クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




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ヘンデル:水上の音楽 組曲第3番 ト長調, HVW 350

ピエール・ブーレーズ指揮 ハーグ・フィルハーモニー管弦楽団 1964年録音



Handel:Water Music Suite3, HWV 350 [1.(Sarabande)-Menuet-(Sarabande)]

Handel:Water Music Suite3, HWV 350 [2.Rigaudon]

Handel:Water Music Suite3, HWV 350 [3.(Minuet)]

Handel:Water Music Suite3, HWV 350 [4.(Allegro)]


機会音楽

「水上の音楽」は名前の通り、イギリス国王の船遊びのために、そして「王宮の花火の音楽」は祝典の花火大会のために作曲された音楽です。

<追記>
一般的には、1715年のテムズ川での王の舟遊びの際にこの曲を演奏した、というエピソードが有名ですが、最近の研究では事実ではないと考えられているようです。
ただし、その2年後の舟遊びでは演奏されたことは間違いないようです。
<追記終わり>

クラシック音楽の世界では、こういう音楽は「機会音楽」と呼ばれます。機会音楽とは、演奏会のために作曲されるのではなく、何かの行事のために作曲される音楽のことをいいます。それは純粋に音楽を楽しむ目的のために作られるのではなく、それが作られるきっかけとなった行事を華やかに彩ることが目的となります。ですから、一般的には演奏会のための音楽と比べると一段低く見られる傾向があります。

しかしながら、例え機会音楽であっても、その創作のきっかけが何であれ、出来上がった作品が素晴らしい音楽になることはあります。その一番の好例は、結婚式のパーティー用に作曲されたハフナー交響曲でしょうか。
そして、このヘンデルの2つの音楽も、典型的な機会音楽でありながら、今やヘンデルの管弦楽作品を代表する音楽としての地位を占めています。

機会音楽というのは、顧客のニーズにあわせて作られるわけですから、独りよがりな音楽になることはありません。世間一般では、作曲家の内なる衝動から生み出された音楽の方が高く見られる傾向があるのですが、大部分の凡庸な作曲にあっては、そのような内的衝動に基づいた音楽というのは聞くに堪えない代物であることが少なくありません。それに対して、モーツァルトやヘンデルのようなすぐ入れた才能の手にかかると、顧客のニーズに合わせながら、音楽はそのニーズを超えた高みへと駆け上がっていきます。
そして、こんな事を書いていてふと気づいたのですが、例えばバッハの教会カンタータなどは究極の機会音楽だったのかもしれないと気づきました。バッハが、あのようなカンタータを書き続けたのは、決して彼の内的な宗教的衝動にもとづくのではなく、それはあくまでも教会からの要望にもとづくものであり、その要望に応えるのが彼の職務であったからです。そう考えれば、バッハの時代から、おそらくはベートーベンの時代までは音楽は全て基本的に機会音楽だったのかもしれません。

なお、「水上の音楽」は楽譜は出版されず、自筆譜もほとんどが消失しているために、曲の配列や演奏形態も確定されていません
以下のような19曲と3つの組曲に分ける形態が一般的なものとされています。

第1組曲 ヘ長調 HWV 348(9曲)

  1. 第1曲「序曲(ラルゴ - アレグロ)」

  2. 第2曲「アダージョ・エ・スタッカート」

  3. 第3曲「(アレグロ) - アンダンテ - (アレグロ)」

  4. 第4曲「メヌエット」

  5. 第5曲「エアー」

  6. 第6曲「メヌエット」

  7. 第7曲「ブーレ」

  8. 第8曲「ホーンパイプ」

  9. 第9曲(アンダンテ)



第2組曲 ニ長調 HWV 349(5曲)

  1. 第1曲(序曲)

  2. 第2曲「アラ・ホーンパイプ」

  3. 第3曲「ラントマン」

  4. 第4曲「ブーレ」

  5. 第5曲「メヌエット」



第3組曲 ト長調 HWV 350(5曲)

  1. 第1曲(メヌエット)

  2. 第2曲「リゴードン」

  3. 第3曲「メヌエット」

  4. 第4曲(アンダンテ)

  5. 第5曲「カントリーダンスI・II」




「なんだかなぁ」みたいな気持ちが拭いきれなかったのですが・・・。

創作されたものと、それを創作した人物の人間性とは直接関係はありません。それは分かっているのですが、こいつだけはどうしても許せない!と言う狭量な思いが拭いきれない存在が私の中にいることは否定できません。
その最右翼が私の中ではバレンボイムなのですが、それでもワーグナーやドビュッシーなんかと較べるとはるかにましであることは分かっています。そこを基準点にすれば、ワーグナーやドビュッシーなんかは聴いちゃいけないですよね。(^^;
分かってはいるのですが、来年のウィーンフィルのニューイヤー・コンサートがバレンボイムだと聞いてげっそりしている自分がいることも事実です。

つまりは、50年くらいの年月では生乾きで、ワーグナーやドビュッシーのように100年以上もたてば乾いて臭いもしないと言うことなのかもしれません。

どうして、こんな事を急に言い出したのかというと、女性関係以外でどうにも好きになれないタイプがこのブーレーズなのです。ただし、バレンボイムのように蛇蝎のごとく嫌っているわけではなくて、何となく納得のいかない部分があるんですね。
それは例えてみれば、学生時代は「造反有理(アホみたいなスローガンだと思いますが・・・)!」とか「世界同時革命!」などと叫んでいながら、いつの間にかこっそりと学生運動から離脱して大企業に就職していて、今は部長職あたりの席にふんぞり返っているような雰囲気でしょうか。実際、そう言うタイプの人間って意外と多くて、もちろんそれはそれで何も文句を言われる筋合いはないのですが、どこかに「なんだかなぁ」みたいな気持ちが拭いきれないのも事実なのです。

ブーレーズと言えば前衛音楽の旗手として頭角を現し、古い音楽を批判して「オペラ座を爆破せよ」等と息巻いてました。その他にも「シェーンベルクは死んだ」 「ジョリヴェは蕪」 「ベリオはチェルニー」等とかなり過激な発言を繰り返していました。
もちろん、前衛音楽などと言うものは20世紀のクラシック音楽界におけるもっとも愚劣な試みだったと私は思っているので、そう言うスタンスから巨匠指揮者への転身は「裏切り」ではなくて「回心」と判断してもいいのですが、それでもどこかに「なんだかなぁ」という気持ちが拭いきれないのです。
さらに、彼の巨匠指揮者への重要なステップとなったマーラー演奏などを聞くと、それはクリーブランド管で彼が間近に見ていたであろうセルの演奏のパクリとしか思えないあたりも、その「なんだかなぁ」感を強くします。

しかし、今回1964年にハーグ・フィルを指揮してヘンデルの「水上の音楽」を録音しているレコードに巡り会っていささか驚かされました。
調べてみれば、1958年に病気のハンス・ロスバウトの代役として南西ドイツ放送交響楽団を指揮したのが彼の初めて指揮活動だったようです。そして、きちんとしたポストを得たのがクリーヴランド管弦楽団の首席客演指揮者で、1967年の頃でした。
そうのあたりを頭に入れてこの1964年の録音を聞いてみると、この聡い男はいつまでも「オペラ座を爆破せよ」では先はないと思い始めたのかもしれません。実際、クリーヴランド管弦楽団でポストを得たこの年には来日して「トリスタンとイゾルデ」を指揮していますから「オペラ座を爆破せよ」どころではありません。

ただし、彼の音楽的能力は認めざるを得ません。
正直言って、この「水上の音楽」はモダン楽器を使った数ある演奏の中では極上の部類に属するものでしょう。ブーレーズがヘンデルの、それも言ってみれば機会音楽であるような作品を指揮していたこと自体が驚きだったのですが、これほどスッキリと爽やかに演奏された「水上の音楽」には心底感心させられました。

そう言えばセルも「水上の音楽」を録音しているのですが、それは絢爛豪華な「ハーティ版」だったのに対して、ブーレーズは3つの組曲からなる「クリュザンダー版」を使用しています。おそらく、セルが「クリュザンダー版」を使用すればこういう感じの演奏になるのかなとも思いますが、もしかしたらもう少しこれよりは取り澄ました表情になるのかもしれません。
後に、アーノンクールがこういう音楽をモダン楽器で取り上げるようになるのですが、最初はブーレーズの若い頃の演奏と言うことで、そう言うある種の主張があるのかと思ったのですが、あまりにもまともで、あまりにも立派にして美しい音楽が紡ぎ出されているので逆に驚かされてしまいました。

そう思えば、彼の変貌は「裏切り」ではなくて「回心」だったのでしょうか。
それとも、若い頃の過激な物言いは世間の注目を集めるための「韜晦」であって、本音はこちらにあったのでしょうか。(^^v

なお、余談ながら、一部にブーレーズの解釈と演奏は見事だがオケはハーグ・フィルという二流オケなのが残念という声を散見します。
それは、ここではっきりと否定しておきましょう。オッテルローの薫陶を受けたこの時代のハーグ・フィルの実力はコンセルトヘボウのオケと較べても遜色のないものでした。それは音色だけでなく、合奏能力に於いても決してひけをとらないレベルでした。
この録音の成功のかなり大きな部分はそう言うハーグ・フィルの能力に負っていることは間違いありません。

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