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ヨハン・シュトラウス:ワルツ「春の声」,op.410(Johann Strauss:Voices of Spring Op.410)

ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

Johann Strauss:Voices of Spring Op.410


社交の音楽から芸術作品へ

父は音楽家のヨハン・シュトラウスで、音楽家の厳しさを知る彼は、息子が音楽家になることを強く反対したことは有名なエピソードです。そして、そんなシュトラウスにこっそりと音楽の勉強が出来るように手助けをしたのが母のアンナだと言われています。後年、彼が作曲したアンネンポルカはそんな母に対する感謝と愛情の表れでした。
やがて、父も彼が音楽家となることを渋々認めるのですが、彼が1844年からは15人からなる自らの楽団を組織して好評を博するようになると父の楽団と競合するようになり再び不和となります。しかし、それも46年には和解し、さらに49年の父の死後は二つの楽団を合併させてヨーロッパ各地へ演奏活動を展開するようになる。
彼の膨大なワルツやポルカはその様な演奏活動の中で生み出されたものでした。そんな彼におくられた称号が「ワルツ王」です。
たんなる社交場の音楽にしかすぎなかったワルツを、素晴らしい表現力を兼ね備えた音楽へと成長させた功績は偉大なものがあります。

ヨハン・シュトラウス II:ワルツ「春の声」 Op.410


冒頭のメロディーの知名度は「美しき青きドナウ」に肩を並べます。それもそのはずで、この作品はもともと声楽曲として作られたからです。ですから、難しい構成などよりは旋律優位の、美しく分かりやすい音楽になっていて、現在では歌を省いた短縮バージョンの管弦楽版で演奏されるのが一般的です。
有名曲ですから、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートでもよく取り上げられるのですが、声楽入りのバージョンで演奏されたのはカラヤンがお気に入りのキャスリーン・バトルを招いたときだけです。ちなみに、ニューイヤーコンサートにゲストを招いたのは後にも先にもこれ一回だけのようですから、もしかしたら「帝王カラヤン」のごり押しだった可能性が大です。
カラヤンがニューイヤーコンサートの指揮台に立ったのはこの一回だけなのは不思議だなと思っていたのですが、もしかしたらこの時に「これからは止めとこう」みたいな話になったのかもしれません。

なお、この作品が作られたきっかけは、リストと同席したパーティーで、その家の女主人とリストが即興で演奏したピアノ演奏に対して、シュトラウスがその演奏をもとに即興的にワルツを作って聴かせるみたいな「お遊び」からだと伝えられています。そして、そんなお遊びのやりとりを繰り返しているうちに次第に一つのワルツがまとまってきて、ついにシュトラウスが最後に弾きはじめたのがこの「春の声」だと言われています。
そして、そのワルツには、シュトラウスの新しい恋が芽生えたときであり、さらにその恋が3度目の結婚へと発展しつつあったときでもあるので、その幸福感がこの音楽には満ちあふれることになりました。


ホーレンシュタインのウィンナーワルツ

ホーレンシュタインは1962年にリーダーズ・ダイジェスト(Reader's Digest)で、ウィンナーワルツをまとまって録音しています。


  1. ヨハン・シュトラウス:「こうもり」序曲

  2. ヨハン・シュトラウス:ワルツ「酒、女、歌」, Op.333

  3. ヨハン・シュトラウス:常動曲, Op.257

  4. ヨハン・シュトラウス:アンネン・ポルカ, Op.117

  5. ヨハン・シュトラウス:ワルツ「ウィーン気質」,Op.354

  6. ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲, Op.437

  7. ヨハン・シュトラウス:トリッチ・トラッチ・ポルカ, Op.214

  8. ヨハン・シュトラウス:ワルツ「春の声」,op.410

  9. ヨハン・シュトラウス:ワルツ「芸術家の生活」, Op.316

  10. ヨハン・シュトラウス:ワルツ「美しく青きドナウ」,Op.314



ホーレンシュタインのウィンナー・ワルツというのはいまひとつピンとこなかったのですが、実際に聞いてみれば実に素晴らしくて驚かされてしまいました。なんだか、アンドレ・ナヴァラの時といい、最近は同じようなことばかり書いているような気がします。

このワルツを聞いていると、なんだか自分自身が気持ちよくワルツのステップを踏んで踊っているような気分になってきます。もちろん、私自身はダンスなどとは全く無縁な人なので全くの妄想に過ぎないのですが、ホーレンシュタインの音楽には、聞く人にそのような妄想を抱かせる力があります。
それは、彼のワルツがそういう妄想を抱かせるほどに美しくてなめらかな曲線によって造形されているからなのでしょう。
そして、もう一つ思い浮かぶ妄想は、フィギア・スケートのスケーティングのように自分の思うがままに美しくて完璧な曲線を描けているような錯覚です。

ワルツはどれもこれもホーレンシュタインという職人の手によって極限まで滑らかに磨き上げられています。そして、その手によって描き出された曲線と肌触りのなんと優美でやさしいこと!
しかし、磨き上げるといっても、それは例えばセルとクリーブランド管のようなクリスタルなものとは異なります。磨き上げられていることは磨き上げられているのですが、そこにはクリスタルな精緻さではなくて、どこまでいっても人肌が持つ温かさを失わないのです。

たしかに、ホーレンシュタインはセルと同じようにオーケストラを完ぺきにコントロールして、音楽的表現においていかなる曖昧さも残していません。
しかし、セルのウィンナーワルツを聞いているとまるで士官学校の舞踏会のようだと感じたのですが、ホーレンシュタインの場合はやはりやんごとなき上流階級の所公開の舞踏会です。もちろん、そんな舞踏会などとは全く縁のない人生だったのですから、それもまた全くの妄想なのですが、きっとそれほど間違ってはいないように思います。

そこには、オケがウィーンのオケだということもうまくプラスに作用しているのでしょう。
とはいえ、あの性悪のオーケストラをその持ち味を最大限にいかしつつ、よくぞここまでコントロールしたものです。

ホーレンシュタインといえばマイナーな小道を進んだ指揮者ではあるのですが、決して見落としてはいけない指揮者の一人だと再確認させられました。

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