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チャイコフスキー:交響曲第1番 ト短調 作品13 「冬の日の幻想」

ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1965年7月29日&30日録音

Tchaikovsky:Symphony No.1 in G minor Op.13 "Winter Daydreams" [1.Allegro tranquillo : Daydreams on a Winter Journey]

Tchaikovsky:Symphony No.1 in G minor Op.13 "Winter Daydreams" [2.Adagio cantabile ma non tanto : Land of Gloom, Land of Mist ]

Tchaikovsky:Symphony No.1 in G minor Op.13 "Winter Daydreams" [3.Scherzo. Allegro scherzando giocoso]

Tchaikovsky:Symphony No.1 in G minor Op.13 "Winter Daydreams" [4.Finale. Andante lugubre?Allegro moderato - Allegro maestoso]


交響曲を書くという「使命」

チャイコフスキーは交響曲を書くことを求められれていました。

何故ならば、遅れたロシアが音楽の分野でもヨーロッパに追いつくためには、ロシアの音楽家がクラシック音楽の王道である交響曲の分野において、ヨーロッパの音楽家が書いた交響曲に劣らないような「交響曲」を書くことが求められていたからです。

もちろん、チャイコフスキーに先んじて交響曲を書いたロシアの音楽家は存在しました。たとえば、チャイコフスキーの師であったアントン・ルビンシテインは既に3曲の交響曲を書き上げていました。
しかし、それらの交響曲は既存のスタイルをなぞっただけの亜流の音楽の域を出ることはなく(聞いたことがないので無責任な受け売りです^^;)、未だ助走にしか過ぎませんでした。

ですから、ルビンシテインが初代の院長となって創設されたペルブルグ音楽院の目的は遅れたロシアが音楽の面でもヨーロッパの水準にまで引き上げることでした。
そして、その音楽院の第1期生として最優秀の成績で卒業したのがチャイコフスキーだったのです。

ロシアの音楽界は、この若き天才にロシアが超えなければいけない課題を託したのです。
ですから、彼は1865年に音楽院を卒業すると、すぐに交響曲の作曲に取りかかります。そして、その翌年の1866年に第1番の交響曲「冬の日の幻想」を完成させます。
おそらく、今でもコンサートで取り上げられる事がある「ロシア初の交響曲」としてはこれが間違いなく第1番です。

しかし、この交響曲を示された師のルビンシテインは全く気に入らなかったようです。理由は単純です。ヨーロッパの交響曲が持っている強固な形式感が希薄だと感じたのです。
確かにこの交響曲は、明らかに交響詩的な性格を色濃く持っています。

ここにあるのは主題を構成する動機をもとに音楽を論理的にくみ上げていくのではなく、彼が愛したロシアの大地のイメージを次々と提示していくような音楽だったからです。いや、提示していくのではなくて、まるで聞き手がロシアの大地を逍遙していくかのような雰囲気の音楽なのです。
ルビンシテインにしてみれば、オレが期待したのはこんな音楽じゃない!と言いたかったのでしょうね。

しかし、そんな師の不興にかかわらず、これを評価して初演を実現してくれた人がいました。
それが、1866年に開校されたモスクワ音楽院の初代院長、ニコライ・ルビンシテインでした。
アントン・ルビンシテインの弟であり、偉大なピアニストとして名を残した人です。(ただし、チャイコフスキーのピアノ協奏曲を演奏不可としてはねつけたことでも有名です)

なお、この作品は何度か改訂され、現在はかなり整理整頓されて短くなった1874年版(第3稿)が決定版として採用されています。

交響曲第1番 ト短調 作品13 「冬の日の幻想」

  1. 第1楽章:「冬の旅の幻想」Allegro tranquillo - Poco piu animato

  2. 第2楽章:「陰気な土地、霧の土地」Adagio cantabile ma non tanto - Pochissimo piu mosso

  3. 第3楽章:Scherzo. Allegro scherzando giocoso

  4. 第4楽章:Finale. Andante lugubre - Allegro moderato - Allegro maestoso - Allegro vivo - Piu animato



至る所にロシアの民謡の旋律が使われていて、さらに最終楽章では革命的な学生運動の中で歌われた「花が咲いた」のメロディが使われています。
こういうあたりが師の不興を買った原因のようです。

交響曲第2番 ハ短調 作品17「小ロシア」

  1. 第1楽章:Andante sostenuto - Allegro vivo - Molt meno mosso

  2. 第2楽章:Andantino marziale,quasi moderato

  3. 第3楽章:Scherzo.Allegro molt vivace - L'istesso tempo

  4. 第4楽章:Finale.Moderato assai - Allegro vivo - Presto



この作品は1872ンの7月に着手し10月には完成し、さらに翌年の1月には初演がされています。
第1楽章と終楽章でウクライナなの民謡が用いられているので「ウクライナ」もしくは「小ロシア」と呼ばれるようになった作品ですが、それはチャイコフスキー自身が与えた標題ではありません。

ただし、この作品も後に大幅に手を加えられ、1879年の第2稿が決定版となっています。
1879年と言えばすでに彼の個性がはっきりと刻印されるようになった第4番の交響曲が書き上げられた翌年です。そして、その改訂は部分的な手直しというよりは「改作」に近いものだったので、番号は2番と若くても内容的にはかなり充実したものになっています。チャイコフスキーの初期シンフォニー3曲の中ではもっとも演奏機会の多い作品だと言えます。

交響曲第3番 ニ長調 作品29「ポーランド」

  1. 第1楽章:ntroduzione e Allegro: Moderato assai (Tempo di marcia funebre) - Allegro Billante

  2. 第2楽章:Alla tedesca: Allegro moderato e semplice

  3. 第3楽章:Andante elegiaco

  4. 第4楽章:Scherzo: Allegro vivo

  5. 第5楽章:Finale: Allegro con fuoco (Tempo di polacca)



最初の二つの交響曲では国民楽派的な音楽作りをしていたのですが、そこからの脱却を目指したのがこの第3番の交響曲でした。しかし、「思いはあっても力は及ばず」という事は否定できず、結果として非常に中途半端な作品になってしまいました。
口の悪い人に言わせれば、楽章が5つもある上に、その楽章どうしに何の統一感もなく、雑多な組曲のようだと言われたようです。

ただし、チャイコフスキー自身はこの新しい一歩の踏み出しに自信があったようで、その思わぬ不評には心底がっかりしたようです。そして、その落胆の大きさ故に、最初の2曲のような改訂作業も行われずに放置されてしまいました。
結果として、チャイコフスキーの初期シンフォニー3曲の中ではもっとも演奏機会の最も少ない作品になってしまいまいました。

なお、「ポーランド」という標題は大終楽章でポロネーズのリズムが用いられているために謂われ始めたようなのですが、これもまた言うまでもなくチャイコフスキーのあずかり知らぬ事です。


伝説の名録音?マーキュリー・レーベル

今もマーキュリーレーベルの録音は伝説です。
彼らのキャッチフレーズだった「You are there」は、決して誇大広告ではありません。
その録音の特徴は、とびきりの鮮明さと空間いっぱいに広がるダイナミックな響きの見事さにあると言えます。そして、この伝説の録音を実現したのが、録音史上最も耳の良いプロデューサーと言われたウィルマ・コザート(Wilma Cozart)でした。

彼女は、モノラルならば一本のマイク、ステレオ録音になってからは左右に一本ずつ追加して合計で3本というスタイルを厳格に守り続けました。いわゆるワンポイント録音という手法です。
3トラックに録音した音を2チャンネルにトラックダウンするだけですから、録音してからの調整などはほとんどできません。セッティングがある程度適当でも後から調整が可能なマルチマイク録音とは、思想が根本から違うのです。

ベストのマイクセッティングを得るためには天才的な閃きが求められます。

さらに言えば、この録音手法は演奏する側にも多大なるプレッシャーを与えます。
録音してからいかようにも料理できるマルチマイク録音と違って、ワンポイント録音の場合は演奏する側に対しても一切の誤魔化しを許さないからです。ですから、この録音で確認できるオケのクオリティには一切の誤魔化しはないのです。

コザートが実現した異次元レベルの鮮明さは顕微鏡で毛穴の奥までのぞき込むようなものでした。ですから、その録音はオケのちょっとした荒さであっても、その荒さを白日の下にさらけ出してしまいます。
これが、実に辛いところなのです。

ドラティの録音で言えば、彼が1949年から1960年まで音楽監督を務め、オーケストラビルダーとして鍛え上げていたミネアポリス交響楽団であっても、このコザートの録音だと荒さがどうしても耳についてしまうのです。言葉をかえれば、コザートはそのような部分についても、分かっていながらも一切の容赦も手抜きもしなかったのです。

ところが、オケがロンドン交響楽団なんかだと事情は全く変わってしまうのです。
ドヴォルザークのスラブ舞曲集(1958年4月録音 ミネアポリス交響楽団)では感じた荒さが、ほぼ同時期の録音である交響曲第8番(1959年 ロンドン交響楽団)ではそれほど強く感じないのです。そのことは、同じくロンドン交響楽団と録音したチャイコフスキーの4番(1960年)や6番(1960年)、ベートーベンの5番(1962年)、6番(1962年)、7番(1963年)などにも言えます。

くるみ割り人形(1962年7月)の時にも感じたのですが、この時期のロンドン交響楽団というのはただ者ではありません。
一部では、すでに落ち目になり始めていたという批評もあるのですが、この録音を聞いて落ち目と思うならばほとんどのオケはゴミ同然です。

ただし、録音芸術の面白さだなと思うのは、そう言う荒さが、逆に「You are there」というレーベルのキャッチフレーズを生々しく思い起こさせる場面もあると言うことです。それはスッピンの美女の方が上手な化粧で欠点を覆い隠した偽物の美女よりはよほど美しいと言うことです。

さらに、コザートは使用するマイクにはテレフンケンの最高級のものを使い(ステレオ録音になってからはノイマの「U-47(コンデンサ・マイクロフォン)」を3本使用)、さらには映像用の35ミリフィルムに特殊な磁気層を塗布した録音テープを使う特製の録音デッキまで用意するという徹底ぶりでした。
そして、そこまでして丁寧にすくい上げた録音データは、当然のようにいかなるリミッターやコンプレッサー、さらにフィルターなども一切使わずにそのままカッティングされました。

「初期のワンポイント録音は、その場の空気感をとらえてあまり音圧を上げずダイナミックレンジを広いまま入れるような音作りでした。・・・それらは超高級オーディオで聞けば最高にいい音でもあっても、一般リスナーには迫力不足になりかねないのも事実でした。ですから、現在はどちらのユーザーにも満足してもらえるように・・・両立を心がけています。」なんてことを恥ずかしげもなく語る現在の録音エンジニアに聞かせてやりたいほどの(まあ、知ってはいるでしょうが・・・^^;)徹底ぶりなのです。

このシンプルさへの徹底が、異次元とも言えるような鮮明さととんでもないダイナミックさを実現したのです。
しかし、そんなマーキュリーレーベルも60年代に入って大手フィリップスの傘下にはいると、コザートのような採算度外視の徹底ぶりは経営陣に嫌われて追い出される羽目になります。もう少し正確に言うと、1961年にフィリップス・レコードに買収され、1964年には「子育てに専念したい」というエレガントな建前でコザートは録音現場を去ります。
彼女が去ってからもマーキュリーの名前は残ったのですが、その内実は「伝説」と言われたレーベルのものとは全く別物になってしまいました。

ドラティは結果としてマーキュリーレーベルでチャイコフスキーの交響曲を全曲録音しているのですが、録音的には60年~61年にコザートが録音した後期の3曲と、65年の6月にコザードではないプロデューサー(Harold Lawrence)のもとで一気呵成に録音された初期の3曲とでは雰囲気がかなり変わってしまっています。ハロルド・ローレンスはコザートともにマーキュリーレーベルを支えてきた人物なので健闘はしているとは思うのですが、多くの人を驚かせた「凄み」は影を潜めています。


  1. チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 作品36:ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1960年6月17&18日録音

  2. チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64:ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1961年6月23日録音

  3. チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74「悲愴」:ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1960年6月17&18日録音




  1. チャイコフスキー:交響曲第1番 ト短調 作品13 「冬の日の幻想」:ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1965年7月26日~27日録音

  2. チャイコフスキー:交響曲第2番 ハ短調 作品17「小ロシア」:ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1965年7月29日~30日録音

  3. チャイコフスキー:交響曲第3番 ニ長調 作品29 「ポーランド」:ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1965年7月30日~31日録音



いつの時代も大手というのはつまらん存在です。
半世紀も前に、録音という芸術がすでにこのレベルにまで達していたことは心に留めておくべきでしょう。変化は必ずしも進歩ではありませんし、時が経れば物事は前へ進むものだと考えるのは愚か者だけです。

この演奏を評価してください。

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