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チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23

(P)アルトゥール・ルービンシュタイン エーリッヒ・ラインスドルフ指揮 ボストン交響楽団 1963年3月5日録音

Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [1.Andante non troppo e molto maestoso?Allegro con spirito ]

Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [2.Andantino semplice?Allegro vivace assai ]

Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [3.Allegro con fuoco ]


ピアノ協奏曲の代名詞

ピアノ協奏曲の代名詞とも言える作品です。
おそらく、クラシック音楽などには全く興味のない人でもこの冒頭のメロディは知っているでしょう。普通の人が「ピアノ協奏曲」と聞いてイメージするのは、おそらくはこのチャイコフスキーかグリーグ、そしてベートーベンの皇帝あたりでしょうか。

それほどの有名曲でありながら、その生い立ちはよく知られているように不幸なものでした。

1874年、チャイコフスキーが自信を持って書き上げたこの作品をモスクワ音楽院初代校長であり、偉大なピアニストでもあったニコライ・ルービンシュタインに捧げようとしました。
ところがルービンシュタインは、「まったく無価値で、訂正不可能なほど拙劣な作品」と評価されてしまいます。深く尊敬していた先輩からの言葉だっただけに、この出来事はチャイコフスキーの心を深く傷つけました。

ヴァイオリン協奏曲と言い、このピアノ協奏曲と言い、実に不幸な作品です。

しかし、彼はこの作品をドイツの名指揮者ハンス・フォン・ビューローに捧げることを決心します。ビューローもこの曲を高く評価し、1875年10月にボストンで初演を行い大成功をおさめます。
この大成功の模様は電報ですぐさまチャイコフキーに伝えられ、それをきっかけとしてロシアでも急速に普及していきました。

第1楽章冒頭の長大な序奏部分が有名ですが、ロシア的叙情に溢れた第2楽章、激しい力感に溢れたロンド形式の第3楽章と聴き所満載の作品です。



音楽の本質を掴んだ演奏

ルービンシュタインと言うピアニストに対するイメージの少なくない部分は吉田秀和氏の「世界のピアニスト」における記述によって作られたと見て間違いないでしょう。
そこで吉田氏は、ルービンシュタインのコンサートにおけるアメリカの聴衆の熱狂を「それは恍惚ととか陶酔とかではない。もっとすさまじい、麻痺と凶熱の奇妙な混交で、おそらくは拳闘の試合とかプロレスの競技場とかにこそふさわしい」と書いていました。そいて、何度もアンコールで呼び出されて最後は両手を握りあわせて頭上に高く掲げるルービンシュタインの姿を「世界選手権を獲得したボクサーか何かを連想させた」と書いていました。

しかし、吉田氏の文章をよく読んでみると、ルービンシュタインのピアノは「聞く人を幸福にさせる」とも書いていますすし、何よりも彼のピアノからは「音楽を感じさせる」とも書いていますから、決して貶しているわけではありませんでした。
ただルービンシュタインを取り巻くアメリカにおける熱狂を伝えただけなのです。

しかし、何故か知りませんが、ルービンシュタインはそう言うショーマンシップだけの中味のないピアニストみたいな見方が出来上がってしまったのは残念な話です。

もっとも、彼は長生きし、そして亡くなる直前までピアニストであり続けました。
そして、そういう最晩年の衰えた演奏を「老巨匠の枯れた芸」と持ち上げる輩がいるので、そういう衰えた姿でもって多くの人が彼を判断してしまった不幸もあったのでしょう。

しかし、こういうチャイコフスキーなどを聴くと、彼はショーマンシップからは遠く離れたところにいたピアニストであることがよく分かります。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲と言えば、ホルンによって導かれる冒頭部分はあまりにも有名です。そしてピアニストにとっても、そこへ強烈な和音で登場してくるところから腕の見せ所、聞かせどころが満載です。たいていのピアニストは、ここで己の持てる力をフルに発揮するのが、ショーマンシップなどから縁の遠いピアニストであっても、それが普通のやり方なのです。

ところが、ルービンシュタインはこの冒頭の聞かせどころを、驚くほど大人しくサラリと通り過ぎていきます。肩には何の力も入っていません。
そして、逆に、この冒頭の聞かせどころが終わった途端に気が抜けたようになってしまうピアニストが多いのに、ルービンシュタインはそこからやおらしっかりとピアノを響かせはじめます。

これはまた面妖な、と思うのですが、少し考えてみればこのルービンシュタインのやり方こそが音楽の形としては正しいことに気づかされます。
あの冒頭の華やかな部分は、音楽全体から見ればただの「序奏」です。
音楽の本質的な部分はそれが終わって一段落した後に出てくる第1主題以降です。音楽の形からすれば、刺身のつまの序奏に全力を投入して、その後の肝心のソナタの部分で気が抜けていたのでは本末転倒も良いところです。冒頭部分だけが派手派手で、その後はなんだかつまんない音楽がだらだら続いて何時の間に終わっちゃったみたいな演奏が多いのも事実なのです。
ついでながら私見を述べれば、この竜頭蛇尾になってしまう東西の横綱はチャイコフスキーのピアノ協奏曲とシュトラウスの「ツァラトゥストラはこう語った」でしょう。

ところが、ルービンシュタインはそう言う竜頭蛇尾とは真逆の演奏になっています。
第2楽章に入っても、その深い叙情性にはしっかりとした芯が通っていて惰弱になることは全くありませんし、最終楽章のコーダでも、「最後に一発かませばみんなブラボーだ!!」みたいなゲスな下心は全くありません。そう言う意味で、数あるチャイコフスキーのピアノ協奏曲の録音の中でも屈指の名演と言い切って良いでしょう。

最後についでながら、そう言うルービンシュタインを支えるラインスドルフとボストン響のサポートは一切の甘さを排した厳しさに徹していて、実に持って見事なものです。

この演奏を評価してください。

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