Home|
メンゲルベルグ(Willem Mengelberg)|チャイコフスキー:交響曲第4番
チャイコフスキー:交響曲第4番
メンゲルベルク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1929年6月録音
Tchaikovsky:交響曲第4番「第1楽章」
Tchaikovsky:交響曲第4番「第2楽章」
Tchaikovsky:交響曲第4番「第3楽章」
Tchaikovsky:交響曲第4番「第4楽章」
絶望と希望の間で揺れ動く切なさ

今さら言うまでもないことですが、チャイコフスキーの交響曲は基本的には私小説です。それ故に、彼の人生における最大のターニングポイントとも言うべき時期に作曲されたこの作品は大きな意味を持っています。
まず一つ目のターニングポイントは、フォン・メック夫人との出会いです。
もう一つは、アントニーナ・イヴァノヴナ・ミリュコーヴァなる女性との不幸きわまる結婚です。
両方ともあまりにも有名なエピソードですから詳しくはふれませんが、この二つの出来事はチャイコフスキーの人生における大きな転換点だったことは注意しておいていいでしょう。
そして、その様なごたごたの中で作曲されたのがこの第4番の交響曲です。(この時期に作曲されたもう一つの大作が「エフゲニー・オネーギン」です)
チャイコフスキーの特徴を一言で言えば、絶望と希望の間で揺れ動く切なさとでも言えましょうか。
この傾向は晩年になるにつれて色濃くなりますが、そのような特徴がはっきりとあらわれてくるのが、このターニングポイントの時期です。初期の作品がどちらかと言えば古典的な形式感を追求する方向が強かったのに対して、この転換点の時期を前後してスラブ的な憂愁が前面にでてくるようになります。そしてその変化が、印象の薄かった初期作品の限界をうち破って、チャイコフスキーらしい独自の世界を生み出していくことにつながります。
チャイコフスキーはいわゆる「五人組」に対して「西欧派」と呼ばれることがあって、両者は対立関係にあったように言われます。しかし、この転換点以降の作品を聞いてみれば、両者は驚くほど共通する点を持っていることに気づかされます。
例えば、第1楽章を特徴づける「運命の動機」は、明らかに合理主義だけでは解決できない、ロシアならではなの響きです。それ故に、これを「宿命の動機」と呼ぶ人もいます。西欧の「運命」は、ロシアでは「宿命」となるのです。
第2楽章のいびつな舞曲、いらだちと焦燥に満ちた第3楽章、そして終末楽章における馬鹿騒ぎ!!
これを同時期のブラームスの交響曲と比べてみれば、チャイコフスキーのたっている地点はブラームスよりは「五人組」の方に近いことは誰でも納得するでしょう。
それから、これはあまりふれられませんが、チャイコフスキーの作品にはロシアの社会状況も色濃く反映しているのではとユング君は思っています。
1861年の農奴解放令によって西欧化が進むかに思えたロシアは、その後一転して反動化していきます。解放された農奴が都市に流入して労働者へと変わっていく中で、社会主義運動が高まっていったのが反動化の引き金となったようです。
80年代はその様なロシア的不条理が前面に躍り出て、一部の進歩的知識人の幻想を木っ端微塵にうち砕いた時代です。
ユング君がチャイコフスキーの作品から一貫して感じ取る「切なさ」は、その様なロシアと言う民族と国家の有り様を反映しているのではないでしょうか。
実演で聞けば面白いのでしょうが・・・
私たちがメンゲルベルグという指揮者にたいして持っているイメージにもっとも近いのがこの一連のチャイコフスキーの録音です。それこそ、徹底的に細部にこだわっています。恣意的というか、主観的というか、自分が気に入ったフレーズがあると「見て、見て、ここにこんなに素敵な歌があるわよ!」という感じで歌いまくります。
おかげで、チャイコフスキーの交響曲が内包している西欧指向のスタイリッシュな側面が跡形もなく木っ端みじんに砕け散っています。有名なムラヴィンスキーによる録音と比べてみれば、同じ作品を演奏したとは思えないほどです。
この録音には次のようなエピソードが伝えられています。
それは、ロシアのペテルスブルグでメンゲルベルグがチャイコフスキーの交響曲を演奏したときのことです。そのコンサート会場にはチャイコフスキーの弟がきていて、その演奏に感動した彼はメンゲルベルグを自宅に招いたというのです。そして、その時にチャイコフスキーが残した自筆のスコアをじっくりと見る機会を彼は得たというのです。
そのスコアにはチャイコフスキーによる加筆や訂正がなされており、その時に得た知見がこの録音にいかされているというのです。ですから、メンゲルベルグはこの録音こそがチャイコフスキーの真の意志を忠実に反映したものだと主張していたそうです。
しかし、チャイコフスキーの交響曲というのは、古典派以降の交響曲の系譜の中では、とびきりと言っていいほどの強固な構造を持った作品です。一般に言われているような、甘いメロディが連続する雰囲気優先の音楽などではありません。チャイコフスキーの真の意志を反映してこんなにもグズグズになるなどとは考えられないことです。
おそらく、チャイコフスキーの弟に招かれたことは事実だったのでしょうが、それ以後のことは眉に唾をつけたくなります。
ただし、このような演奏は録音という形で固定されてしまい、何度も繰り返して聞くとなると次第に白けてしまいますが、一度や二度聞く分にはなかなか面白い演奏であることは事実です。ましてや実際のコンサートで聞けばかなりの感動ものだったと思います。さらに言えば、トスカニーニ以後の世代が強力に押しすすめた即物主義の芸術が徹底的に排除した「ロマン主義的歪曲」というものがいかなるものであったかの一端を教えてくれると言う意味でも貴重な録音だといえます。
ただし、能力のない指揮者たちがその後星の屑ほど量産した無味乾燥な即物的演奏と比べれば何倍も面白かったことは正直に告白しなければなりません。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
374 Rating: 5.0/10 (195 votes cast)
よせられたコメント
2010-02-03:メフィスト
- 僕は・・・この曲については、ロジェストヴェンスキー・ムラヴィンスキー・フルトヴェングラー・メンゲルベルクの順に聴きましたが・・・
メンゲルベルクの演奏には参ってしまいました。
古色蒼然たる、ホルンの響きからうっとりです。
2014-10-19:原 響平
- メンゲルベルクの面目躍如の演奏。先ずは音質だが、この演奏が録音されてたのは1929年と、とても高音質を望むべくもないが、非常にクリーアーな音質で、聴きやすい。特に金管(ホルン)の響きは、ゾクゾクする程のリアル感がある。演奏は、メンゲルベルク特有のリタルダントの多用と、甘美なポルタメントの連続で、とてもクラシック音楽の初心者には進められないが、メロディーを熟知した、中級者以上の人々に取っては、極上の演奏になるはずです。後年に、似たような演奏で、ストコフスキー指揮・アメリカ響の演奏も有るが、スケールが明らかに違います。私は、この演奏に出会ってからメンゲルベルクワールドにのめり込みました。今思えば、聴かなければ良かったと後悔してももう後戻りできない程のインパクトがあった演奏です。蚊の泣くようなSP音源と知りながら、どうしてもメンゲルベルクの演奏を聴きたくて、多くのCDを買い漁りました。これは、麻薬のようなものです。皆さんも、騙されたと思ってこの演奏を是非聴いて下さい。
【最近の更新(10件)】
[2025-08-16]

ブラームス:交響曲第2番 ニ長調, 作品73(Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73)
アルトゥール・ロジンスキ指揮:ニューヨーク・フィルハーモニック 1946年10月14日録音(Artur Rodzinski:New York Philharmonic Recorded on October 14, 1946)
[2025-08-14]

ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲&第3幕への前奏曲~従弟たちの踊りと親方達の入場(Wagner:Die Meistersinger Von Nurnberg Prelude&Prelude To Act3,Dance Of The Apprentices)
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2025-08-11]

エルガー:行進曲「威風堂々」第4番(Elgar:Pomp And Circumstance Marches, Op. 39 [No. 4 In G Major])
サー・ジョン・バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962年8月28日~29日録音(Sir John Barbirolli:Philharmonia Orchestra Recorded on August 28-29, 1962)
[2025-08-09]

バッハ:前奏曲とフーガ ホ短調 BWV.533(Bach:Prelude and Fugue in E minor, BWV 533)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)
[2025-08-07]

ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major , Op.93)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1958年録音(Joseph Keilberth:Hamburg Philharmonic Orchestra Recorded on 1958)
[2025-08-05]

ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調 Op. 115(Brahms:Clarinet Quintet in B Minor, Op.115)
(Clarinet)カール・ライスター:アマデウス四重奏団 1967年3月録音(Karl Leister:Amadeus Quartet Recorded on March, 1967)
[2025-08-03]

コダーイ: マロシュセーク舞曲(Zoltan Kodaly:Dances of Marosszek)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1962年11月15日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on November 15, 1962)
[2025-08-01]

ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」序曲(Johann Strauss:Die Fledermaus Overture)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)
[2025-07-30]

エルガー:行進曲「威風堂々」第3番(Elgar:Pomp And Circumstance Marches, Op. 39 [No. 3 in C Minor])
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年7月14日~16日録音(Sir John Barbirolli:New Philharmonia Orchestra Recorded on July 14-16, 1966)
[2025-07-28]

バッハ:前奏曲とフーガ ハ長調 BWV.545(Bach:Prelude and Fugue in C major, BWV 545)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)