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ヘルマン・アーベントロート(Hermann Abendroth)|シューマン:チェロ協奏曲 イ短調 作品129
シューマン:チェロ協奏曲 イ短調 作品129
(Cello)ポール・トルトゥリエ:ヘルマン・アーベントロート指揮 ライプティッヒ放送交響楽団 1955年9月3日録音
Schumann:Cello Concerto in A minor, Op.129 [1.Nicht Zu Schnell]
Schumann:Cello Concerto in A minor, Op.129 [2.Langsam]
Schumann:Cello Concerto in A minor, Op.129 [3.Sehr Lebhaft]
「よい作品」がないのならば自分で書いてみよう!!
色々な数え方はあると思うのですが、一般的にこのシューマンの作品と、ハイドン、ドヴォルザークの作品を持って「三大チェロ協奏曲」と呼ばれるようです。ドヴォルザークのチェロ協奏曲がこのジャンルにおける屈指の名曲であることに異論はないと思うのですが、残る2曲については色々意見もあることでしょう。
しかしながら、このシューマンのコンチェルトから立ち上るロマン的な憂愁と独奏チェロの見事な技巧を聞くと、少なくともこちらのは同意できそうかな・・・と思ってしまいます。
元々、シューマンがこの作品を書こうと思ったきっかけは彼が「評論家」であったことに起因します。
当然、ドヴォルザークのコンチェルトは未だ存在しなかった訳なので、評論家であるシューマンから見れば、このジャンルというのはあまりにもすぐれた作品がないことを憂えたらしいのです。そして、普通の「評論家」ならば、そう思ったところでそれだけで終わるのですが、作曲家でもあったシューマンは、「それならば、自分でそのすぐれた作品」を書いてみよう」と思ってしまった次第なのです。
さらに付け加えれば、その「作曲家」でもあるシューマンは、ロマン派の数ある作曲家の中でもとびきりすぐれた作曲家でもあったので、そうやって決心して生み出したこのチェロ協奏曲もまた、その決心に違わぬ「傑作」となった次第なのです。
まあ、言葉にしてみれば簡単なのですが、それを実際にやり遂げるとなると常人のなし得ることではありません。
このコンチェルトは、シューマンが期待をこめて乗り込んだデュッセルドルフにおける最初の大作です。
それだけに、チェロの憂愁に溢れた響きが一つの特徴でありながらも、音楽全体としては明るく晴れやかな力に満ちています。
そして、この音楽の価値に確信を持っていたシューマンは、何人かのチェリストに演奏上の問題に関わる幾つかの助言(チェリストにとってあまりにも難しすぎる!!)は受け入れたのですが、その他の音楽の本質に関わるようなアドバイスは全て無視したのでした。そう言う助言の大部分は、当時の聴衆にとって「聞きやすく」するための助言だったようなのですが、その様な助言は全て無視したのです。結果として、当時の聴衆にとっては容易に受け入れられる音楽ではなかったので好意を持って受け入れられることはなかったようですが、歴史はシューマンが正しかったことを如実に証明することになるのです。
なお、この作品は3楽章構成なのですが、全体は途切れのないひとまとまりとして演奏されます。
アーベントロートの凄み
このレコードは中古レコードではなくて、私が若い頃に買い込んだレコードの中に眠っていました。
話はそれますが、その頃から現在に至るまで3回引っ越しをしたのですが、よくぞあんなにもかさばるアナログ・レコードを保存し続けたものだと我ながら感心します。
さらにどうでもいい話ですが、若い頃は給料は現金払いだったので、給料日にもらった給料袋はそのまま鞄の中につっこんでいて、何故か次の給料日が近くなるとその給料袋はカラに近くなっていたものです。何しろ、私が新星堂のレコード屋に顔を出すと店長がすぐに顔を出して挨拶をしてくれたものです。
もしも、途中で給料が現金払いから銀行振り込みに変わっていなければ、結婚を決めたときに貯金はゼロに近かったのではないかと思います。とは言え、結婚してからすぐに判明したのは貯金額は妻の方が何倍も多かったと言うことです。
おかげで家計管理は彼女にがになうことになり(当然にして賢明なる判断でした)、それ以後私は鵜飼いの鵜になりましたが、おかげで退職後の今も何とか暮らしていけています。
おそらくはそんな生活をおくっていた頃にこんなレコードも買い込んでいたのでしょう。
アナログ・レコードのデジタル化をこの夏(2021年)にはじめたことで久しぶりに聞いてみた演奏なのですが、あらためてアーベンロートという指揮者の凄みを認識しました。
気づいてみればヘルマン・アーベントロートの録音は今まで一つも取り上げていなかったことに気づき、漸くにしてチャイコフスキーの「悲愴」だけは紹介しました。しかし、こんなにも目配りが届いていなかったとは駄目ですね。
さらに、その次に取り上げようとしているのが協奏曲の伴奏というのですから、全く持ってよろしくありません。しかし、協奏曲の伴奏であるにもかかわらず、そこにはアーベントロートの意志が貫徹されているのでの、まあ、お許しください。
チェロ協奏曲のソリストはそれなりのビッグ・ネームであるポール・トルトゥリエなのですが主導権は疑いもなくアーベントロートが握っています。緩急、強弱の付け方はかなりユニークな感じがするのですが、それもまた確固とした信念だったようで、シューマンの作品に内包される情熱を描き出していきます。その強固な枠の中でトルトゥリエも激しい気迫を持って挑んでいます。
アーベントロートは1956年に亡くなっていますからこの録音はその前年と言うことになります。しかし、そこには「衰え」というものはほとんど感じられず、その統率力には驚かされます。そして、そのオケをコントロールする力はソリストにまで及んでいるのです。
ピアノ教祖曲のソリストはフリードリヒ・ヴューラーなのですが、このピアニストについてはほとんど知ることはありません。調べてみると、若い頃はシェーンベルクやヒンデミット、バルトーク、プロコフィエフなどの同時代の音楽を積極的に取り組んだようで、晩年はどちらかと言えば教育活動に尽力したようです。
この録音当時は50代ですでに軸足は教育活動に移っていた頃だったようです。そう言うこともあってか、チェロのトルトゥリエのようにアーベントロートの主観性に触発されて激しい気迫をあふれ出すと言うよりは、アーベントロートという枠の中にきれいにおさまっているような感じです。
ですから、聞いていて面白いのは疑いもなくチェロ協奏曲の方なのですが、アーベントロートの持つ強い主観性と驚くべきオケのコントロール能力を味わうにはピアノ協奏曲の方がいいのかもしれません。
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