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ベーム(Karl Bohm)|R.シュトラウス:祝典前奏曲 ハ長調 Op.61
R.シュトラウス:祝典前奏曲 ハ長調 Op.61
カール・ベーム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1963年4月録音
R_Strauss:Festliches Praludium, Op. 61
巨大編成がつくり出す響きを聴くだけでも値打ちがある
リヒャルト・シュトラウスの管弦楽組曲というと「交響詩」が真っ先に思い浮かびます。それは、保守的な父親の影響もあってシューマンやブラームスの強い影響のもとで音楽を書いていた人が、ある日突然リスト=ワーグナー派に改宗したことによって書き始めた音楽群でした。
ですから、シュトラウスの管弦楽作品と言えば、ブラームスなどの強い影響下にある初期様式の作品と、「交響詩」という枠の中で独自のスタイルを築き上げていったそれ以後の作品群に分かれます。
しかし、彼にはそれ以外に、注文に応じて作曲した機会音楽というものがあります。
シュトラウスの作品番号1は「祝典行進曲」なのですが、これは12才の時の作品なのでさすがに注文があって書いたものではないでしょうが、これ以外に作品84、作品87、作品178の「祝典行進曲」というものが残されています。これなどは間違いなく注文仕事でしょうし、なかには「ヴァイマル公の金婚式のための祝典音楽」などと言う作品も残されています。
それ以外にも、あまり知られていないようなのですが、1934年のベルリン・オリンピックの開会式で演奏された「オリンピック賛歌」はシュトラウスに委嘱されたものでした。ついでながら、日本からの依頼で「皇紀2600年奉祝曲」というのも作っています。
シュトラウスの管弦楽作品としてはあまり省みられることの少ないジャンルなのですが、彼の若い頃から晩年まで切れ目なく創作され続けた分野でもあります。
とは言え、機会音楽は機会音楽ですから、「芸術」的にはほとんど顧みられない作品群と言うことにはなります。しかしながら、そんな中にあって、ウィーンのコンツェルトハウスのこけら落としのために書かれた「祝典前奏曲」は少しは注意を払ってもいい作品かも知れません。
何故ならば、それは5管編成!!のオーケストラとパイプ・オルガン、さらにはバンダの金管群を擁するブッチャキ・サウンドが堪能できるからです。
まずは弦楽合奏からして5管編成に対抗するために、「ヴァイオリン2部(20+20)、ヴィオラ2部(12+12)、チェロ2部(10+10)、コントラバス12」という超巨大な弦楽7部を指定しているのです。
管楽器に関してはホルンが8人、それ以外は基本的に4人であって、打楽器に関しては二人で8台のティンパニーを叩くことを想定しています。ここに、可能であれば12人のトランペットをパンダとして舞台裏に配置し、そこにパイプ・オルガンが加わるのです。この巨大編成がつくり出す響きを聴くだけでも値打ちがあるというものです。
曲の冒頭ではパイプ・オルガンが荘重に鳴り響きそこに金管群が華やかに加わって祝典的な雰囲気を盛りあげますし、最後もパンダのトランペット部隊が参加して大いに盛り上がるのですが、中間部分は弦楽器だけで静かに音楽が流れていきます。その辺りの匙加減が実に上手くて、ひたすら派手派手だけの祝典音楽にならないあたりがシュトラウスの腕の冴えなのでしょう。
オケの隅々にまで己の意志を貫徹させているベームの姿が浮かび上がってきます
ベームとリヒャルト・シュトラウスの間には強い結びつきがありました。そして、彼の死後、その評価がどれほど低下しても、彼が残したリヒャルト・シュトラウスの歌劇、および管弦楽作品に関してはその価値を失うことはないでしょう。
特に、1963年にベルリンフィルを相手に録音した「祝典前奏曲」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」「ドン・ファン」「サロメの踊り」は注目に値します。それともう一つ、58年にもベルリンフィルと「ツァラトゥストラはこう語った」を録音していますね。
それらの録音は、レガート・カラヤンに染まりきる前のベルリンフィルの美質を最大限に生かした演奏と録音でした。
ベームの録音をまとめて聞いてみると、一つの特徴が浮かび上がってきます。
それは、どの録音を聞いても、オケの響きが透明で、なおかつしなやかな「剄さ」を持っていることです。「つよさ」というのは「強さ」ではなくて「剄さ」という漢字を当てたくなるような「つよさ」です。
「剄さ」とは体の奥底から大きなエネルギーとしてあふれ出していくようなイメージです。
その反面として、ベームの演奏するリヒャルト・シュトラウスからは、シュトラウスらしい官能性や艶のようなものは希薄です。いや、もっと正確に言えば、そう言うものは求めていけません。
ベームにとっては、相手がリヒャルト・シュトラウスであっても、その音楽は常に「男気」があふれているのです。
おそらく、オケからこのような響きを出すためにネチネチとした細かい指示を与え続け、その要求が満足できるまでしつこく粘り続けた事は間違いありません。
何故ならば、オケの精緻な響きで聞かせるベームのような指揮者にとって必要なのは細部の丹念な積み上げです。そういう指揮者にとって必要なのはネチネチとした細かい指示を与え続け、その要求が満足できるまでしつこく粘り続ける体力と精神的スタミナこそが重要です。
そして、その様なしつこいまでの注文に応えきれる高い機能を持ったオケがベームには必要でした。
ベームという人は基本的には腕利きの職人だったんだと思います。
そんな優れた職人の技が遺憾なく発揮されているのが、この一連の録音であることは間違いありません。
壮年期の覇気に満ちたこれらの録音では、オケの隅々にまで己の意志を貫徹させているベームの姿が浮かび上がってきます。
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