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Home|ベイヌム(Eduard van Beinum)|シューベルト:交響曲第3番 ニ長調 D.200

シューベルト:交響曲第3番 ニ長調 D.200

エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1955年6月6日、9日録音

Schubert:Symphony No.3 in D major, D.200 [1.Adagio maestoso - Allegro con brio]

Schubert:Symphony No.3 in D major, D.200 [2.Allegretto]

Schubert:Symphony No.3 in D major, D.200 [3.Menuetto. Vivace - Trio]

Schubert:Symphony No.3 in D major, D.200 [4.Presto vivace]


初期シンフォニーの概要

シューベルトの音楽家としての出発点はコンヴィクト(寄宿制神学校)の学生オーケストラでした。彼は、そのオーケストラで最初は雑用係として、次いで第2ヴァイオリン奏者として、最後は指揮者を兼ねるコンサートマスターとして活動しました。
この中で最も重要だったのは「雑用係」としての仕事だったようで、彼は毎日のようにオーケストラで演奏するパート譜を筆写していたようです。

当時の多様な音楽家の作品を書き写すことは、この多感な少年に多くのものを与えたことは疑いがありません。

ですから、コンヴィクト(寄宿制神学校)を卒業した後に完成させた「D.82」のニ長調交響曲はハイドンやモーツァルト、ベートーベンから学んだものがつぎ込まれていて、十分に完成度の高い作品になっています。そして、その作品はコンヴィクト(寄宿制神学校)からの訣別として、そこのオーケストラで初演された可能性が示唆されていますが詳しいことは分かりません。

彼は、その後、兵役を逃れるために師範学校に進み、やがて自立の道を探るために補助教員として働きはじめます。
しかし、この仕事は教えることが苦手なシューベルトにとっては負担が大きく、何よりも作曲に最も適した午前の時間を奪われることが彼に苦痛を与えました。
その様な中でも、「D.125」の「交響曲第2番 変ロ長調」と「D.200」の「交響曲第3番 ニ長調」が生み出されます。

ただし、これらの作品は、すでにコンヴィクト(寄宿制神学校)の学生オーケストラとの関係は途切れていたので、おそらくは、シューベルトの身近な演奏団体を前提として作曲された作品だと思われます。
この身近な演奏団体というのは、シューベルト家の弦楽四重奏の練習から発展していった素人楽団だと考えられているのですが、果たしてこの二つの交響曲を演奏できるだけの規模があったのかは疑問視されています。

第2番の変ロ調交響曲についてはもしかしたらコンヴィクトの学生オーケストラで、第3番のニ長調交響曲はシューベルトと関係のあったウィーンのアマチュアオーケストラで演奏された可能性が指摘されているのですが、確たる事は分かっていません。

両方とも、公式に公開の場で初演されたのはシューベルトの死から半生ほどたった19世紀中葉です。
作品的には、モーツァルトやベートーベンを模倣しながらも、そこにシューベルトらしい独自性を盛り込もうと試行錯誤している様子がうかがえます。

そして、この二つの交響曲に続いて、その翌年(1816年)にも、対のように二つのシンフォニーが生み出されます。
この対のように生み出された4番と5番の交響曲は、身内のための作品と言う点ではその前の二つの交響曲と同じなのですが、次第にプロの作曲家として自立していこうとするシューベルトの意気込みのようなものも感じ取れる作品になってきています。

第4番には「悲劇的」というタイトルが付けられているのですが、これはシューベルト自身が付けたものです。
しかし、この作品を書いたとき、シューベルトはいまだ19歳の青年でしたから、それほど深く受け取る必要はないでしょう。
おそらく、シューベルト自身はベートーベンのような劇的な音楽を目指したものと思われ、実際、最終楽章では、彼の初期シンフォニーの中では飛び抜けたドラマ性が感じられます。

しかし、作品全体としては、シューベルトらしいと言えば叱られるでしょうが、歌謡性が前面に出た音楽になっています。
また、第5番の交響曲では、以前のものと比べるとよりシンプルでまとまりのよい作品になっていることに気づかされます。

もちろん、形式が交響曲であっても、それはベートーベンの業績を引き継ぐような作品でないことは明らかです。
しかし、それでも次第次第に作曲家としての腕を上げつつあることをはっきりと感じ取れる作品となっています。

シューベルトの初期シンフォニーを続けて聞いていくというのはそれほど楽しい経験とはいえないのですが、それでもこうやって時系列にそって聞いていくと、少しずつステップアップしていく若者の気概がはっきりと感じとることが出来ます。
この二つの作品を完成させた頃に、シューベルトはイヤでイヤで仕方なかった教員生活に見切りをつけて、プロの作曲家を目指してのフリーター生活に(もう少しエレガントに表現すれば「ボヘミアン生活」に)突入していきます。

そして、これに続く第6番の交響曲は、シューベルト自身が「大交響曲ハ長調」のタイトルを付け、私的な素人楽団による演奏だけでなく公開の場での演奏も行われたと言うことから、プロの作曲家をめざすシューベルトの意気込みが伝わってくる作品となっています。
また、この交響曲は当時のウィーンを席巻したロッシーニの影響を自分なりに吸収して創作されたという意味でも、さらなる技量の高まりを感じさせる作品となっています。

その意味では、対のように作曲された二つのセット、2番と3番、4番と5番の交響曲、さらにはプー太郎になって夢を本格的に追いかけ始めた頃に作曲された第6番の交響曲には、夢を追い続けたシューベルトの青春の、色々な意味においてその苦闘が刻み込まれた作品だったといえます。


「音楽は縦割りだ!」という強烈な推進力に満ちた世界

ベイヌムはベートーベンは1曲しか正規に録音しなかったのですが、シューベルトは3曲も録音しています。
ただし、その選択はかなり変わっています。


  1. 交響曲第3番 ニ長調 D.200 1955年6月6日、9日録音

  2. 交響曲第6番 ハ長調 D.589 1957年5月22日、25日録音

  3. 交響曲第8番 ロ短調 D.759 「未完成」 1957年5月22日、25日録音



1950年のライブ録音として第9番「グレート」が残っていますから、普通ならば「未完成」か「グレート」あたりを最初に取り上げると思うのですが、まず最初に取り上げたのは第3番で、その後に6番と「未完成」を取り上げています。
ベートーベンに関しても最初に2番から録音していますから、ベイヌムという人は非常に慎重な人だったのかもしれません。

時間はたっぷりあるんだから、まずは外堀から慎重に埋めていくというスタンスが感じ取れます。
ただし、ブラームスやブルックナーというのは手に入っているという自信があったのでしょう、そこは躊躇わずにどんどんと踏み込んでいっています。

まずは自信のあるところからしっかりと己の領域を確保していき、もう少し考えたいプログラムについては、慎重に歩を進めていくという感じです。
そして、それもまた、時間はたっぷりあると信じて疑わなかったからでしょう。

ただし、このシューベルトの3曲に関しては、2年の隔たりはベイヌムの立ち位置をかなり変えてしまっているように感じます。そして、その変化はかなり本質的な部分にまで及んでいるように見えます。

55年に録音した第3番は、51年のブラームスに刻み込まれていた姿がほぼそのままに残っています。
ただし、シューベルトらしく柔和に歌う部分になるとギヤを入れ替えて歌わせるあたりは少し変わったかなと思わせますが、それも通り過ぎればもとの強烈な推進力に満ちた世界に舞い戻っていきます。そして、そのオンとオフ(と言うのもおかしな表現ですが)の絶妙な切り替えがこの演奏の魅力になっていたりします。

それと比べると57年に録音された6番と未完成では、ベイヌムらしい推進力は後退して、余裕を持って音楽を歌わせる姿勢が前面に出てきます。

問題は、この変化をどう見るかなのですが、ブラームスの交響曲でもこれと似たような傾向が伺えました。
少なくない人たちはこの変化をベイヌムの衰え、下降線と見る人が多いのですが、私にはそれは「音楽は縦割りだ!」というスタンスから「歌うべきところはしっかり歌う」というスタンスに変わろうとする「経過」だと感じたモノです。

それと同じ事がこのシューベルトの録音を巡っても言えるのではないでしょうか。

そう言えば、カンテッリもまた私見によれば、トスカニーニの引退によってその呪縛から解き放たれたように音楽の姿を変えようと模索しているように見えました。
50年代前半は疑いもなく即物的な音楽が席巻した時代でした。
そして、そう言う縦割りの厳しい音楽から横へのラインも重視した歌う音楽に少しずつ変わろうとし始めた時期がその後半になってやってきたように思えます。

カラヤンもまた、50年代の前半はフィルハーモニア管でスタイリッシュでこの上もなく正統的なベートーベンを録音しました。
しかし、それが終着点でなかったことは明らかであり、彼もまた紆余曲折を経てドーピングとも言える横へ横へとつながっていく美学を確立していきました。

ベイヌムやカンテッリが普通に寿命を全うして活躍していれば、異論はあるかもしれませんが、カラヤンのような「歌う」方向の音楽を彼らなりに作っていったのではないかと妄想してしまうのです。

ただし、それはドーピング的なレガートしていく音楽ではなかったでしょう。
もしも、それがこのシューベルトの3番のように、オンとオフを巧妙に切り替えていく方向で音楽が進化していったのならば、随分と面白い音楽を聞かしてくれたかもしれないと妄想してしまいます。

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