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ヤッシャ・ホーレンシュタイン(Jascha Horenstein)|ヨハン・シュトラウス:ワルツ「酒、女、歌」, Op.333(Johann Strauss:Wine, Women and Song, Op.333)
ヨハン・シュトラウス:ワルツ「酒、女、歌」, Op.333(Johann Strauss:Wine, Women and Song, Op.333)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)
Johann Strauss:Wine, Women and Song, Op.333
社交の音楽から芸術作品へ
父は音楽家のヨハン・シュトラウスで、音楽家の厳しさを知る彼は、息子が音楽家になることを強く反対したことは有名なエピソードです。そして、そんなシュトラウスにこっそりと音楽の勉強が出来るように手助けをしたのが母のアンナだと言われています。後年、彼が作曲したアンネンポルカはそんな母に対する感謝と愛情の表れでした。
やがて、父も彼が音楽家となることを渋々認めるのですが、彼が1844年からは15人からなる自らの楽団を組織して好評を博するようになると父の楽団と競合するようになり再び不和となります。しかし、それも46年には和解し、さらに49年の父の死後は二つの楽団を合併させてヨーロッパ各地へ演奏活動を展開するようになる。
彼の膨大なワルツやポルカはその様な演奏活動の中で生み出されたものでした。そんな彼におくられた称号が「ワルツ王」です。
たんなる社交場の音楽にしかすぎなかったワルツを、素晴らしい表現力を兼ね備えた音楽へと成長させた功績は偉大なものがあります。
ワルツ「酒、女、歌」, Op.333
「酒と女と歌を愛さぬ者は、生涯馬鹿で終わる」という言葉で有名な詩はマルティン・ルターの格言だと言われて来ました。しかし、マルティン・ルターの著作の中にそのような記述を見つけることは出来ず、おそらくは18世紀のジョセフ・ベルの手になる詩であると考えられています。
ただし、その作品には先行する詩があって、それは17世紀のヨハン・クリストフ・ローバーの「音楽の歌を軽蔑する人 彼は一生馬鹿になるだろう」と言われています。
つまりは、シュトラウスが生きたオーストリアでは良く耳にする表現だったようです。
それにしても、この歌詞は爛熟期をむかえつつあったオーストリア帝国の気分にピッタリのものだったのでしょう。
そして、ウィーン男声合唱団のために作曲した9つの合唱作品の1つが「酒、女、歌」だったのですが、この作品がとりわけ多くの聴衆に受け入れられました。
1869年2月2日の「仮装音楽会」で初演されて大成功を収め、巡礼者の仮装をしていたシュトラウス2世と妻は歓呼に応えるために何度も立ち上がってお辞儀をしなければならなかったと伝えられています。そして、一部の批評家もそれが「美しき青きドナウ」と同じくらいの人気作品になるだろうと褒め讃えたそうです。
合唱版は「天にまします神様が、いきなりブドウの若枝を生えさせた」という歌詞から始まり、第1ワルツで「さあ注げ、それ注げ……フランケン・ワインをたっぷり注げよ、なければ愛しのオーストリア産」と歌いあげる[2]。のちにオーケストラ版に改められ、3月16日にハンガリー王国の首都ペシュトでシュトラウス楽団によって披露された
また、ヨハン・シュトラウスの友人であったブラームスもこの作品がとりわけお気に入りだったようで、このワルツを彼の弦楽四重奏曲(Op.51)の中で引用しているほどです。
そして、この「酒、女、歌」はのちにオーケストラ版に改められ、3月16日にハンガリー王国の首都ブダペストでシュトラウス楽団によって披露されて、それもまた大成功をおさめ、今ではその管弦楽版の方が一般的になっています。
シュトラウス2世の作品の中では並はずれて長い導入部をもっているのが異例の作品で、その長大な序奏が全体の半分近くを占めていました。しかし、さすがに長すぎると考える指揮者が多かったようで、実際は大部分をカットして序奏末尾のマーチ部分から演奏されることが多いようです。
ホーレンシュタインのウィンナーワルツ
ホーレンシュタインは1962年にリーダーズ・ダイジェスト(Reader's Digest)で、ウィンナーワルツをまとまって録音しています。
- ヨハン・シュトラウス:「こうもり」序曲
- ヨハン・シュトラウス:ワルツ「酒、女、歌」, Op.333
- ヨハン・シュトラウス:常動曲, Op.257
- ヨハン・シュトラウス:アンネン・ポルカ, Op.117
- ヨハン・シュトラウス:ワルツ「ウィーン気質」,Op.354
- ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲, Op.437
- ヨハン・シュトラウス:トリッチ・トラッチ・ポルカ, Op.214
- ヨハン・シュトラウス:ワルツ「春の声」,op.410
- ヨハン・シュトラウス:ワルツ「芸術家の生活」, Op.316
- ヨハン・シュトラウス:ワルツ「美しく青きドナウ」,Op.314
ホーレンシュタインのウィンナー・ワルツというのはいまひとつピンとこなかったのですが、実際に聞いてみれば実に素晴らしくて驚かされてしまいました。なんだか、アンドレ・ナヴァラの時といい、最近は同じようなことばかり書いているような気がします。
このワルツを聞いていると、なんだか自分自身が気持ちよくワルツのステップを踏んで踊っているような気分になってきます。もちろん、私自身はダンスなどとは全く無縁な人なので全くの妄想に過ぎないのですが、ホーレンシュタインの音楽には、聞く人にそのような妄想を抱かせる力があります。
それは、彼のワルツがそういう妄想を抱かせるほどに美しくてなめらかな曲線によって造形されているからなのでしょう。
そして、もう一つ思い浮かぶ妄想は、フィギア・スケートのスケーティングのように自分の思うがままに美しくて完璧な曲線を描けているような錯覚です。
ワルツはどれもこれもホーレンシュタインという職人の手によって極限まで滑らかに磨き上げられています。そして、その手によって描き出された曲線と肌触りのなんと優美でやさしいこと!
しかし、磨き上げるといっても、それは例えばセルとクリーブランド管のようなクリスタルなものとは異なります。磨き上げられていることは磨き上げられているのですが、そこにはクリスタルな精緻さではなくて、どこまでいっても人肌が持つ温かさを失わないのです。
たしかに、ホーレンシュタインはセルと同じようにオーケストラを完ぺきにコントロールして、音楽的表現においていかなる曖昧さも残していません。
しかし、セルのウィンナーワルツを聞いているとまるで士官学校の舞踏会のようだと感じたのですが、ホーレンシュタインの場合はやはりやんごとなき上流階級の所公開の舞踏会です。もちろん、そんな舞踏会などとは全く縁のない人生だったのですから、それもまた全くの妄想なのですが、きっとそれほど間違ってはいないように思います。
そこには、オケがウィーンのオケだということもうまくプラスに作用しているのでしょう。
とはいえ、あの性悪のオーケストラをその持ち味を最大限にいかしつつ、よくぞここまでコントロールしたものです。
ホーレンシュタインといえばマイナーな小道を進んだ指揮者ではあるのですが、決して見落としてはいけない指揮者の一人だと再確認させられました。
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