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オッテルロー(Willem van Otterloo)|ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
ウィレム・ヴァン・オッテルロー指揮 ハーグ・レジデンティ管弦楽団 1959年7月10日~12日録音
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [1.Reveries - Passions. Largo - Allegro agitato e appassionato assai - Religiosamente]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [2.Un bal. Valse. Allegro non troppo
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [3.Scene aux champs. Adagio]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [4.Marche au supplice. Allegretto non troppo]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [5.Songe dune nuit de sabbat. Larghetto - Allegro]
ベートーベンのすぐ後にこんな交響曲が生まれたとは驚きです。
私はこの作品が大好きでした。
「でした。」などと過去形で書くと今はどうなんだと言われそうですが、もちろん今も大好きです。なかでも、この第2楽章「舞踏会」が大のお気に入りです。
よく知られているように、創作のきっかけとなったのは、ある有名な女優(アイルランド出身の女優、ハリエット・スミッソン)に対するかなわぬ恋でした。
相手は、人気絶頂の大女優であり、ベルリオーズは無名の青年音楽家ですから、成就するはずのない恋でした。結果は当然のように失恋で終わり、そしてこの作品が生まれました。
しかし、凄いのはこの後です。
時は流れて、立場が逆転します。
女優は年をとり、昔年の栄光は色あせています。
反対にベルリオーズは時代を代表する偉大な作曲家となっています。
ここに至って、漸くにして彼はこの恋を成就させ、結婚をします。
やはり一流になる人間は違います。私などには想像もできない「しつこさ」です。(^^;
しかし、この結婚はすぐに破綻を迎えます。理由は簡単です。ベルリオーズは、自分が恋したのは女優その人ではなく、彼女が演じた「主人公」だったことにすぐに気づいてしまったのです。
恋愛が幻想だとすると、結婚は現実です。そして、現実というものは妥協の積み重ねで成り立つものですが、それは芸術家ベルリオーズには耐えられないことだったでしょう。「芸術」と「妥協」、これほど共存が不可能なものはありません。
さらに、結婚生活の破綻は精神を疲弊させても、創作の源とはなりがたいもので、この出来事は何の実りももたらしませんでした。
狂おしい恋愛とその破綻が「幻想交響曲」という実りをもたらしたことと比較すれば、その差はあまりにも大きいと言えます。
凡人に必要なもは現実ですが、天才に必要なのは幻想なのでしょうか?それとも、現実の中でしか生きられないから凡人であり、幻想の中においても生きていけるから天才ののでしょうか。
私君も、この舞踏会の幻想の中で考え込んでしまいます。
なお、ベルリオーズはこの作品の冒頭と格楽章の頭の部分に長々と自分なりの標題を記しています。参考までに記しておきます。
感受性に富んだ若い芸術家が、恋の悩みから人生に絶望して服毒自殺を図る。しかし薬の量が足りなかったため死に至らず、重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見る。その中に、恋人は1つの旋律となって現れる…」
第1楽章:夢・情熱
「不安な心理状態にいる若い芸術家は、わけもなく、おぼろな憧れとか苦悩あるいは歓喜の興奮に襲われる。若い芸術家が恋人に逢わない前の不安と憧れである。」
第2楽章:舞踏会
「賑やかな舞踏会のざわめきの中で、若い芸術家はふたたび恋人に巡り会う。」
第3楽章:野の風景
「ある夏の夕べ、若い芸術家は野で交互に牧歌を吹いている2人の羊飼いの笛の音を聞いている。静かな田園風景の中で羊飼いの二重奏を聞いていると、若い芸術家にも心の平和が訪れる。
無限の静寂の中に身を沈めているうちに、再び不安がよぎる。
「もしも、彼女に見捨てれられたら・・・・」
1人のの羊飼いがまた笛を吹く。もう1人は、もはや答えない。
日没。遠雷。孤愁。静寂。」
第4楽章:断頭台への行進
「若い芸術家は夢の中で恋人を殺して死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。その行列に伴う行進曲は、ときに暗くて荒々しいかと思うと、今度は明るく陽気になったりする。激しい発作の後で、行進曲の歩みは陰気さを加え規則的になる。死の恐怖を打ち破る愛の回想ともいうべき”固定観念”が一瞬現れる。」
第5楽章:ワルプルギスの夜の夢
「若い芸術家は魔女の饗宴に参加している幻覚に襲われる。魔女達は様々な恐ろしい化け物を集めて、若い芸術家の埋葬に立ち会っているのだ。奇怪な音、溜め息、ケタケタ笑う声、遠くの呼び声。
”固定観念”の旋律が聞こえてくるが、もはやそれは気品とつつしみを失い、グロテスクな悪魔の旋律に歪められている。地獄の饗宴は最高潮になる。”怒りの日”が鳴り響く。魔女たちの輪舞。そして両者が一緒に奏される・・・・」
「良い演奏」とはどういうものなのだろと考え込んでしまう
オッテルローは1951年にベルリンフィルとこの作品を録音しています。あの録音と較べれば、これはもう全く別人かと思うほどに様相を異にしています。
その違いは、簡潔に言えば、51年のベルリンフィルとの演奏が一人称で語られていたとすれば、この59年のハーグとの演奏では三人称で語られていると言うことです。おそらく、演奏の完成度という点で言えば、ステレオ録音のメリットもあって、ハーグとの録音の方に軍配が上がるでしょう。51年のベルリンフィルは、確かにこの時代のベルリンフィルに特徴的な重厚で野太い響きが堪能できて魅力的です。しかし、合奏精度という点ではかなり荒っぽい部分が見受けられるます。しかし、それはオケだけの責任ではなくて、指揮者であるオッテルローがそう言う精度よりは熱く一人称で語ることに重点をおいているからでもあります。
確かに、あのベルリンフィルとの演奏で第3楽章「野の風景」の不気味さは半端ではありません。それはもう、最初のシーンからすでに殺意が感じられ、さらに恐ろしいのは殺害されて亡霊となったスミッソンが遠雷とともに登場する場面です。そこでは、すでに遠雷ではなく、その雷は罪を犯してしまった己を狙うかのように轟いてくるのです。
そして、そう思って振り返ってみれば、殺意にまでつながるスミッソンへの思いはすでに第2楽章の「舞踏会」の場でうごめきはじめていたことに気づかされるのです。
そして、それに続く第4楽章はかつて「軽い」と感じたのですが、今一度聞き直してみれば、そのお祭り騒ぎのような「断頭台への行進」は、やがて祝典的ともいえる雰囲気に盛り上がっていくので、それはそれで逆に恐くなってくるのです。そして、最終楽章の「ワルプルギスの夜の夢」で鳴り響くあまりにもしょぼい「鐘の音」は、そのショボさ故にこの一人称語りにはピッタリだったのかもしれません。
あの、どこかの山の中にある名もないお寺のしょぼい鐘のような響きは、まさに愚かな己の人生を暗示してるかのように聞くことも可能です。
それと較べれば、この手兵であるハーグのオケとの演奏ではそう言うかつてぼベルリンフィルとの録音でさらけ出した一人称語りを完全に封印して、この上もなく客観的にこの薬物中毒の青年の事を物語っていきます。
51年のベルリンフィルとの録音では、疑いもなくオッテルローはベルリオーズに内在する「狂気」と同期していました。しかし、そんな事はいつもいつも可能なわけではありません。
プロの指揮者がプロとして仕事をして行くにはこのようなハーグのオケとの演奏のようなスタンスこそが普通でしょうし、そうでなければその稼業は長く続けることなどは出来ません。
しかしながら、そう言うことは十分に分かっていながら、贅沢にひたりすぎた我が儘勝手な聞き手は、どこかで不満の声を上げてしまうのです。
もちろん、ベルリオーズの幻想交響曲を聞くときに、あのオッテルローの51年録音のような演奏を一番最初に聞いてはいけないことも分かって言います。疑いもなく、最初に聞くべきはこの様なハーグのオケとの演奏です。
それも分かっていながら、それでも「良い演奏」とはどういうものなのだろと考え込まされる二つの録音ではあります。
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よせられたコメント
2020-02-02:ごんじー
- 昨年はベルリンフィルの「幻想」をFLACアップいただき有難うございました。お礼が遅れて申し訳ありません。
さて、ハーグ盤聞かせていただきました。当盤が発売されていたころ、批評家の諸氏は何かとベルリン盤と比較して高評価をしていなかったことを思い出します。しかし、比較するのではなく、これはこれでステレオという録音環境の進歩もあって指揮者の意図が生々しく伝わっつていい演奏かと思います。幻想」は指揮者冥利に尽きる楽曲なのかなー オッテルローは手練手管駆使して溌剌と演奏しているようです。
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