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アンセルメ(Ernest Ansermet)|シューマン:マンフレッド序曲 作品115
シューマン:マンフレッド序曲 作品115
エルネスト・アンセルメ指揮 スイスロマンド管弦楽団 1965年4月録音
Schumann:Manfred Overture, Op115
流浪の旅を続けるマンフレッド
バイロンの詩劇「マンフレッド」に触発されて作曲されたもので、序曲と15の場面かな成り立っています。しかし、序曲だけは非常に有名であるのに対して、それに続く15の音楽が演奏されることはほとんどありません。
やはり、オペラでもなければオラトリオでもない、「詩劇」というスタイルが今の時代にはマッチしないのでしょうか。
また、バイロンの「マンフレッド」も、今ではどの程度のポピュラリティがあるのかも疑問です。少なくとも、日本でこの題名を聞いてシューマンの序曲を思い出す人はいても、バイロンの作品を思い出せる人は少数でしょう。
流浪の旅を続けるマンフレッドが、かつて捨て去った女性(アスタルテ)の霊と地下の国で会い、その許しを得ることで救われるという話です。
そして、このバイロンの作品全体を総括するような音楽がこの序曲なのですが、それはストーリーを標題音楽的にまとめるのではなくて、物語の中でシューマンが感じとったマンフレッドの姿を純粋器楽の形式で表現したものになっています。
アンセルメの演奏は極めて安定していて明晰です。それはもう、明晰すぎるほどに明晰です。
シューマン:交響曲第1番 変ロ長調 「春」作品38の演奏へのコメントです
アンセルメにとってシューマンの交響曲というのはメインのプログラムではないでしょう。
モノラル時代に1番、ステレオになってから2番を録音をしているのですが、おそらくそれだけでしょう。
しかし、シューマンの交響曲というのは今でこそそれなりに評価が定着してロマン派を代表する作品として位置づいているのですが、50~60年代においては演奏される機会が少なく、特に、第2番の交響曲などは「聞いたこともない」という人が多数を占めるようなマイナー作品だったようです。
そして、それは評価が確立した今も似たような面があって、演奏会などで取り上げられる機会はそれほど多くはありません。
やはり、オーケストレーションなどに問題が多く「舵の壊れた船を操作」するような難しさが伴うからでしょう。
その事を思えば、このアンセルメの演奏は極めて安定していて明晰です。それはもう、明晰すぎるほどに明晰です。
ただ、問題なのは、シューマンの交響曲にとって隅から隅まで明晰に響くというのは「褒め言葉」なのかどうかです。
シューマンの特長は色んな楽器を次から次へと重ねてしまって、結果としていささかくすんだような中間色の響きになってしまうことです。それはオーケストレーションの常識から言えばあまり好ましいものではないので、多くの指揮者はそれぞれのやり方でスコアに「手を入れる」のがなかば常識となっていました。
このアンセルメの明晰な響きも、間違いなくアンセルメ流のやり方でスコアに手を入れている可能性が高いと思われます。
とは言え、私には録音とスコアを照らし合わせて、どこをどのように「手を入れて」いるのかを聞き取れるようなスキルは持ち合わせていません。しかし、昨今の「原典尊重」でスコアに手を入れていない演奏を聞き比べると響きの質は明らかに異なりますし、その「違い」は演奏のクオリティという範疇にとどまらないように思われます。
そして、「明晰」であることが必ずしも「褒め言葉」にならないのは、その中間色のくすんだ響きをどのように捉えるかという問題があるからです。
アンセルメが活躍しした時代は、その響きはシューマンの「杜撰」さの産物だと考えられていました。
しかし、最近はその様な響きによって描き出される世界にこそシューマンの本質があると考えられるようになってきています。原典尊重は常に錦の御旗なのですから当然と言えば当然のスタンスですし、実際魅力ある世界を描き出してくれるのも事実なのです。
しかし、それでもなお、今の時代にあってもスコアに手を入れることを躊躇わない指揮者もいますから、この問題はそれほど簡単にけりがつくものではないようです。
ただし、同じように手を入れると言っても、その入れ方には随分と差があります。
「原典尊重の鬼」みたいないわれ方をされるセルもまたスコアに手を入れていますが、ここまでクッキリシャッキリとした響きにはなっていません。
スコアに手を入れているのかどうかは確認できていませんが、コンヴィチュニーなどは実にくすんだ響きを聞かせてくれるので、このアンセルメの演奏と較べるとまるで別の作品のようにすら聞こえてしまいます。
そして、このアンセルメの響きに一番近しいのはパレーの演奏でしょう。
両者ともに根っこはフランスですね。
「ドイツ」を「フランス」がかみ砕けばこうなるという見本のようなものでしょうか。
なお、交響曲第1番は1951年のモノラル録音なのですが、録音エンジニアは「Victor Olof」なので、驚くほどの切れ味のある音で演奏がとらえられています。
「Victor Olof」といえば、DECCAの表看板だった「ffrr」というハイファイ録音技術の開発したことで知られているのですが、それ以上に、録音における録音会場の重要性を真っ先に認識したことこそ評価すべき人物でしょう。DECCAは「Victor Olof」の耳で確認して「OK」が出た会場しか録音には使いませんでしたから、「Victor Olof」は「DECCAの音を作った人」と称されました。
ただ、残念なのは、ステレオ録音の時代にはいると彼が録音の現場から離れてしまったことなのですが、そでも「Kenneth Wilkinson」などがその伝統を引き継いでいきました。
ちなみに、1965年録音の交響曲第2番の録音エンジニアは「James Lock」です。
彼もまた「手を叩くだけでホールの音響特性が判断できる」と言われる耳の持ち主でした。こういう連中がゴロゴロいたのがDECCAの凄いところだったのです。
ただし、そう言う優れた録音陣によって提供された演奏と、来日時の演奏との落差が大きかったので、「アンセルメの演奏は録音によるマジック」だと言われて評判を下げてしまったのは気の毒でした。来日時にはすでに音楽監督を退任していましたし、その翌年には亡くなってしまったのですから、到底本調子と言える状態ではなかったようです。
しかし、その事がこの国では彼の評価押し下げる要因となりつづけたのですから、この世の中、何が功となり、何が躓きの石となるか分かったものではありません。
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