楽五重奏曲第6番 変ホ長調 K.614

モーツァルト:弦楽五重奏曲第6番 変ホ長調 K.614

ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団 (2nd Va)Cecil Arnowitz 1949年録音

Mozart:String Quintet No.6 in E-flat major, K.614 [1.Allegro di molto]

Mozart:String Quintet No.6 in E-flat major, K.614 [2.Andante]

Mozart:String Quintet No.6 in E-flat major, K.614 [3.Menuetto. Allegretto]

Mozart:String Quintet No.6 in E-flat major, K.614 [4.Allegro]


モーツァルトならではのファンタジーがあふれ出すスタイル

弦楽四重奏と言えばヴァイオリン2丁にヴィオラ、チェロそれぞれ1丁と相場は決まっています。しかし、五重奏となるといろいろなバリエーションが出てきます。
低声部を強化するためにチェロを追加するのか、はたまたオケの弦楽五部のようにコントラバスを追加するのか、または、内声部を強化するためにヴィオラを追加するのか、一口に弦楽五重奏と言っても、カルテットを基本としながらも、そこに何を追加するのかで音楽の雰囲気は随分と変わってきます。
そこでモーツァルトですが、彼はディヴェルティメントの編曲版も加えると生涯に弦楽五重奏を6曲書いていますが、その全てがヴィオラを追加するスタイルで書かれています。
こんな事を書くとお叱りを受けるかもしれませんが、どうも弦楽四重奏というスタイルはモーツァルトにとって窮屈なスタイルだったようです。

よく知られている話ですが、スコアを書くときには作品はすでに頭の中で仕上がっていたと言われるモーツァルトも、弦楽四重奏だけは何度も書き直して推敲した後が残っていました。つまり、あふれ出すイメージとファンタジーだけでは作品としては完成しきれない厳格さを弦楽四重奏はもっているということです。そう言う意味で、このスタイルを完成させたのがベートーベンだったというのは実に納得のいく話です。
ところが、そこにヴィオラを1丁追加するだけで、モーツァルトは途端にその窮屈さから解放され、モーツァルトならではのファンタジーがあふれ出します。

弦楽四重奏ではどこか窮屈に身を屈めていたのが、五重奏になると元の自由を取り戻しているように聞こえます。
もちろん、モーツァルトの弦楽四重奏が駄作であるはずはありませんが、しかし。そこにクラリネットを追加したり、ヴィオラを追加して五重奏にした方が、はるかにモーツァルトらしい音楽が聞けるように思えますが、いかがなものでしょうか。

弦楽五重奏曲第1番 変ロ長調 K.174


ミヒャエル・ハイドンの弦楽五重奏曲を聞いた事が作曲の動機だと言われています。モーツァルトは新しいスタイルの音楽を聞くと自分も同じようなものを書く衝動に駆られる事が多かったようです。ただし、きっかけとなった作品をはるかに上回る形で創作しないと気が済まないという、後世の音楽愛好家にとっては実に有り難いおまけがついていました。時期的には、3度目のイタリア旅行から帰ってきた1773年の春頃だとされています。
ただ、さすがのモーツァルトもこの段階ではこの形式を十分にこなし切れておらず、ディヴェルティメントのような雰囲気を残しています。ただ、モーツァルトにしては珍しく、ミヒャエル・ハイドンの新作を聞いたことがきっかけで、その年の暮れに大幅な改訂を施しています。とりわけ、メヌエット楽章のトリオとフィナーレの楽章をほとんど「新作」か思うほどに書き直しています。とりわけフィナーレ楽章はかなり複雑なものに変貌していて、ザスロー先生は「4つの楽章の重みを平均化しようとしたのかもしれない」と述べています。

弦楽五重奏曲第2番 ハ短調 K.406 (516b)


弦楽五重奏曲第3番 ハ長調 K.515


弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K.516


ウィーン時代の終わりに、モーツァルトはディヴェルティメントの改作も含めて、3つの弦楽五重奏曲を残しています。おそらくは、人気絶頂だった時代に3曲のピアノ協奏曲を筆写譜として販売して大成功したことを思い出しての試みだと言われています。しかし、すでにウィーンの公衆から見放されていたモーツァルトの音楽にお金を出す人はなく、結局は叩き売りの状態で出版社に譲り渡すことになりました。
しかし、ハ長調とト短調の二つの作品こそは、人類が書いた最高の室内楽作品の一つであることは疑う余地がありません。あのアインシュタインは、ハ長調のクインテットの冒頭を「誇らかで、王者のようで、運命を孕んでいる」と述べています。そして、ト短調の冒頭は「かなしさは疾走する。涙は追いつけない。(小林秀雄)」のです。
ディヴェルティメントを改作したハ短調は作曲家としての良心にいささか反する面はあるでしょうが、それでも行事の終わりとともに消え去る運命にある機会音楽としてのディヴェルティメントを永遠に残したいという思いはあったでしょうから、悪い作品ではありません。特にそのフィナーレは「ハ短調コンチェルトの精神を先取りしている」とアインシュタインは述べています。

弦楽五重奏曲第5番 ニ長調 K.593


弦楽五重奏曲第6番 変ホ長調 K.614



今日残された資料によると、この二つの作品はハイドンの管弦楽団で首席第2ヴァイオリン奏者をしていたヨハン・トストのために作曲されたと考えられています。トストは、当時エステルハージ家の女主人として振る舞っていた女性と剣コンするという幸運に恵まれてたいへん裕福になっていた世yなの出、この2曲はモーツァルトに大きな収入をあたえたものと想像されます。
それは同時に、この二つのクインテットはモーツァルトのハイドンに対する尊敬と讃辞の表明でもありました。
実際、モーツァルトハイドンの共通の友人であったシュタードラーの回想録によると、ハイドン、モーツァルトと一緒に五重奏曲を演奏した(凄い・・・!!^^;)と書いていて、その演奏した曲の一つとしてこのニ長調のクインテットも含まれているのです。

確かに、これら2作品にの至るところに「ハイドン的」なものが散りばめられています。
例えば、ニ長調のクインテットの冒頭のラルゲットの序奏は明らかにハイドン風です。
そして、それに続くアダージョ楽章こそは、こういうアダージョで名を馳せたハイドンに対する讃辞だったと、H.C.ロビンス・ランドンも述べています。

また、最後のK.614のクインテットに関しては「ハイドンへの貢ぎ物」だとチャールズ・ローゼン(あの、あまりにも知的なピアニスト、ピアノ・ノートの作者!!)は述べています。
彼は、この作品を取り上げて次のように述べています。

「この作品の両端楽章は・・・極小の動機の動的な特質を詳細に扱うハイドンのやり方と、典型的にモーツァルト的な豊かに響く複雑な内声部書法とを結びつけている」

しかしながらそれに続けて、その豊かな響きが五重奏曲という形式が持つ大らかな自由さに影響を与えてしまい、結果として一部の音楽家の居心地を悪くするかもしれない、みたいなこともを書いています。
それでも、中間部のアンダンテ楽章の簡潔の極みからは、モーツァルト最後期の美しさが溢れています。その事は、究極の精緻さに磨かれたメヌエット楽章にあてはまることです。


ご苦労さんな仕事

ウェストミンスター・レーベルにとって室内楽の録音は表看板でした。
ですから、ベートーベンの弦楽四重奏曲に関してはウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団とバリリ弦楽四重奏団を使って2種類の全集を完成させています。
シューベルトに関してはウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団を使って、これもまた全集を完成させています。
ハイドンに関してはさすがに全集とまではいきませんが、それでも主要な作品をウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団をつかって網羅しています。

ところが、モーツァルトに関しては随分と変則的な形で弦楽四重奏曲を完成させたことは既にふれているとおりです。簡単に振り返っておくと以下のようになっているのです。

1951年にアマデウス弦楽四重奏団を使って録音を開始したにもかかわらずハイドンセットの3曲とプロシア王セットの1曲だけで終わってしまいます。仕方がないので(?)、翌52年にからは、レーベル起ち上げ時から関係のあったウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団にお願いしてハイドンセットの2曲を録音します。
しかし、シューベルトやベートーベンの全集を完成させるために忙しかったこの楽団には、さらにモーツァルトにも取り組むのはいささか無理があったようで、録音はこの2曲で終わってしまっています。
しかし、1956年はモーツァルトの生誕200年のメモリアルイヤーを前にして全集を完成させることは至上命題だったはずです。
そこで担ぎ出されたのがバリリ弦楽四重奏団だったのです。

53年にはハイドンセットで1曲だけ残されていた第14番を録音します。
54年にもプロシア王セットで1曲だけ残されていた第21番を録音しています。
そして、1956年のモーツァルトイヤーを前にした55年には残された初期作品13曲と第20番のホフマイスターを録音してコンプリートを完成させます。

おそらく、こういう形でカタログの欠落をうめていく仕事はそれほど楽しいものとは思えないのですが、それでも決してクオリティが落ちないのがバリリという人間の偉いところだ、みたいなことも以前にふれたとおりです。
ところが、さらに調べてみると、弦楽五重奏曲においても同じような仕事をしていることに気づきました。

このジャンルもまた、レーベルにとっては1956年を前にコンプリートしたかったことは間違いありません。
2も関わらず、このジャンルもまた、おいしそうな作品はウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団が録音をし、それ以外の作品は放置されていたみたいなのです。
そして、その放置されていた作品もまたバリリによって穴埋めがされているのです。

ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団



  1. モーツァルト:弦楽五重奏曲第6番 変ホ長調 K.614・・・1949年録音

  2. モーツァルト:弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K.516・・・1951年録音



バリリ弦楽四重奏団



  1. モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番 ハ長調 K.515・・・1953年録音

  2. モーツァルト:弦楽五重奏曲第5番 ニ長調 K.593・・・1954年録音

  3. モーツァルト:弦楽五重奏曲第1番 変ロ長調 K.174・・・1955年録音

  4. モーツァルト:弦楽五重奏曲第2番 ハ短調 K.406 (516b)・・・1955年録音



バリリ達には、よくぞご苦労さんな仕事を引き受けてくれたものだと感謝したいと思いましたね。

この演奏を評価してください。

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