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ワルター・バリリ(Walter Barylli)|J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調, BWV1042
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調, BWV1042
(Vn)ワルター・バリリ:ヘルマン・シェルヘン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1954年録音
Bach:Violin Concerto No.2 in E major, BWV 1042 [1.Allegro]
Bach:Violin Concerto No.2 in E major, BWV 1042 [2.Adagio]
Bach:Violin Concerto No.2 in E major, BWV 1042 [3.Allegro assai]
3曲しか残っていないのが本当に残念です。
バッハはヴァイオリンによる協奏曲を3曲しか残していませんが、残された作品ほどれも素晴らしいものばかりです。(「日曜の朝を、このヴァイオリン協奏曲集と濃いめのブラックコーヒーで過ごす事ほど、贅沢なものはない。」と語った人がいました)
勤勉で多作であったバッハのことを考えれば、一つのジャンルに3曲というのはいかにも少ない数ですがそれには理由があります。
バッハの世俗器楽作品はほとんどケーテン時代に集中しています。
ケーテン宮廷が属していたカルヴァン派は、教会音楽をほとんど重視していなかったことがその原因です。世俗カンタータや平均率クラヴィーア曲集第1巻に代表されるクラヴィーア作品、ヴァイオリンやチェロのための無伴奏作品、ブランデンブルグ協奏曲など、めぼしい世俗作品はこの時期に集中しています。そして、このヴァイオリン協奏曲も例外でなく、3曲ともにケーテン時代の作品です。
ケーテン宮廷の主であるレオポルド侯爵は大変な音楽愛好家であり、自らも巧みにヴィオラ・ダ・ガンバを演奏したと言われています。また、プロイセンの宮廷楽団が政策の変更で解散されたときに、優秀な楽員をごっそりと引き抜いて自らの楽団のレベルを向上させたりもした人物です。
バッハはその様な恵まれた環境と優れた楽団をバックに、次々と意欲的で斬新な作品を書き続けました。
ところが、どういう理由によるのか、大量に作曲されたこれらの作品群はその相当数が失われてしまったのです。現存している作品群を見るとその損失にはため息が出ます。
ヴァイオリン協奏曲も実際はかなりの数が作曲されたようなですが、その大多数が失われてしまったようです。ですから、バッハはこのジャンルの作品を3曲しか書かなかったのではなく、3曲しか残らなかったというのが正確なところです。
もし、それらが失われることなく現在まで引き継がれていたなら、私たちの日曜日の朝はもっと幸福なものになったでしょうから、実に残念の限りです。
気品に溢れたバッハ
ワルター・バリリと言えば、どうしてもバリリ四重奏団のリーダー、そして、ウィーンフィルのコンサート・マスターというイメージがまず浮かんでしまいます。なにじろ、1939年にはウィーン・フィルのコンサートマスターに昇格し(なんと、その時バリリは18歳!!)、1945年からはウィーン・フィルの首席奏者でバリリ四重奏団を結成します。しかし、1959年に右肘を痛めた事でカルテットの活動を動停をせざるを得なくなるのですが、その後もコンサートマスターとしての勤務は継続し、1966年から1969年まではをウィーン・フィルの楽団長を務めました。そして、1972年にウィーン・フィルを辞職した後は教育活動に尽力をして100歳をこえる長寿を全うした。
バリリこそは、まさにまさにウィーン・フィルの「顔」とも言うべき存在でした。
そのために、協奏曲でソリストをつとめた録音はほとんど残っていないようで、ソリストとしての活動の大部分は室内楽の分野に集中していました。
ですから、このバッハの協奏曲でソリストをつとめているバリリというのはかなり珍しいのではないでしょうか。
しかし、このバッハの二つの協奏曲を聞くとき、バリリというのが協奏曲のソリストとしてもいかに素晴らしい魅力を持っていたかと言うことに驚かされます。「上手い」というのは当然のことですが、何よりもその艶やかな響きには言いしれぬ「気品」が溢れています。
そして、当然の事ながらオーケストラの息もまたピッタリです。
さらに言えば、指揮をつとめるシェルヘンのサポートも見事なものです。
50年代の前半ですから、オーケストラの響きは分厚い低声部を支えにした伝統的な響きですが、細部の細部まで疎かにすることなく描き出しているので、決して鈍重になることはありません。貧血気味のピリオド楽器による演奏は言うまでもなく、キリリと引き締めることに価値を見いだしたその後の流れとも異なる、非常に貴重なウィーンフィルの響きと言えます。
それだけに、もっとたくさんの協奏曲でソリストをつとめて優れた録音を残してほしかったと思うのですが、おそらくそう言う方向に進もうとする前に右肘を故障してしまったのかもしれません。
1959年と言えば、バリリは未だ38歳の時なのですから、実に残念なことです。
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よせられたコメント
2022-11-15:joshua
- 何の故障もなく老いゆくまで演奏し続ける、理想でしょうね。バリリやウェラーはそこをどのように折り合いをつけたのか。これだけの人たちなら、生活に必要な経費だけの音楽からは程遠かったはずです。故障や病気で、以前のように演奏できなくなっても命は続いていくわけですから、天衣無縫の自在さとは程遠い人間的苦痛を伴って音楽とかかわるのは如何ばかりのことでしょう?
先日、スタニスラフ・ブーニンの復帰公演の様子が2回にわたって放映されていて、多くの方々が様々な思いでご覧になったと思います。ご覧になった方はもうご存じのように、ブーニンの左足は、膝から下数センチ壊死を防ぐため切断後、上下を繋ぎ合わせて、短くなった分底の厚い靴を履いて高さを補っています。ペダルを踏む際は足首の関節が利かないので、膝から体重をかけるようです。ブーニンは番組で色々語っていますが、「足を失いたくない(義足にしなかった)のは音楽を続けたかったから」「わたしはもう、以前と同じようなコンサートピアニストではありません」・・・言葉を選びながら語っていたのが思い出されます。
ブーニンとは反対側の右手が利かなくなったレオン・フライシャー、館野泉も同様のドキュメンタリーが放送されたのは記憶に遠くありません。
演奏家、って一生をどう音楽と付き合っていくかが問われるんですね。ルービンシュタインや100歳超え現役だったホルショフスキーにしても、昔の自分を知りつつも老いていく自分の指で弾き続けたわけですから。いつぞや、ラジオで、北山修が語ってましたが、いくら好きな曲でも始終繰り返し歌い続けないといけないプロシンガーの世界は耐え切れない(からやめた)、と。クラシックの世界も同様に不調であろうと好きでない曲目であろうと一期一会の演奏で評価される厳しさがある、と堀米ゆず子談。
聴衆の我々は、そんな試練の中から紡ぎだされる1音1音を、いい加減な気持ちで聴いてはいけないし、とてもじゃない、批評なぞ安易にするべきではないでしょうね。
夭逝した、デニス・ブレイン、ジネット・ヌブー、遠くはモーツァルトにしても、存命していたらなんて邪推はせず、残してくれたものだけでも拝聴して幸せなわれわれです。ちょっと、大げさですかな・・・。
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