Home|
シューリヒト(Carl Schuricht)|R.シュトラウス:アルプス交響曲, Op.64
R.シュトラウス:アルプス交響曲, Op.64
カール・シューリヒト指揮:シュトゥットガルト放送交響楽団 1955年1月4日~7日録音
Richard Strauss:Eine Alpensinfonie, Op.64
リヒャルト・シュトラウスの交響詩の終着点

この作品は、リヒャルト・シュトラウスにとって演奏会用の管弦楽作品としては最後のものです。また、「アルプス交響曲」と命名はされていますが、多楽章からなる作品ではなくて、規模は大きくても全体が一つの楽章として演奏されるので、一連の交響詩のライン上にある作品と考えられます。
リヒャルト・シュトラウスは至る所で、リストが提唱した交響詩のイメージに疑問を呈しています。
リストの交響詩は「前奏曲」に典型的に現れているような「闇から光明」へというものです。そこでは、ラマルティーヌの詩による「人生は死への前奏曲」というイメージが音楽全体を貫いています。つまりは、まずは一つの文学的なイメージ、詩的な観念が存在して、そこに音楽が寄り添うというのがリストの交響詩でした。
それに対して、リヒャルト・シュトラウスはあくまでも、音楽だけで全てを表現しようとしました。
もちろん、楽譜にはいくつかの標題が記入されていますが、それは「親切な傍注」のようなものであり、たとえ、そんなものが無くても全ては音楽を聴けば分かるというのがリヒャルト・シュトラウスの交響詩だったのです。
ですから、そんなリヒャルト・シュトラウスの最後の管弦楽曲となった「アルプス交響曲」では夜明けからスタートして頂上を極めるクライマックス、そして雷鳴と嵐に打たれながらも無事に下山するまでの一日が、ものの見事に「音」だけで表現されているのです。
そして、これは当然の帰結となるのですが、そう言う描写に既存の楽器だけでは不足だと判断すれば、そこに特殊な楽器を導入することをリヒャルト・シュトラウスは躊躇いませんでした。この作品では、風の音、雷鳴の音、果ては羊の鳴き声を出す楽器までが指定され、さらには「ヘッケルフォーン」というリヒャルト・シュトラウス自身が作らせた楽器までが用いられているのです。
そう言う意味でも、ここにはリヒャルト・シュトラウスの交響詩の終着点が示されているのです。
なお、この作品は一つの楽章として演奏されるのですが、以下のように5つの部分からできているというのが一般的な見方です。
- 序奏:出発前の情景(夜明け)
- 第1部:頂上に着くまで(森への立ち入り-小川に沿って-滝-幻影-花咲く草原-山の牧場-道に迷って-氷河)
- 第2部:頂上での気分(幻-霧が立ちこめて-太陽が次第に霞んで-悲しげな歌-嵐の前の静けさ)
- 第3部:下山(雷鳴と嵐-下山)
- 結尾:到着の感動(日没-夜)
細部の細部までクリア
シューリヒトによるリヒャルト・シュトラウスの録音はそれほど多くはないような気がします。
考えてみれば、リヒャルト・シュトラウスはオペラの人であり、交響詩もまた「オーケストラによるオペラ」と言うべき世界でした。それに対して、シューリヒトはヨーロッパの指揮者としては異例なほどにオペラとの縁がほとんどなかった指揮者でした。シューリヒトはその事を晩年には随分と悔やんでいたそうですが、彼の指揮者としての人生は骨の髄までコンサート指揮者でした。
そう言う意味では、両者はそれほど相性が良いとは言えなかったのかもしれません。
それだけに、戦後に「アルプス交響曲」と「ツァラトゥストラはかく語りき」という二つの大作を録音してくれていたことは幸いなことでした。最初はライブ録音かと思ったのですが環境雑音がないので、おそらくは放送用録音だったと推察されます。
そして、それを聞いてみて、あらためてシューリヒトはオペラの人ではなかったんだなと再確認した次第です。
それは、言葉をかえれば、「オーケストラによるオペラ」と言うべきシュトラウスの交響詩をコンサート指揮者の観点から構築すればどうなるのかと言うことを示してくれているような演奏だったからです。
おそらく、作曲家であるシュトラウスからすればあまり気に入らないでしょうが、そこには大袈裟な身振りやパフォーマンスなどは一切排除された、音の構築物としての「交響詩」が極めてスッキリとした姿で提示される事になります。やろうと思えばいくらでも派手に盛りあげることが可能であり、そして、作曲家も真その事を期待しているであろう作品を敢えてこのように演奏をするというのは、まさに、シューリヒトの真骨頂が発揮されていると言うべきでしょう。
そして、注目すべきは、こういう方向性で演奏するときにオーケストラがヘボだと演奏もまたどうしようもないほどのショボイものになってしまうのですが、シュトゥットガルト放送交響楽団の正確無比なアンサンブルがあれば、細部の細部までがシューリヒトの意志を汲んでクリアに表現されきっていることです。
そして、そう言う正確無比なアンサンブルでありながら、響きにはどこか木目の温かみを感じさせる魅力も持っているのです。これは、どこかウィーンフィル等とも通じるところがあります。
昨今のオケで物足りないのは音色に魅力がないことです。おそらくアンサンブル能力はこの時期のシュトゥットガルト放送交響楽団よりも優れているかもしれないのですが、その大部分が無味無臭の蒸留水のようなひびきです。
それにしても、あらためて感じさせられたのはシュトゥットガルト放送交響楽団の素晴らしさです。
聞くところによると、このオケは給料も良くて拘束時間も短いので、多くのオケマンにとっては憧れのオケらしいです。まあ、それだけの好待遇に見合うだけの仕事は昔からしていたと言うことでしょう。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
5121 Rating: 5.4/10 (134 votes cast)
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2025-12-11]

ベートーヴェン:六重奏曲 変ホ長調, Op.71(Beethoven:Sextet in E-Flat Major, Op.71)
ウィーン・フィルハーモニー木管グループ:1950年録音(Vienna Philharmonic Wind Group:Recorded on 1950)
[2025-12-09]

ベートーベン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」作品125(歌唱:ルーマニア語)(Beethoven:Symphony No.9 in D minor, Op.125 "Choral")
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 (S)Emilia (Ms)マルタ・ケスラー、(T)イオン・ピソ (Bass)マリウス・リンツラー (Chorus Master)ヴァシリ・パンテ ジョルジュ・エネスコ・フィル合唱団 (Chorus Master)カロル・リトヴィン ルーマニア放送合唱団 1961年8月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra (S)Emilia Petrescu (Ms)Martha Kessler (T)Ion Piso (Bass)マMarius Rintzler (Chorus Master)Vasile Pintea Corul Filarmonicii "George Enescu”(Chorus Master) arol Litvin Corul Radioteleviziunii Romane Recorded on July, 1961)
[2025-12-07]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」 ヘ短調 Op.57(Beethoven: Piano Sonata No.23 In F Minor, Op.57 "Appassionata")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1955年11月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on November, 1955)
[2025-12-06]

ラヴェル:夜のガスパール(Ravel:Gaspard de la nuit)
(P)ジーナ・バッカウアー:(語り)サー・ジョン・ギールグッド 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Read)Sir John Gielgud Recorded on June, 1964)
[2025-12-04]

フォーレ:夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74(Faure:Nocturne No.7 in C-sharp minor, Op.74)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)
[2025-12-02]

ハイドン:弦楽四重奏曲第32番 ハ長調, Op.20, No.2, Hob.3:32(Haydn:String Quartet No.32 in C major, Op.20, No.2, Hob.3:32)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)
[2025-11-30]

チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58(Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年11月13日~16日&21日録音(Constantin Silvestri:French National Radio Orchestra Recorded on November 13-16&21, 1959)
[2025-11-28]

ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major ,Op.93)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年5月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on May, 1961)
[2025-11-26]

ショパン: ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21(Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21)
(P)ジーナ・バッカウアー:アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Con)Antal Dorati London Symphony Orchestra Recorded on June, 1964)
[2025-11-24]

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調, Op.127(Beethoven:String Quartet No.12 in E Flat major Op.127)
ハリウッド弦楽四重奏団:1957年3月23日,31日&4月6日&20日録音(The Hollywood String Quartet:Recorded on March 23, 31 & April 6, 20, 1957)